ありがとう、ありがとう皆さん。
遅れました…。すみません、休日出勤めぇ(二度目)
「和睦締結の報告を一刻も早く王都に伝えるべくランガー騎士に早馬を命じたその翌朝、紅の騎士団、もといリグリエッタ姫とその取り巻きが、帰国中の我らの前に現れました」
フォーゲル団長が眉間に皺を寄せる。近衛騎士団の目を掻い潜って抜け出したのだから彼の心中も穏やかではないだろう。
「フォーゲル団長が近衛騎士団のフリッツ・バセット騎士を『モグラ』として潜入させていたのが幸運でした。彼の弟であるフリック・バセット騎士がランガー騎士より先に偵察させていた小隊の一員で、大陸一とも言われるバセット家の鼻がいち早く互いの存在を確認し、フリッツ騎士から情報を得られた事により早馬をランガー騎士に任命した方が良いと判断出来ました。彼女以外だと途中リグリエッタ姫に無茶な命令をされて王都にたどり着けなかった可能性がありましたから」
フォーゲル団長に目礼をすると、重々しく頷き返してきた。
「リグリエッタ姫達が王都街道を通ってこちらに向かっている以上、ランガー騎士と必ずどこかで遭遇するはずなので、彼女から和睦締結を説明させ、こちらに来るのは最早無意味だと理解してもらおうと考えました。ですが、万が一聞き入れていただけなかった場合を考えて先ほどの偵察小隊をランガー騎士達早馬小隊を距離をおいて追跡し、早馬小隊がリグリエッタ姫達と接触した後は先回りさせ、リグリエッタ姫のお考えを早馬小隊から報告を受けたうえでこちらに戻るよう指示しました。早馬小隊は夕方には紅の騎士団の夜営に到着しましたが、結果は、残念ながら最悪のものでした」
その場の全員が大きくため息をつく。皆、わかってはいたが、という顔をしていた。この場にいるのはリグリエッタ被害者の会みたいな面子なので、あいつの行動などすぐに読めてしまう、悲しいことにね。
「リグリエッタ姫はランガー騎士の説明を全否定して、自分達についてくるよう強要したらしいのですが、ランガー騎士は毅然とした態度でこれをはねのけ、紅の騎士団の夜営を後にしました。先行して待っていた偵察小隊はその結果を受けてすぐさまこちらに報告にもどりました。私はその報告を受け、翌日昼には接触するであろうリグリエッタ姫に対してある決意をしました」
俺は一息つくと、出席者の顔を見回した。
皆、顔が強張っている。きっと俺もあんな顔をしているのだろう。
「私が騎士団長になるにあたり、リンクス公爵と協議して、副団長の座を狙っていたリグリエッタ姫をあの方にとってもっと魅力的にうつる立場を提示しようと画策しました。そして用意されたのがリグリエッタ姫独自の騎士団、紅の騎士団なわけですが、皆さんご存じの通り戦時特例によって任命された騎士は戦中のみ騎士相当の扱いをする、というものです。つまり、我々が和睦を成した時点でリグリエッタ姫及び紅の騎士団は騎士たる資格を失います。もちろん我々は姫が騎士団長に任命されるにあたり、法典官の皆様が作った素晴らしい内容の詳細書を渡し、中を熟読するよう説明しました。ですがリグリエッタ姫はあの傑作とも言うべき詳細書を読むことをしませんでした」
今度は法典長官殿とリンクス公爵に目礼をする。
法典長官殿はとてもいい笑顔で頷き、リンクス公爵も笑い顔を隠しきれなかった。
「翌日、予想通り昼近くにリグリエッタ姫達と接触した私は、まずは王都を守るよう命令を受けていた紅の騎士団が何故ここにいるのかと質問しました。紅の騎士団が前線に出るのは第三騎士団がユールディンにパムルゲンを抜かれ国境まで侵入を許した場合のみ。しかしリグリエッタ姫は、貴公らだけでは手こずるだろうと助太刀に参ってやった、とのたまいました。バラバラに当たるより一度に戦うべきだと勝手な意見を言う姫に私は宰相閣下と近衛騎士団長の許可を得たのか、と返しましたが、誰の許可も得る必要がないと返答されました」
宰相とフォーゲル団長は二人とも呆れた顔して首を横に振った。命令系統もあったもんじゃないもんな。
「埒が空かないので、無意味だと思いつつリグリエッタ姫に和睦締結とその一連の流れを説明しましたが、リグリエッタ姫はランガー騎士からもその説明は受けたが、我々はユールディンに騙されている、と聞く耳を持たず、挙げ句の果てにはカウリエン様を偽物だなどと不遜な発言を繰り返しました。私は直に神託を受け、目の前でその奇跡の御力を拝見したのだと何度言っても信じようとはしませんでした。私は怒りと恐れでどうにかなりそうでした。カウリエン様を偽物などと言って折角仲裁していただいた和睦を反古にすれば、必ずやカウリエン様の怒りをかい、我が国の作物が育たなくなるかもしれません。もしそうなったら、ラグラント王国は終わりです」
宰相もフォーゲル団長も、リンクス公爵までも、出席者の全員がその未来を恐怖していた。
実際にはカウリエン様はそんなことをする方ではないが、神の怒りに触れて滅びた国はいくつもある。恐れないはずがない。
「私は戦時特例をあらためて説明し、リグリエッタ姫達は最早騎士ではないと伝えました。しかし彼女達はそんな事は知らない、ユールディンは和睦などしていない、だから我々はまだ騎士なのだと言い張り、ついにはこちらに刃を向けてきたのです。リグリエッタ姫は私に続けと紅の騎士団を率いて斬りかかってきました。我らはそれを防御して、そして決断せざるを得ませんでした。リグリエッタ姫及び元紅の騎士団を反逆罪で捕縛する、と」
苦渋の決断だったのです、という顔をして説明する俺を、そうであろうなと真面目な顔をして頷く皆さんは、笑いを堪えるのを必死だ。俺もそうだし。
「我々は鍛えられた正当なる騎士です。紅の騎士団を一撃で落馬させ、誰一人怪我を負うことなく捕縛しました。リグリエッタ姫は私自身でお相手させていただき、その間も説得をしましたが聞き入れられなかったので、少々痛い目にあっていただきましたが、我々は相手も一人も殺すことなく捕縛に成功したのです」
俺の発言を聞き終えた瞬間、その場の全員がもう我慢できないと盛大な拍手を送ってくれた。
ありがとう、ありがとう皆さん。
なんか凄い達成感を感じながら、その拍手を浴びつつ、シャロの頭をモフナデするのだった。




