デューク兄様はメイドの格好が大好きだ、とお聞きしましたので
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シャロとマリーを引き連れて宰相府に向かおうと指揮所を出たところで、ランデルと話をしているゴルズ男爵がいるのが見えたので先にそちらに挨拶をすることにした。
「ゴルズ男爵、お疲れ様です」
「お、噂をすればデュー坊か。上手いことやったようじゃの」
「まだ最後の国王様への報告がのこっておりますがね」
「ランデル殿から軽く話は聞いたが、ここまでの証拠と腐敗貴族どもをのさばらせた咎は例え国王様と言えども無視できまい」
「そうだといいのですが。そういえばリグリエッタの件、ありがとうございました。メラニアに代わり世話役の女性まで手配していただけたらしく、こちらの配慮が足らず申し訳ありません」
俺の感謝と謝罪の言葉にゴルズのじいさんはニヤリと笑った。
「何、本人から是非にと立候補されたのでな」
「立候補ですか?一体誰が」
ポスッ。
「あ」
「なあッ!」
俺が言い終わる前に背中に軽い衝撃がはしり、シャロとマリーが声を上げる。
背中に誰か抱きついたんだと分かり後ろを向くと、金色の髪と立派な角が目に入った。
「お久しぶりです。デューク兄様!」
「クーデリカ様?!」
背中に引っ付いたまま、イタズラ成功とばかりにエヘヘと笑っている女性は、我がコスタル男爵家の寄り親であるリラシア辺境伯様の長女、クーデリカ様だった。
「何故クーデリカ様がここに?!」
「ゴルズジイに頼んでリグリエッタ姫のお側つきとして来ちゃいました」
「ジジイ!クーデリカ様に何やらせてんだ!」
「しょうがなかろう。お嬢たってのお願いとあってはお断りできぬわい」
ニヤニヤ笑うゴルズのジジイ。
あんた、絶対わざとクーデリカ様の耳に入るようにお側つきの話をリラシア辺境伯様に流したな!
「ジイは悪くないんですデューク兄様。私が無理を言って付いてきたんです。迷惑でしたか?」
「そのような事はありませんよクーデリカ様。ささ、背中からではなく正面からお顔をお見せください」
いい加減目立ってるから背中から離れてもらえるとありがたいです。
「嬉しかったからつい。あらためて、お久しぶりです。デューク兄様、シャロ姉様」
正面にまわったクーデリカ様は、記憶にあったまだあどけなさの残る少女ではなく、立派な大人の女性に成長をとげていた。特にスタイル面で。カウリエン様にも引けを取るまい。
俺はクーデリカ様の前に片ヒザをついて片手の甲をとり、キスする仕種を取る。
以前はこれでもあまり視線を上に上げずに会話出来たのだが、今は見上げなければならないほどに、二人の身長差は埋まったようだ。どことなく嬉しいような、寂しいような気持ちで立ち上がった。
「お久しぶりです。以前お会いした時からずいぶんご成長されて。あの頃はまだ可愛いらしい幼さが残っておられましたが、今はもう美しい立派な大人のレディですね」
「ありがとうございます!デューク兄様にそう言っていただけて嬉しいです」
「お久しぶりでございます、クーデリカ様。ご立派になられて。私の身長も抜かれてしまいましたね」
「シャロ姉様とはデューク兄様以上にお会いできていませんでしたね。久しぶりに会えて本当に嬉しいです!」
二人はキャーキャー言いながら抱き合うように再開を喜んでいた。身長差もあってかシャロはクーデリカ様の胸に埋もれかけていたが。
「やっぱりシャロ姉様の髪と耳と尻尾はお綺麗ですね、昔以上です!」
「ふふ、毎日お手入れは欠かしておりませんからね。クーデリカ様のお髪も相も変わらずとてもお綺麗ですよ。ますますお母様に似てきましたね」
「最近は特にそう言われます。むう、それにしてもシャロ姉様のお耳と尻尾、ほんとうに素晴らしい触り心地です。後でお手入れの仕方を教えて下さいね!」
「もちろん、構いませんよ」
仲の良い姉妹みたいな感じで会話する二人を、尊いなぁと眺めていたらマリーがこそこそと話しかけてきた。
「だ、団長、あの凄く綺麗な牛系の女性とどのようなご関係で?!」
「ああ、あの方はクーデリカ・フォン・リラシア様。コスタル家の寄り親であるリラシア西方辺境伯様のご長女だ」
「あ、あの方が西方辺境伯領一の美女と言われているクーデリカ嬢……。でも、あの、団長が今までシャロ以外の女性に対してあそこまで丁寧かつ親しげな対応をしているのは初めて見たのですが?!」
「そりゃ寄り親のお子様だから外では丁寧にしないとだめでしょ。地元だともっと気安い対応しているよ。親しげなのも実際親しいからだよ。あの方も俺にとってはフリック同様子供の頃に面倒をみた子の一人だからな」
沢山いる弟分妹分の一人って感じだなっと説明すると、なんか納得出来ない表情をしているマリーにランデルが笑いながら説明した。
「マリーは王都の貴族だからわからないのも無理はないな。マリーからしたら王都の王族や高位貴族よりも接し方が上なんじゃないかと、そう思っているのだろう?」
マリーはその通りです、とコクコク頷いた。
えー、そうかな?
「王都から離れた西方辺境領の貴族にとっては人生で数えるくらいしか会わない王族よりも、寄り親に対してより忠誠心を持つ貴族の方が多いのだよ。そもそも我が国の歴史を紐解けば、辺境伯はかつて建国王ラグラントに協力した豪族の子孫で、辺境伯派閥の貴族の殆どがその家来だったのだな。団長からするとクーデリカ様は先祖代々支えてきた一族の、小さな頃から面倒をみてきたお嬢さん、と見ると受け入れやすいかな?」
マリーにも気心知れたメイドや執事がいるんじゃないのか?と言うランデルに、確かにいますねとマリーは頷いていた。
「でも、何と言うかそれにしても親し過ぎるような気が……」
シャロとの再会を喜んでいたクーデリカ様は、マリーやランデルの存在に気づくと顔を赤くして頭を下げた。
「第三騎士団の皆様、はしたないところをお見せして申し訳ありません。私はガルドナード・フォン・リラシア西方辺境伯が長女、クーデリカ・フォン・リラシアで御座います。この度は護送中のリグリエッタ姫のお側つきとしてこちらに参りました。どうかよろしくお願いいたします」
「これはご丁寧なご挨拶、痛み入ります。私は第三騎士団で副団長を任されておりますランデルと申します。お見知りおき」
「わ、私は第三騎士団騎士、マリー・ランガーです」
「ランデル様は副団長様なのですね。ならデューク兄様のご活躍を沢山ご存知でしょうから、いつかお話をお聞かせいただきたいです」
「もちろん、沢山ありますからいくらでもお話いたしましょう」
「ありがとうございます!マリー様はもしやランガー公爵家のお方なのでしょうか」
「はい。ランガー公爵家の長女です」
「では、次期ランガー公爵様なのですね。そうとは知らず大変失礼いたしました」
あらためて頭を下げるクーデリカ様に、マリーはお気になさらず頭を上げてくださいと言いながら自身の立場を説明した。
「私は確かにランガー公爵家の長女ではありますが、今はただの一騎士に過ぎません。騎士である間は貴族の位はないものとお考え下さい」
「失礼しました。ですが今の私も見ての通りのメイドでございますので私に対しても畏まる必要はございません」
うん、そこは突っ込みたかったですよクーデリカ様。何でメイド服?
「クーデリカ様、リグリエッタのお側つきなのは了解しましたが、何故メイド服なのです?」
お側つきとは言えメイドの格好までする必要はないのでは?という俺の疑問にクーデリカ様はにこやかに答えた。
「デューク兄様、ドレス姿ではお側つきとしてのお仕事に支障をきたします。やるからには徹底的に、と昔デューク兄様が教えてくださったじゃありませんか」
「確かにそう申した事は覚えておりますが」
「そうでしょう?なら私はお側つきの間は徹底してお側つきに相応しい格好でお仕事をいたします。それに」
クーデリカ様はチラリとシャロを見て小首を傾げた。
「デューク兄様はメイドの格好が大好きだ、とお聞きしましたので」
「ちょっとそれ誰に聞いたのかなクー。デューク兄ちゃん凄い気になるな」