自分の苦手な属性くらいちゃんと把握しとけよ。ドジっ子か
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一部何故か抜けがあったので修正しました
さらに抜け部分を修正しました
神獣を貸し馬扱いして王都に乗り付けようとした友人を説教して、俺とシャロがS級冒険者であることは口外しないよう言い含め、よく分かっていない顔をしながら頷いたのを確認してからやっと駐屯地に向かって歩きだした。
「スコラト日記はこれから始まる宰相府での報告が終わり次第頼んでやるからそれまで待ってろ」
「わかった。お願いね」
「にしても速かったな、邪竜退治。もう少し時間がかかるかと思ってたよ」
長い時をかけて皇族を操り、帝国全土に何度も疫病を流行らせた、とてもダンジョンの奥で封印されていたとは思えない力だった。だから元の力が強い、真竜に迫るくらいの竜だったのではないかと思ったのだが。
そうルルミアに説明すると、全然違うとルルミアは首を振った。
「邪竜は、元はいじめられっ子だった弱い竜だったんだよ。だからもといた場所を他の竜に追い出されてあのダンジョンのもとになった洞窟に追いやられた」
いきなり前提が覆った。え?いじめられっ子?竜の間でもいじめとかあるんだ。
「ずっと恨みを抱きながら引きこもっていたら、属性が闇に寄って邪竜になっちゃったんだって。洞窟もダンジョンに変化したのも同時にみたい。邪竜は自分があまり強くないことがわかっていたから外に出る事を考えずにダンジョンを罠とか凄く工夫して中々奥まで入ってこられないよう頑張ったって」
引きこもり前提のダンジョンだったのか…。ダンジョンボスはとにかく力を溜めたら外に攻めいる殺る気満々な奴らとしか考えていなかったから、逆に引きこもり続けるためにダンジョンを強化するボスとか新鮮だな。
「だけどすぐに人に見つかって、凄く強い筋肉ムキムキの冒険者が攻め入ってきた。最初に頑張ったおかげと、冒険者達があまり頭が良くなかったから中々攻略はされなかったけど、それでも時間の問題だと思った邪竜は秘密の脱出通路を作って、いざとなったらそこから逃げようと考えた」
脳筋冒険者とかダンジョン攻略に一番不向きなタイプだぞ。当時のユールディンの偉い人は早期攻略をしようと思ったならただ強いだけじゃなくダンジョンに強い冒険者に依頼するべきだったな。
「邪竜は何とか冒険者達がボス部屋にたどり着くまでに脱出通路が開通できそうな所まで掘り進まなければと頑張って、そしてついに地上に出れたと思ったら、大やけどを負ってダンジョン内に転げ落ちたんだって。属性が闇に変わってしまったから太陽の光を浴びると大ダメージになると身をもって知った。だから痛みを我慢して夜まで待つことにしたんだって」
自分の苦手な属性くらいちゃんと把握しとけよ。ドジっ子か。
「でも夜になる前、夕方くらいに自分が何か強い力で閉じこめられてられてしまった事に気づいたんだって。マルディの錠前を使用され、脱出口もボス部屋の扉も神様の力で封印されてしまった。でも邪竜的には自分も出れないが外敵も攻め入ってこれない引きこもりには素晴らしい環境に思えたみたい」
それでいいのか邪竜よ。人類的にもそっちの方がいいんだけども。
「だけど、それからしばらくして時間が過ぎるごとに封印からじわりじわりと光の属性がボス部屋内に染み込んできた」
これは邪竜的には日常的に耳元で金切り声を叫ばれているようなものらしく、これはたまらないとあれこれ手を尽くしたが、やはりどうにもならなかったらしい。
「なので錠前から一番遠い脱出口の辺りで頑張って人の手のひらくらいの大きさの穴を封印に開けて、土の中にいたミミズを配下にしたって言ってた」
ミミズ…。邪竜の配下がミミズ…。せつねー。
「そこから頑張ってミミズの数を増やして、ミミズを色んな動物に食べられるよう仕向けて、食べた動物も配下において、そこから偶然疫病を持ったネズミに行き当たって、ネズミ同士で疫病を流行らせて、そこから人に流行らせる事に成功したみたい」
どんだけ遠大な計画なんだよ。何年かかったんだよ。百年二百年ではすまないんじゃないか?
「でも、何回かの疫病はすぐに人に対策をうたれてあまり広まらなかったんだって。それでも疫病のもとになった小さな生き物を介して徐々に帝国の人達に影響を与えられるくらいになって、ついに皇族にたどり着いたんだから失敗ではないって胸を張ってたよ」
皇族に影響を及ぼせるまでに至ったのは確かに凄いが、何より凄いのは、邪竜の諦めないその根性と小さなことからコツコツと進められる我慢強さに違いない。
「今回は満を持して特別強い疫病をばらまいて、帝国全土に影響が出るまでになって、さらに都合の良いことに隣国のお姫様が第一皇子をボコってくれたから、そのまま第一皇子を疫病のもとになった小さな生き物に頑張ってもらって病死させて、第二皇子に皇位をゆずるよう皇帝を先導し、さらに第三皇子を唆して謀反を起こさせて、遂に錠前を開けさせる事に成功したんだって」
嬉しかったろうなー、それだけ長い時間かけてやっと騒音から逃げられたんだから。
「でも、第三皇子が亜竜を沢山呼べる魔道具を使って第二皇子とラグラント王国を滅ぼしてやるから協力しろって言われて困ったみたい。配下に出来る数が、多分今の自分だと一桁かもしれなかったからって言ってた」
おいおい邪竜だろ一応。亜竜くらい何匹いようが片っ端から配下にしろよ。
「でも途中で奪い返されたって聞いてほっとしていたら筋肉ムキムキ冒険者よりずっと強い冒険者がやってきて、さらに神獣まで来てやんの、もう駄目だって悟ったから全力でボスっぽい演技して戦ったけど、神獣の一撃であっさり身体が動かなくなっちゃったみたい」
一撃っすか。弱ッ。いやそれよりも。
「ルルミア、それ全部邪竜から聞いたのか?」
「うん。そうだよ。駄天馬の一撃でひっくり返って泣き出して、『俺の話を聞いてくれー!』って叫びだしたから。何か可哀想になって話くらいは最後に聞いてあげても良いかなって」
そうやって邪竜の一生を聞き負えたルルミアは、聞いてくれたお礼に自分の魔石を貰ってくれと言われたが、自分にはそんな大きな魔石は必要ない、それよりも本を持ってないかと尋ねたらしい。
邪竜は魔石を断わられて、手持ちの本も大した物がなく、それならと自分が昔住んでいた場所に未踏破の遺跡があったからそこになら本もあるかもと言うと、ルルミアは喜んだので、邪竜はもう思い残すことはないとキーランに首を差し出した。
キーランは一刀のもとに首を切り落としてダンジョンの外で待機していた兵士達の前にさらし、疫病のもとは絶たれた!と宣言すると、兵士達は大いに盛り上がった。
その勢いのまま帝都に攻めこむと決めたキーランに対してルルミアは戦争に参加する気はないよと拒否し、時間がかかりそうだったのでこっちに先に行くと言い出し、神獣も人同士の争いには関わる気はないと言ってルルミアを送迎しようと申し出たため、それは助かると乗り込んで今に至る、というわけらしい。
なんとゆーか、疫病を流行らせたりと許されない行為はしていたものの、魔物になった原因からしてなんとも同情してしまいそうになる邪竜だったんだなと呆れてしまったのだった。