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 あ、ご覧になっていたんですね。あざっす。

二日連続寝落ちしました申し訳ありません。


 なんとか落ち着きを取り戻したミハウさんと神官達を引き連れて、俺達は神殿の礼拝堂に設置されている神々の像の、正義の女神アレッサ様の像の前に来ていた。


「『アレッサの秤』はその名の通り正義の女神アレッサ様がお持ちになっている秤の事です。アレッサ様はその秤をもって正邪を計り、嘘を看破し真実に導いて下さります。この神像は石工の神マルタス様の使徒様が掘られたもので、使徒様が掘られた神像のみが神々の御力をお借りできる神器となるのです。アレッサ様の『アレッサの秤』以外ですと医術の神ウォルト様の『ウォルトの杯』、泉の女神リライア様の『リライアの桶』等が有名ですね」


 『ウォルトの杯』は病人に対して病気治癒を願うと杯に病気によく効く薬湯が涌き出るらしい。


 『リライアの桶』は一度水を汲むと使徒が欲する限り桶の中に綺麗な水がこんこんと涌き出るらしい。


 パルダス侯爵に薬湯を持っていってもいいかもなぁ、と思いながらウォルト様の像を眺めていたら、ミハウさんがにっこり笑って、近くにいた神官が用意していたお盆に乗せられた用紙をお盆ごと受け取り俺に見せた。


「もちろんコスタル様なら『ウォルトの杯』もお使い頂いてかまいませんよ」


 ウォルトの杯も使われる所が見たいんですねミハウさん。


「あー、ではせっかくなので」


 用紙に署名するとミハウさんはやはり恭しくお盆を掲げて近くの神官に渡す。


「それではまず『ウォルトの杯』を使用してみたいとおもうのですが」


「はい。それでは『ウォルトの杯』を手に取り、先ほど説明した通り、病気の方の病を癒していただくよう祈りの力を込めていただければ神の奇跡は起こるでしょう」


 俺はミハウさんのいう通りにウォルト様の像から失礼いたしますと言いながら杯を手に取り祈りの力を捧げる。


 右手にカウリエン様の紋章が光輝きだすと、ミハウさん達はおお!とどよめき、お祈りを始める。


 ん?何か祈りの力が杯に吸い取られていくな。


 コポコポコポ…。


 あ、祈りの力を吸い取られた分だけ薬湯が溜まっていく感じか。


 俺は杯が一杯になるまで薬湯を溜めた。


「これくらいあればいいでしょ」


 ミハウさんが近くにいた神官からいつの間にか持ってきた瓶を受けとると、こちらに持ってきてくれる。


「こちらをお使い下さい」


 俺はありがたく瓶の中に薬湯を移し替えた。


「ありがとうございました」

 

 俺はウォルト様の像にお礼を言って、杯をその手に戻した。


「ミハウさんもありがとうございます」


 持ってもらっていた瓶を受け取り、シャロに持っていてもらう。


 どこか名残惜しそうにこちらに瓶を手渡したミハウさんは、興奮を抑えきれないような表情で『ウォルトの杯』を使用した感想を質問してきた。


「お使いされていかがでしたか?どのような使用感なのでしょうか?」


「初めて神器を使用しましたが、使用した分だけ祈りの力が神器に吸いとられていく感覚でした」


「なるほど、祈りの力を奇跡へと変換しているのですね」


「その表現がしっくりしますね。使徒になってから祈りの力を感じられるようになり、力を込めて紋章を浮かび上がらせる事はしてきましたが、その力が外部に動いていく感覚は初めてでしたのでちょっと驚きました」


「なるほど。使徒様は祈りの力をたとえば魔力のように体内で感じられるのですね」


「そうです。ただ友人のエルフの魔術師が言うには、俺自身は無意識だったのですが、魔力に祈りの力が合わさって見たことのない魔力属性を産み出していた、と説明された事があります。魔力と祈りの力はどうも親和性が高いみたいで、意図してもしなくても魔力を使うと祈りの力が混ざるみたいですね」


「魔力との親和性ですか……。興味深いです。ああ、私も魔力を見られるなら是非お見せいただきたかったのですが」


 残念です、と言いながらため息をつくミハウさん。


 俺自身も見れないからどう変わったかは未だに分からないんだよなぁ。


「では次はアレッサの秤をお願いしたいのですが、その前に皆さんにお願いがあります」


「どのような事でしょうか?」


 何でも聞いちゃいます!という表情のミハウさんに思わず苦笑してしまうが、この先は国を揺るがす大事件となる内容となる。神殿は国から独立した組織であり例え国王であろうとその意見を無視出来ない。だからこそ機密保持は重要となってくる。


「アレッサの秤を使用する理由が、今回の戦争に関わる重大な疑いの真偽を女神様に保証していただきたいからです。つまり、女神様に保証していただかねば真偽を覆されかねない相手なのです。これから行う質疑は、例え身内であろうと口外しないと約束される方以外は部屋の外にて待機していただきたい」


 俺はキリッとした表情を作ってその場の全員にそう伝えると、意外にも神官達は表情を変えずに皆一様に頷いた。


「コスタル様、アレッサの秤が過去に使用された時、それは必ずと言っていいほど使用された神殿のある国の転換期でありました。今回アレッサの秤の使用をコスタル様がお申し出になられた時点で、我々には覚悟が出来ております。どうか、我々を信じて下さいますよう、伏してお願い申し上げます」


 ミハウさんが跪いて頭を下げると、他の神官も全員それに続いて跪いて頭を下げた。


「分かりました。皆さん頭を上げて下さい」


 俺の言葉に全員がきっちり揃った動作で立ち上がった。


「ミハウさん、メラニア、神官の皆さん。今回のアレッサの秤、その真偽の証人となっていただきたい。どうかよろしくお願いします」


「使徒様のためなら、我々は国をも相手となりましょう」


 ミハウさんの言葉に他の神官も頷く。


「ありがとうございます。それではアレッサの秤の使用方法を教えて下さい」


「はい。アレッサの秤にはこちらから見て右側に真実の皿、左側に嘘の皿となります。祈りの力を込めながらされた質問が真実ならば秤は右側に傾き光輝くとされています。嘘ならば光らずにただ左側に傾くのみです。この結果を神殿長である私自身が、こちらの特別な紙を用いた供述書に記入させていただきます。この紙は木地師の神コレタ様の使徒様が素材調達から紙漉きまでお一人で作り上げられた複製、改変不可能の神紙となっております」


 ミハウさんの説明をなんでもあるんだなぁと感心しながら聞いていたら、ご覧になられますかとミハウさんが供述書を今度はメラニアが持ってきたお盆から受け取ってこちらに差し出した。


「それでは、折角なので」


 お盆に乗っていた紙を手にとってみると、つやつやとした実に書きやすそうな高品質の紙だった。流石神紙だなぁと感心していたら、供述書の署名欄の下が見たことのある緑色にパァッ!と光ったと思ったら、カウリエンの署名が追加されていた。


 あ、ご覧になっていたんですね。あざっす。


 なんて軽くお礼を頭の中でしていたら、ミハウさんとメラニアが目の前まで近づいてきて供述書を覗き込んでいた。


「い、今、今のは、ままま、まさか」


「団長!今のは和睦の宣誓と同じ、カウリエン様の祝福ですか?!」


「ああ~、そうだな。和睦の誓約書と同じだな。この場のやり取りをご覧になられていたんだろうな」


「こ、この場を、カウリエン様がご覧に?!はふぅ」


「おおっとぉ!」


 突然のことに緊張しすぎたのか目を回したミハウさんを慌てて抱き止める。フクロウ系らしい首裏のフワモフ羽毛(鳥系の人は首裏や腕に羽毛が生える)にはからずも触れてしまい、その素晴らしきモフっぷりに、カウリエン様、ありがとうございます!と思わずお礼を言う。


「神殿長、しっかりしてください!」


 メラニアもお盆を持ったままミハウさんに声をかける。


 ちなみにシャロは俺が咄嗟に投げた供述書をしっかりキャッチして、ミハウさんのフワモフを瞬時に堪能した俺にジトッとした目線を向けていた。


 ちゃうねん。咄嗟に身体が動いたんだよ人助けだからセーフですよシャロさん。


「うぅ~ん、私……はっ!」


 俺の腕の中で目を覚ましたミハウさんは、自分が何故今の状態になっているかわからないのかアワアワ言いながら真っ赤になっていた。


「とりあえず、立てます?」


「ひゃい!大丈夫でふ!」


 あんまり大丈夫でない返答だったが、ミハウさんはシュバッと俺の腕の中から身体を離して立ち上がった。


「あ、あ、あの、私、す、すみま、」


 ミハウさんは何か息も絶え絶えで言葉が出てこないようだった。


「神殿長!まずは落ち着きましょう!ほら、深呼吸。スー、ハー」


「スー、ハー。スー、ハー。ゴホン、失礼しました。とんだ失態を」


 ミハウさんは自分の身体を確認し、衣服の乱れを正した。


「申し訳ありませんコスタル様。助けていただいてありがとうございます。私のような者を咄嗟に抱き止めていただいてすみません。重かったでしょう。本当に申し訳ありませんでした」


 一気にそこまで捲し立てると深々と頭を下げるミハウさん。


「いえ、怪我がなくて良かったです。やはり鳥系の方ですね、ミハウさんメチャクチャ軽かったですよ。こちらこそ咄嗟にとは言え首裏とか変なところを触ってしまいすいませんでした」


「そんな、助けていただいたのですから気にしていません。首裏くらいどれだけ触られても大丈夫です」


「え、マジで?めっちゃ触り心地よかったです」


「え、ええ?!そ、そう言っていただけると……そのありがとうございます」


 ミハウさんは顔を真っ赤にしながら自分の首裏を撫でた。


「兄さん……?」


「はい、すいませんでした」


 シャロの場をわきまえなさいという視線に思わず謝ってしまうのだった。





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