今お茶菓子を、一番お高いお茶菓子をお持ちしますので!
寝落ち、しました…。
ちょっと表現や抜けを修正しました。
団長専用天幕でいつの間にか潜り込んでいたシャロと仮眠をとった(寝ながらモフっていたらしい)後、ランデルに何かなかったか尋ねたら、リリエンタール氏族のリリーを無事リリザの母のリリルが確保したと冒険者ギルドから例の黒色冒険者達が伝えに来てくれたらしい。
団長やシャロの嬢ちゃんに会いたがっていましたよ、と言われてもこっちはぶっちゃけ気まずいので、あ、そうっすか、と微妙な返答をして椅子に座ったら、ランデルがいくつかの書類を俺の前に置いた。
「これは?」
「宰相様がこちらに来るのが遅くなるようだったら先にこれらに記入と署名をしてくれ、との事ですので」
何々?処刑リストの確認?え?これ俺が署名していいのか?あ、注釈にとりあえず現時点で死刑を免れない者だけでも先に決定してくれだって?ならまぁいいか。
次の書類は……ユールディンとの和睦締結後のすり合わせに関して?知らんがな。何故これが俺の手元に。ああカウリエン麦(勝手に命名)の扱いか。生産を増やして将来的に輸出する時に価格と販売時期を合わせるくらいじゃない?
こっちの書類は、おおう、追加特別予算の申請用紙か。いやいやないよ。戦争を開始直後にすぐ和睦したんだから戦費はむしろ余ってるでしょ?戦死一人もいなかったんだよ?ああフスカのアホの数字を鵜呑みにしてんだな。中央軍に軍政官僚を寄越して再度戦費の確認を求むっと。
んで、次は……………え?
「なんじゃこりゃ?」
「どうされたので?」
「いやすまんこっちの話」
驚いたランデルに何でもないと返してから、再び書類を読み返す。
リゴル公爵家からの夜会の招待状だった。
は?こんな時期になんで?夜会なんてやってる暇ないだろ?そもそもなんで宰相はこんなものを書類に混ぜ混んだんだ?いやまてこれは本当に宰相の仕業か?流石にこのタイミングでぶっ混んではこないだろ。逆効果だぞ。んー?
「ランデル。この書類を持ってきた奴は誰だった?」
「宰相補佐官のウラホ子爵です」
リゴル公爵の派閥の奴だな。あほが。こんなの今の時期に混ぜ混まれて光栄です是非参加しますなんて思うわけないだろ。宰相め、こんな奴飼ってるんじゃないよって違うな、リゴル公爵から無理矢理押し付けられた要らない子枠だなさては。
宰相は俺が断るのを見越したうえで招待状を混ぜ混んだのを見逃して、リゴル公爵にはウラホ子爵が俺の機嫌を損ねたから断られたとか微妙に間違ってない返答を伝えてリゴル公爵からの怒りを買わせて、お前は使えない奴だと宰相補佐官から外されるよう細工しているに違いない。
で、リゴル公爵から悪印象を持たれるのは宰相でなく俺と。
「あの狸じじいめ」
人を利用しようと企んだのならば、こちらは倍返しで行かせてもらおう。
ランデルに、各部隊は一度報告に集まるよう指示した。俺が直接お断りするのは角が立つので、ランガー公爵経由でお断りさせていただこう。
んー、次の書類は神殿からのか。ああアレッサの秤の使用許可申請用紙か。そういやマジで使うかはっきりしないんだよな。でもリグリエッタのアホの事もあるから一応出しておこう。うん?なんで使徒の名前を書く欄があるんだ?神殿外では秘密だって言ってるのに。とりあえず同伴者欄に署名しよう。
「さて最後の書類は」
リンクス公爵からの、リグリエッタ捕縛についてだった。一応俺が王族であるリグリエッタを捕まえたならそれ相応の理由が対外的にも必要なので、先に神殿に行って奴の悪事に対する証拠を取っておけ、というものだった。
俺はリグリエッタに自白させてそこで疑われるようならアレッサの秤を使って白黒つけましょうと言うつもりだったが、まあ確かに事の真偽をあれこれ問い質されるなら最初から神殿で証拠をとって突きつけた方が早いか。
「ランデル、ちょっと神殿に行ってくる。メラニアはまだパルダス侯爵邸か?」
「いえ、先ほど戻ってきました。シュライザー達は仮眠をとっています」
「そうか。シャロ、メラニアを呼んできてくれ」
「かしこまりました」
「ああ!ついにこの神殿にも使徒様がお越しいただけたのですね!」
シャロに呼び出されたメラニアにパルダス侯爵の容態を尋ねたら、体内の毒素を排出する薬を定期的に飲んで、栄養のある食べ物を食べれば大丈夫との報告を受け、ならメラニアがいなくてもひとまず大丈夫だな、ならこれから神殿へ行くから案内を頼むと言うと、飛び上がって喜んで、さあ行きましょうすぐ行きましょうと俺とシャロの手を引っ付かんで物凄い勢いで引っ張って、あっという間に神殿についてしまった。
ささ、どうぞこちらにと一般人立ち入り禁止な奥の応接室に案内されて、今お茶菓子を、一番お高いお茶菓子をお持ちしますので!と、めっちゃ興奮しているメラニアの様子を見た他の神官達は、どうしたことだと驚いていたが、メラニアから事情を聞くと全員が物凄い勢いで俺達を取り囲み、四方八方から質問の嵐がまきおこった。
俺は思わずシャロの頭をモフり、シャロは俺にヒシッと引っ付いてドン引きしていた。
騒ぎを聞きつけた神殿長がやってくるまでこの状態が続いた。
「本当に、大変失礼をいたしまして申し訳ありません」
神殿長のフクロウ系獣人ミハウさんは、深々と頭を下げた。まだ二十代後半くらいと、神殿長にしてはかなり若い方で、眼鏡が似合う知的美人さんだ。
「あー、いえ、確かに驚きはしましたが、失礼というほどの事では…」
「いえいえいくら使徒様が当神殿にいらっしゃったとはいえあのように取り囲んで質問責めにするなどあってはならない事です」
ミハウさんは後ろに控えている神官達にキッと目線をやると、皆シュンと肩を落とした。一緒に机に座っていたメラニアも思わず身体を小さくしたのを見てちょっと笑えてしまった。
「ですが、彼らも普段は皆落ち着きある敬虔な信徒なのです。我々にとって使徒様は神々のお声を直接聞くことのできる稀有な存在、かくいう私自身神殿長という役柄で己を律しておらねば危なかったでしょう」
そこまでですか。確かになんかそわそわしてますけど。
「それで、本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。本日はこちらの許可を頂きたく」
宰相経由でもらったアレッサの秤の使用許可申請用紙をミハウさんに渡す。
「あらまあ!正義の女神アレッサ様の秤をお使いになられるのですか!」
ミハウさんは凄い速さで用紙に許可の署名をし、なんか恭しく用紙を控えていた神官さんが持ってきた豪華なお盆に乗せた。
「こちらにも和睦の報は届いていますよね?」
「はい!豊穣の女神カウリエン様が直々に仲裁に入られ、さらには和睦の署名に祝福まで授けられたと聞いております!」
おおう、最初の落ち着きぶりはどこへやら。ミハウさんも興奮を隠せなくなってきたなぁ。
「ええ、その通りです。私はカウリエン様の使徒でして、今回の戦の仲裁も事前にお願いしてあったんです」
「カウリエン様の使徒様?!」
ミハウさんと神官達は揃ってお祈りをし始めた。
ええ?何なん?ちょっとやめて俺は使徒であって神様本人じゃないから拝むのやめて。そしてなんで当然ですって顔してるメラニア話が進まないからはよ止めてシャロも自慢気にむふーって表情しない何か恥ずかしいからやめて。
「ああ、まさか生きているうちにカウリエン様の使徒様にお会い出来るなんて」
夢のようです、と夢心地な表情のミハウさん。
「カウリエン様の使徒って他の使徒と何か違いがあるんですか?」
「カウリエン様の使徒様は、コスタル様が歴史上初めてのお方なのです!」
「あー、それはカウリエン様から直接そう聞きましたけど、それって珍しいんですか?」
「珍しいなんてものではありません!」
机にかぶさるように前のめりになるミハウさん。勢いがちょっと怖いです。
「カウリエン様は我が国でも一番の信仰を集める非常に人気と知名度のある女神様です。他の知名度の高い神様は歴史上何人もの使徒様を御使いになられましたのに、カウリエン様だけは今まで一人もおられなかったのです!」
ああ、この出会いを導いてくださったカウリエン様に感謝を、といいながらまたお祈りを初める神官達。
話が進まないからちょっと拝むのやめようか?
俺はカウリエン様の使徒だってのは後でいうべきだったかと後悔した。
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