ちなみにアル中が気づいたのはそれからしばらく経ってからだった
誤字報告、ブックマーク、ありがとうございます。
「リリザ、お前は俺が何なのか気づいているはずだ」
俺は手を組んで正面に腰かけているリリザに問い質した。
「えーと、そのー」
リリザは俺の横に座って事の成り行きをハラハラしながら見守っているフリックに目をやった。
「フリック含む第三騎士団は全員知っている。勿論口止めはしているがな。うちの団員は俺の命令に違反するような不心得者はいない」
だから答えろと目で促すと、リリザは背筋をピシッと伸ばして、俺の目を真っ直ぐに見て答えた。
「デューク・コスタル様。あなた様は神々の使徒であらせられると、そう感じております」
「その通りだ」
やっぱり気づいていたか。
俺がカウリエン様の使徒になった時、真っ先に気づいたシャロの次に気づいたのはアル中神官ではなく、エルフのルルミアだったからな。
シャロは家族だからわかるとして、神官でもないルルミアがすぐに気づいたのが不思議で、何でわかったの?と質問してみたら、魔力の質が変わって、見たことない属性がうっすらとだけど新たに魔力内に感じられるようになったからだ、と説明してくれた。ちなみにアル中が気づいたのはそれからしばらく経ってからだった。
魔力に敏感なエルフ族、その中でも魔力を『見る』事が出来る実力者なら使徒が魔力を使用すれば気づく事があるかもね、とルルミアから教わっていたからこそ、あのクソオーガ野郎を思わず本気でぶちのめした時にリリザにバレたかもなー、と思っていたのだが。
俺の即答にリリザはわずかに目を見開くと、深々と頭を下げた。
「やはりそうでしたか。今までの数々のご無礼、お許し下さい」
「別に無礼な事はされてないし。俺は単に口止めしたかっただけだから。そこまでかしこまれても反応に困るからやめてくれマジで」
「そうでしたらいつも通りに。もう、今日はコスタル団長に振り回されっぱなしですわ」
ため息をつくリリザに同調するように、不安げに事の成り行きを見守っていたフリックもため息をついた。
「ほんとですよ。僕達第三騎士団だって団長が使徒だなんて数日前に知ったばかりなのに、今日になって元S級冒険者だったなんて事実がまた発覚しましたし」
びっくりしっぱなしです、なんて言いながらお茶を啜るフリック。
「いや、ついてきたがったのお前じゃん」
「それは、だって、パルダス公爵邸で途中会った兄さんから、『デューク兄さんの凄い新事実知っちゃった』て自慢されたから」
「フリッツ………」
一瞬あいつシバキたおしたると思ったが、黒い冒険者達の事を思い出して、今回はしょうがないかと思い直した。
「黒い冒険者達からお前もあれこれ聞いたかもしれないけど、このゴタゴタが終わるまでは吹聴すんなよ」
「はい、わかってます。ですが、寄合のデューク団でなら話してもいいですよね?」
「また懐かしい話を………」
「懐かしくないです。あの頃の皆は今でもデューク団寄合で集まっているんですから」
「マジで?恥ずかしいから名前変えて?」
「嫌です」
「デューク団て何ですの?」
「兄さんと私が寄合の時面倒をみていた西部派閥の子供達が騎士ごっこ遊びの中で結成した騎士団」
「今や次期西方派閥組の総称みたいになってます」
「名称そっちに変えよ?」
「嫌です」
「あのー、お話を元に戻すのですが、コスタル団長はどの神様の使徒なんですの?」
「ああ、豊穣の女神カウリエン様だ」
「やはり。ではカウリエン様が戦争の仲裁に降臨されたのも」
「俺がお願いしたからだな」
「コスタル団長を敵にまわした今回のお馬鹿さん達には万に一つも勝ち目はなかったんですのね」
「どうかな」
「なかったですよね」
「皆無」
俺は苦笑いしながらシャロの頭をモフナデするのだった。
近衛の詰所を後にした俺達は、第三騎士団の天幕に戻って一息ついていた。
「これでひとまず王都内の腐敗貴族どもは一掃できるまでになりましたな」
俺の報告を聞いたランデルが、シャロの淹れてくれたお茶を飲みながらやれやれですな、とため息をついた。
「リヴェラ・パルダスがまさかユールディン皇族で、その話にまさかアルフレッド前団長が関わっていたとは。しかもあまり褒められた内容ではないのが我々第三騎士団員には困り所でしたな」
「ああ、途中までなら絶賛されるべき行いだったのに、最後で全て台無しだよ。アル団長には悪いが、フランソワ・ホリビス前伯爵が毒殺されてすでにこの世に居なかったのをありがたいとすら思ったよ。いたら、絶対にアル団長が敵に回っていたからな。リヴェラを脅して何も言わずに処刑台に立つよう書類にサインさせたから後始末はこれで終わりだと思うが」
「現ホリビス伯爵は姉の出自を知っているのでしょうか?」
「知らないみたいだな。リヴェラ本人は明かしてないって言ってたし。どのみち奴は第二騎士団があれこれしぼりとる予定だし、その途中で変死する可能性が高そうなだからな」
「国王様が?」
「俺達の報告後は殺るだろうな」
リグリエッタを利用していたと知ったなら絶対に殺る。
「まあ第二騎士団が全部しぼりだす時間くらいはあるさ、あいつ拷問には弱そうだったから」
「熊豚、とシュライザーが揶揄したあの肥満っぷりは普段から好きなようにやってる怠惰ぶりが現れておりましたな」
「息子も瓜二つだったしな」
「次男の方はそれなりに鍛えておりましたな。性根は父親や兄と変わらないようですが」
「尋問したのか?」
「あまり詳しい事は知らされてなかったようですが。自分が暗殺の標的にされた事を知ると、全部話すから守ってくれと泣きつかれましたな」
「そういえばゴルズ男爵はどのあたりまで来ているんだ?」
「現在王都街道の分かれ道にて待機中ですな」
ゴルズ男爵にはこちらから呼びに行くまでは近隣で待機してもらうようお願いしてある。下手に王都入りすると国王様がうるさいからな。
「とりあえずユールディン側が問題解決するまでは待機してもらおうか」
「どれくらいかかりますかな?」
「そこまではかからないはずだ。キーランもあまり時間をかけては余計な事を考える輩が出てくる事は承知していたから、短期決戦を仕掛けるためにあれこれ手をうったみたいだし」
時間さえかければやれたであろう邪竜に対して神獣の協力を得ようとしたのも短期で終わらせるためだしな。
だがシャロはだめだ。絶対行かせん。
「となると我々がすべき事はもうさほど残っておりませんな」
「東方辺境伯領の陸側からの捕縛の応援くらいかな?」
「そちらも近衛が主体になるやもしれませんな。何せ先ほど入った報告では、東方辺境伯領の貴族達の大多数が当主は王都にいたようで、次々捕縛されているようですからな」
「東方辺境伯様はなんと?」
「東方辺境伯のルイス様はまだ幼いですから領都にいらっしゃるようです。後見人のマウロ様からは今回の東方辺境伯領の貴族による大規模な不正に対して謝罪の言葉が届いております」
マウロ様は若くして亡くなった甥っ子である先代に変わって代官として東方辺境領を取り仕切っている。
マウロ様は元は王都にて法典官として活躍していたが、リグリエッタの起こした『空飛ぶ法典官事件』にて空の星にされそうになったトラウマから王都で働けなくなり、生まれ故郷に帰って学校を作って貴族の子弟から平民の子供達にまで幅広く教えていたのだが、甥っ子が早死にして仕方なくその子の後見人となって領政を取り仕切っている。
だが法典官としては物凄く優秀だったが流石に領政だと色々違いすぎて手が回っていない事も多く、その最大が犯罪の取り締まりだ。
連携して取り締まるはずだった騎士団も、第二騎士団は海上を、近衛騎士団は王都を、第三騎士団は戦争で、それぞれ離れられなかったため取り締まりはほぼ野放し状態になっている。
派閥の長として責任を感じているのだろうが、あまり責めるべきでない。
「マウロ様にはそれほど責める内容ではなく同情的な内容で返答しておいてくれ」
「すでに実行済みですな」
「やだ有能」
「一度直接お会いしたい、との伝言もいただいております」
「そうだな、久しぶりに顔を合わせるのもありだな」
俺はランデルにそう頷くと、少し天幕で仮眠すると言って指揮所を後にしたのだった。




