大丈夫、私的にはむしろご褒美
遅くなりました。
日付またいで帰ってきてから長時間寝落ちしておりました…。
アル団長はグラスの酒をグイッと一息で飲んで、ふう、とため息をついた。
「いざ帰る段階になって、やはり二人は離れたくないと泣いていたよ。だがかたや伯爵家の次男、かたや公爵令嬢で公爵夫人、道ならぬ愛だったんだ。それに、オリーのお腹がこれ以上目立つまえに帰らなければ互いに迷惑がかかる、そう理解もしていた」
俺は無言でアル団長にお代わりを注いだ。
「オリーが帰国した後、ラグラント側でも事件の捜査が行われ、フランソワの父と兄が関与していた事が発覚した。本来なら取り潰しか降爵のところをフランソワがオリーを救った事が考慮され、父と兄の処刑だけで済んだ。フランソワはそのままホリビス伯爵となり、俺達の自由気ままな日常も終わりを告げたんだ。フランソワと一緒に居られなくなった俺は地元を離れる決意をし、フランソワの推薦で騎士団に入った」
アル団長はなんとも言えない表情でグラスの酒を眺めている。
「その数年後、フランソワは別の伯爵家の娘と結婚し、オリーは何とオーラン・マグヌス前公爵の弟と再婚し、男の子を生んだが、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまった。するとホリビス伯爵家に女の子がいつの間にか生まれた事になっていた。病弱でずっとベッドの中だったからあまり周囲に話していなかったとフランソワはまわりに説明していた。その女の子が、リヴェラだった」
アル団長はまたグイッと一息で飲み干した。
「リヴェラは、フランソワ・ホリビスとオリアーナ・マグヌスの子どもなんですね?」
「フランソワは最後まで何も言わなかった。だが、リヴェラに相応しい生活をさせてやりたい、とは言っていたよ。だからかな、ホリビス伯爵領はもとから豊かな港町だったがフランソワが貿易振興を掲げてさらに発展した。良くも悪くもな」
俺はまたアル団長にお代わりを注いだ。
瓶の中身は空になった。
アル団長はお代わりも一息で飲み干すと、名残惜しそうに笑った。
「酒がなくなったな、お開きにしようか」
「そうですね。今日はありがとうございました」
俺は頭を下げて礼を言うと、席を立った。
無言で後ろに立っていたフリックとシャロを一瞥して部屋の外に出ようとした。
「リヴェラは、小さい頃は、よくお姉様に会いたい、と泣いていた」
背中から聞こえた呟きに思わず足を止める。
「食べ物も、着るものも、家も、全然違う。だけど一番違うのはお姉様がいない事だってな。フランソワがホリビス伯爵家を王国で三本の指に入る金持ち貴族に押し上げたのも、一番の願いは叶えられないならせめて他は叶えてやりたいと馬鹿なあいつなりに考えた結果なんだろうな」
俺はアル団長の独り言に返事をする事なくそのまま無言で部屋を後にした。
近衛の詰所に戻った俺は、人払いをした後思わず頭を抱えた。
「前ホリビス伯爵が一番悪いじゃねーか」
途中までは二人にそんな過去がーとか団長若い頃は結構好き勝手やってたんだなー人の事言えないけど、とか思いながら聞いていたけど、オリアーナの件あたりから雲行きが怪しくなってきて、最終的にはドン引きだった。
「他国の、皇族、しかも子ありの人妻に手を出して孕ますとかアホかッ!」
ありえねーよッ!!!
例え夫婦仲が致命的に悪くなってても、旦那が暗殺企てていたとしても、あの時点では公爵夫人だぞ!
他国の公爵夫人と不倫して、しかも孕ませた?お家騒動の種蒔いてんじゃねーよ!!!
「リリーとか言う護衛の魔術師も自分を鍛える前に主の不倫を止めろっつーの!」
護衛なら主の身の危険だけじゃなく貞操も守らんかい!
どう考えても皇族の醜聞にしか繋がらないネタじゃねーか!
護衛そっちのけで近接鍛えて何がしたかったんだこらッ!
「ロヴォー男爵も何も言わなかったのか?!」
貴族ならちょっと考えりゃでかい国際問題に発展しそうな案件だって気づくだろ!
何でフランソワの馬鹿を二人と一緒の場所に匿い続けてたんだ。リリーを鍛えたって事は頻繁に猟師小屋に足を運んでいたはずだ、なら二人の仲が怪しいのだって気づかないわけねーだろうが!
「前マグヌス公爵夫人も同情はするが子どもがいるような皇族の大人の女性が他国の年下貴族をたらしこむな!」
いくら命の恩人だからって体を許していいわけないだろがこら!
旦那と不仲で寂しかった?助けてもらってキュンときた?ないわー。感情に流されて自分の立場を忘れてんじゃねーぞ!
あんたは皇族の女性なんだからもし孕んじまったらその子がどういう扱いを受けるかわかってるはずだろ!
女だったからまだ良かったものの、男だったらどちらの公爵家にとってもお家騒動の火種を蒔かれたとしか受け取れない国際案件になるとこだったんだぞ!
「アル団長も青春の一ページみたいな感じで語りやがって」
体感三日?はたったかのような長話だったが、親友補正と若気の至り補正の二重補正で美しい思い出に変換されてしまっていた。
あんた、俺と立場逆だったら絶対怒ってたはずだぞ!
酒注ぎながら感情抑えるのに必死だったわ!
「リヴェラがあんなのに育った原因は前ホリビス伯爵だったわけだ。まあ、同情できないクズっぷりだが」
そもそも生まれてきたのが間違いだったと言わざるを得ない。リヴェラが両国をここまで危険にさらしている以上な。
「ドラゴンベルを盗んだのも大好きなお姉様の子どものためってわけだ」
アル団長の話しには細かい内容は出てこなかったが、リヴェラは相当お姉様が好きだったらしい。甥っ子になんでもしてあげたいくらい慕っていたのだろう。
だからって両国を危険にさらして良いはずはないのだ。
「あーもー今回の事件に関わった貴族のほぼ全てがクズじゃねーか。まともな貴族がどれだけ稀少種なんだよ」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「確かに、もうなんかお腹一杯です。うちの父さん、貴族としては地味だよぁと思ってましたけど、あれぐらいが正しい姿だと分かりました」
フリックもアル団長の昔話に思うところがあったらしい。俺の前だが机に突っ伏して頭を抱えていた。
「え~っとね、その、実は今話に出てきたリリーって、私の従姉妹なのですわ。私は実は知識の棟のリリルの娘なんですの」
リリザがおずおずと自分の出自を暴露した。
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「また登場人物の裏話増やしやがって。おいリリザ、お前の従姉妹はなんで止めなかったんだよ」
「そのぅ、リリーはオリアーナ様が幼少の頃からの教師役兼護衛だったのです。オリアーナ様がご結婚された後もオリアーナ様のご希望でご一緒にマグヌス家へと入られたのですが、そこでオリアーナ様が酷い扱いをされて塞ぎこんでしまっていても何も出来ず忸怩たる思いをなさっていたらしいのですわ。それが前ホリビス伯爵と出会い元の明るいオリアーナ様が戻られたのが嬉しくて止める事が出来ず、ならこの先どのような困難が待ち受けていようとも私がお守りするのだと鍛え上げた、と仰っていましたわ」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「それを聞いてリリザはどう思った?」
「違う、そうじゃない。ですわ」
「正しい返答が聞けて良かったよ。ラグラントの騎士になったのもその影響か?」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「え~、はい。そうですわ」
「素直だな?」
「今のコスタル団長に下手な言い訳は通じないと思いましたので。それに私はユールディン関係者ではなくエルフのリリエンタール氏族の者としていつか両国でこのような事態が起こった時の氏族の窓口として振る舞うよう族長から指示されておりますので」
「今のところエルフの氏族に責任を問うつもりは俺にはないが、お前の従姉妹は今回首を突っ込んでいるのか?」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「いない、とは言いきれませんわ」
「従姉妹は今どこで何をしてるんだ?」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「えーっと、実は、先ほど使い魔から連絡がありまして、里で監視されていたリリーがどうやって知ったか第三皇子が謀反を起こしたと知り、脱走してユールディンに向かった、と」
人差し指をチョンチョンやりながら、困ったものですわね?と首をかしげるリリザ。
「前言撤回だ。俺はリリエンタール氏族に対して両国の国交正常化を妨げた責任を強く訴えるよう宰相経由でイヴァルス子爵にお願いする」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「そんな!ご無体ですわ」
「俺が直接リリエンタール氏族の里に出向いて抗議してもいいんだぞ。それが嫌なら里の人員総出で従姉妹を止めろ。お前の母親は知識の棟にいるのか?」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「いますけど、今から使い魔を飛ばしても間に合うか」
「リリザ、今から冒険者ギルドに行って支部長のゴーマットに伝言だ。『知識の棟のリリルに姪っ子の暴走を止めないとユールディン、ラグラントの両国はリリエンタール氏族に対して相応の責任を求める』とな。ゴーマットにはこいつを見せて俺の使いだと証明しろ」
ポイっ。
首にかけていたものをリリザに投げ渡した。
「冒険者証?え?S級?!」
「使い魔にもさっさと里総出でユールディンに出向けと伝えろ」
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「了解しましたわ!」
リリザは騎士礼をしてすぐに部屋の外へとかけていった。
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
モフモフモフモフ。
ナデナデナデナデ。
「うにゃあ~」
「デューク兄、シャロ姉とけてるよ」
「あ、しまったまた無意識に」
ごめんなーシャローと言いながら膝の上から下ろした。
「無意識だったの!めちゃくちゃ膝の上に座らせてたじゃん!」
「フリック君、無意識なんだよ」
「シャロ姉、フラフラだよ。デューク兄、やりすぎじゃあ」
「大丈夫、私的にはむしろご褒美」
「だめだこりゃ」
フリックは再び頭を抱えて机に突っ伏した。
誤字報告、ありがとうございました。




