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リリーの評価がペチャパイエルフから根性エルフに変わったよ

今日は早めに投稿できました。回想はこれにてひとまず終了です。


 リリーは腹を怪我していたのでスピードを出さずにゆっくりめで、あまり上下に揺らさないように進んだ。それでもたまにウッ!て呻き声を上げていたけど、弱音を吐かなかった。


 俺の中でリリーの評価がペチャパイエルフから根性エルフに変わったよ。おお?!何か寒気がしたね。まぁいいや。それから俺達は日が沈む前に猟師小屋に着いた。


 中は誰もいなかったので、遠慮なく使わせて貰うことにしたよ。とりあえず火を焚いてまだ服の濡れていた彼女達にあたらせて、俺達は食料を調達しようって事になった。


 二人にそう伝えると、不安気な顔をして、追手が来ないとも限らないからどちらか一人は側に居てほしいと言われた。確かに俺達は隠れて進んだわけじゃないから、遠目なら姿を隠してこちらを見ていた奴がいないとは言えなかった。


 それじゃあとフランソワが残る事にした。俺より剣が扱えたからより護衛向きだった。


 俺は近場で兎を三羽狩ってきて、ついでに野草も摘んで、さらに猟師小屋周辺に簡易の鳴り子を設置した。テグスでぐるっと囲って、手元の糸に鈴を付けただけだが。


 俺が戻ると、オリーがフランソワとあれこれしゃべっていた。いや、違うね。オリーがフランソワをあれこれ弄っていたと言うべきだな。


 フランソワはあまり女性に免疫がある方じゃなかったし、見た目に反して気が小さな泣き虫熊だっから、どう見ても上流階級の女性であるオリーからしたらすぐにこいつは可愛い小熊ちゃんだと見抜かれたんだろうね。

 

 二人は予想外に仲良くなって、俺としてもびっくりだったよ。リリーも目を丸くして見ていたからな。


 とにかくまずは腹ごしらえだと兎を捌きだしたらオリーが兎が捌かれるのを見るのは初めてだと興味津々だった。リリーはあまり楽しいモノではありませんと止めようとしていたが、オリーにリリーは兎を捌いた事があるのかと問われ、あります、と答えたら、ズルい、私もやる、と膨れ、オリーはフランソワが捌こうとしていた兎を私にやらせてといって取ってしまった。


 フランソワはしょうがないなとナイフを持たせて手取り足取り教えだした。俺はリリーに予備のナイフと兎を渡した。


 こうして日が暮れる頃には捌かれた兎を塩とハーブで野菜と一緒に炒めたものが完成した。一部の兎肉は切り方やサイズがおかしかったが、腹に入れば一緒だとオリーは豊かな胸をはって頷いていた。


 味の方は、まあ野外で調達した食材で作った割にはうまかったな、くらいだったよ。明日はとりあえず二人を安全な場所まで連れていく事にして、その晩は休むことにした。


 夜の見張りは念のため俺とフランソワで交代でやる事にして、まずフランソワが月が真上から三個分空を下がるまでやり、その後は俺が朝までやると決めた。


 テグスを結んだ鈴がある猟師小屋のすぐ外で見張る事にして、二人と俺は中で休む事にした。魔力がすっからかんになった影響ですでに船を漕ぎ始めていたリリーが真っ先に寝落ちし、俺も段々眠気が襲ってきたとこだったんだか、オリーが抜け出して外に出たため、ちょっと気になって聞き耳をたてていた。まあ話の内容は兎の上手な捌きかただったり弓矢での狩りの話だったりと特別なモノではなかった


 俺もその後すぐに寝落ちして、フランソワに起こされるまでぐっすりだったよ。


 その晩は特に何事もなく朝がきた。


 俺達は干し肉を齧りながら朝早くから出発し、とりあえずホリビス伯爵領都のネットラン港を目指す事にした。


 フランソワの話ではここからネットランまではゆっくり進んでも昼頃にはつくらしく、魔力は回復したけど腹の傷がまだ痛むリリーの為にも俺達はゆっくり進むことにした。


 先を行くフランソワとオリーは昨日初めて出会ったのが嘘のように仲良くなって、楽しそうにお喋りしている。俺はリリーが痛まないように慎重に進んでいたし、喋ると腹に響きそうだったから黙っていた。


 リリーは楽しげなオリーを見て、あんな楽しそうなオリアーナ様は久しぶりに見た、とポツリとこぼした。俺は名前には突っ込まず、オリーは普段はあんな感じじゃないのか?と尋ねた。


 リリーはちょっと躊躇した後、今のオリーが素のオリーだ、とどこか悔しそうな声でそう言った。まぁ、貴族の、特に女性は色々あるのはこちらも一緒なので、一言そうか、と返した。振り向かなかったのでリリーの表情は分からなかった。


 それからネットランの近くまで来た俺達は、オリーとリリーの格好目立ちすぎるんじゃないか?と気づいて、林の中に二人を隠し、フランソワに護衛させて俺は先にネットランの街に入ると四人分のフード着きの旅人用コートを購入し、三人の下に戻った。


 二人だけだと目立つかもだが四人全員がコートならまだ怪しまれないからと全員着込むと、最初とは別の入り口からネットランに入り、領主の屋敷の近くまで来たら、オリーとリリーが不意に立ち止まって、俺達を引っ張ってもと来た道を戻りだした。


 俺達はわけが分からずそのまま厩戸まで戻ると、俯き加減でフードの下で見えなかった顔が真っ青になっている事に気づいた。


 これはただ事じゃないとそのままネットランを出て俺達の根城である岩山のロヴォー男爵領側にある猟師小屋に向かった。


 二人はずっと無言で、小屋に着いて周囲の安全を確認してからやっと安心したのか、床にへたりこんだ。俺達はわけが分からないから説明してくれと頼むと、オリーが重い口を開いた。


 領主の屋敷に、夫がいた。

 

 俺はなんとなくオリーは年齢的にも人妻だなと思っていたのであまり衝撃は受けなかったが、フランソワはガーン!ッて感じに固まっていたよ。


 固まるフランソワはおいといて、何で夫から逃げたんだ?と聞いたら、証拠はないが、海賊に船を襲わせたのは夫の仕業だとオリーは青から白に変わった顔色で呟いた。


 フラッとよろめいたオリーをフランソワが支えると、オリーはフランソワの手をギュッと握りながら続きを話しだした。


 夫は女の子一人しか生めず男の子が中々出来ない私を疎んで最近は妾や不倫相手のところに行ったきりで、今回の船旅も夫が言い出したのに仕事が入ったから後から合流する、と言って一緒に来なかった。


 海賊どもに襲われ、そこで口を滑らした頭らしき奴が、夫は新しい正妻が欲しいのだと言って笑っていたと護衛騎士長のカムランから彼が死ぬ間際に伝えられたのだと言うと、オリーはフランソワに抱きついて号泣しだした。


 俺もフランソワも怒りで頭の中が真っ赤になったよ。


 なんて奴だ、男として恥ずかしくないのか!とね。


 やがて泣き止んだオリーは、自分はユールディン皇国西部皇家の一つ、ミルチャ公爵家の娘で、オーラン・マグヌス公爵の妻、オリアーナ・マグヌスだと告白したよ。


 俺は驚いたよ。高位貴族だとは予想していたけど、まさかユールディン皇家だとは。空いた口が塞がらない俺に対してフランソワの奴は落ち着いていた。あいつ、オリーの体を拭いた時にユールディン皇家の紋章入りの首飾りを見ていたらしい。


 ごめんねと舌をペロリと出して片目をつぶるフランソワのブサ顔を見て、俺もリリーも、オリーも思わず笑ってしまった。オリーは私を騙したのね、可愛い小熊ちゃんだと思ってたのにとフランソワの頬を引っ張っていたよ。


 俺達は落ち着いて考えた。今オリーをホリビス伯爵領で匿うのは無理だ、と。だから俺は一計を案じた。フランソワに実家にこの場所がばれていないかを確認したらフランソワは実家は俺の事なんか気にしちゃいないと自嘲気味に呟いた。


 俺はうちの実家を頼るべきだと主張した。三人はそれは危険だと言ったが、親父も兄貴も妻を妻と思わない扱いをする奴が死ぬほど嫌いだから大丈夫だと説き伏せて、久しぶりに実家に戻り事の次第を報告した。


 親父と兄貴は俺がフランソワとつるんでいるのは知っていたが、流石にユールディン皇家の件はびっくりしていた。親父は腕を組んで考えた後、第二騎士団の力を借りる、国内にオリアーナの味方がいないから、本国に動いてもらうべきだ、と言った。


 そしてお前は第二騎士団に見習いとして着いていき、向こう側の味方との連絡役になれと言った。確かに親父の言う通りだった。オリーの実家ならきっと助けてくれる。


 こっちは親父と兄貴が岩山にヤバい魔物が住み始めたから近づくなと周知して、極秘裏に三人を守るから心配するなとまで言ってくれた。


 俺は二人に感謝して猟師小屋に戻り計画を話した。身を証すものがいる、というと、オリーには例の首飾りを、リリーには手首の飾り紐を手渡された。もしオリーの実家に直接行けない事態に陥ったら、この紐を研究都市イサカの知識の棟にいるリリルに見せろ、と言われた。


 俺とフランソワはがっしり抱き合った。あいつ、馬鹿力だから負けないように力を込めないと骨が折られるかと思ったよ。


 必ず帰ってくると言って、俺は実家で待っていた親父に連れられて第二騎士団の詰所に行った。そこでは親父が副団長に手紙を渡して、彼が読み終わる少しの時間だけで俺が第二騎士団の見習いになる事が決まった。


 そこからはあっという間だった。俺は船酔いで死にかけながらユールディンへと到着し、一先ず港町で情報を集めたら、どうもマグヌス公爵はオリー達が生きているのに気づいたらしく、国内にも網を張ってミルチャ公爵家へはその網を潜らなければならないとわかった。


 だから知識の棟に行ってリリル、リリーの叔母だったんだが、彼女の力を借りて無事ミルチャ公爵と会えた俺は首飾りを見せて全てを話した。ミルチャ公爵は激怒して帝都のマグヌス公爵家に乗り込みオーラン・マグヌスを取っ捕まえて皇帝の下まで文字通り引きずっていき、事の洗いざらいを全て話した。


 皇帝はオーランを強制引退させて、宵闇の森近くの修道院に陸流しにすると申し渡した。


 俺は皇帝陛下とミルチャ公爵にお礼を言ったら逆だ馬鹿者と笑われて、フランソワと二人分の使いきれないような恩賞を頂いて、急ぎ戻るための足を用意してもらい、また地獄の船旅を経験して猟師小屋に戻った。


 俺の帰国にまずフランソワが気づいて、またもや骨を守らなければならなかった。お互い涙を流しながら抱擁したよ。俺は痛みからだけど。


 騒ぎに気づいてリリーとオリーもやってきた。二人はしばらく会わない内にずいぶん逞しくなっていた。なんとオリーは岩鹿を弓矢で狩れるまでになっており、リリーは親父や兄貴から近接戦闘を習って俺より強くなったんじゃない?と思えるような女傑に変身していた。


 二人も計画の成功に抱き合って喜んだね。


 だけど俺はすぐに気づいたよ、フランソワとオリーは空元気だって。


 だってオリーのお腹はちょっと大きくなっていたからね。


 




評価ポイント、ブックマークをつけていただいた皆様、ありがとうございます。PV六万突破、ユニーク一万突破、ポイント四百となりました。もう少しだけ、お付き合い下さい。

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