こいつが次期皇帝とか同情するわ。
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あれだけ散々もめたキーランのお願いは、ルルミアが了承したことによりあっさり解決した。
「いやー助かった。ルルミアが知識の棟に居てくれて良かった良かった」
鏡の向こうでうんうん頷いているキーランは、頭がチリチリで煙が上がっていた。
「お前、ほんと馬鹿だよな、ルルミアじゃなかったら最初の時点で断られてたぞ。おまけに貴重な魔道具まで危険にさらしやがって」
キグスリーに呼び出されたルルミアに、キーランの馬鹿は再会して最初の一言が、『ルルミア、お前って処女?』だった。
次の瞬間、無詠唱で火魔法が放たれ、さっと避けたキーランに対し咄嗟の判断でキグスリーが避けたキーランを引っ付かんで盾にしてマドスの鏡を守らなければ貴重な魔道具が灰になるところだった。
その後怒り心頭のルルミアをキグスリーがキーランの燃えている頭を床に叩きつけて一緒に土下座をして、事の次第を話してルルミアの出した条件を全面的に飲んで何とか了承を引き出した。ちなみに条件は帝国内か邪竜が所持している本の中にルルミアが読んだことのなかった本が見つかったら全て無条件で差し出す事だ。
その間キーランは最初は頭が髪がと騒がしかったが、キグスリーに脅されてはいとごめんなさいを繰り返していた。
ユールディン帝国の皆さん、こいつが次期皇帝とか同情するわ。
同席していた冒険者ギルドイサカ支部の支部長トルーマンも渋い顔をしている。
「キーラン皇子、大賢者マドス亡き今、マドスの鏡は再現不可能の貴重すぎる魔道具です。もし灰にされていたら多額の賠償金が発生していたことでしょう。迂闊な発言は控えていただきたいものです」
「いや、火魔法をこんな場所で放ったのは、いや、すみません、俺が悪かったです」
鏡のこっちと向こうの全員から睨まれて小さくなったところにキグスリーにまたもや頭をはたかれるキーラン。
「キーランが皇子だと聞いてもしかしたら冒険者時代はばれないようにわざとお馬鹿っぽく振る舞っていたのかもとか思ったけど、やっぱり馬鹿は生まれつきだったんだね」
「女好きを公言するわりには女性の扱いが致命的に下手だよね」
ルルミアとシャロはキーランを道端の犬の糞を見るかのような視線で扱き下ろした。
「お前、冒険者引退してから少しは歳くったろ?ノリが十代のままってどうなんだ?」
「キーラン様、東部皇家と顔合わせする際には充分に時間をかけて皇帝として恥ずかしくない女性の扱いを勉強いたしましょう破談にならないように」
いい加減大人になれやって視線でキーランを可哀想なモノを見ているかのような目で見るゴーマットに、顔は笑っているがその怒気を隠しきれないキグスリー。
ほんと、キグスリーは苦労するな。
頑張れキグスリー。ユールディン帝国皇帝の威厳とか権威とかは君にかかっている。
「とりあえず、ルルミアをこれ以上怒らせる前にさっさと天馬を説得しに行った方がいいんじゃないか」
「デューク様の言う通りですね。キーラン様、早速天馬の元に向かいましょう」
「う、うむ。あやつを説得できなければ意味がないからな!」
「はぁ、不安」
「それではデューク様、また進展があり次第お伝えします」
「邪竜をサクッ!とやってくるからな!」
「三人とも、また今度ね」
三人は(主にキーランが)足早に部屋から出ていった。
「さて、助かったトルーマン、そして見苦しいところを見せた」
「何、キーラン様と比べたらさほどの事もありません」
トルーマンの苦笑いに確かにな、と俺も苦笑いで返すしかなかった。
「そういえば、コスタル団長は先ほど『いるねん』とイサカの方言を口にしていましたが、出身はまさかイサカなんですか?」
「違う。母親がイサカ出身で、イサカ弁を使っていたから真似ている内に染み付いたんだ」
「ほう、そうだったのですね。お母様は魔術師ですか?」
「いや、錬金術師だった。薬師でもあったな。昔は知識の棟専属だったらしい」
母親は親父より数年早く亡くなった。優しかったが厳しくもあった人だった。
過去形の俺の言葉にトルーマンも母親が故人だと気づいたのだろう、過去形に変えて母親を称賛してくれた。
「それはまた、知識の棟の専属になれるのは一握りのみ。とても優秀な方だったのですな」
「優秀な人だったみたいだな」
田舎に相応しくないほど腕が良かったらしく、よく遠方から薬を求めて買いに来る人がやってきたな。
シャロはその母親から全てを叩き込まれたので薬から毒からなんでもござれだ。
王都に来てからもたまに錬金ギルドや薬師ギルドで腕が落ちないよう依頼を受けていたが、是非専属になってくれと両方から勧誘されていた。
「一度、お母さんの育った街に行ってみたいね」
「そうだな、このゴタゴタが片付いたらキーランの結婚式があるだろうからその時に寄ってみよう」
「その際は是非イサカ支部に足を運んで下さい。歓迎しますよ」
「ああ、お邪魔させてもらうよ」
俺達は少しだけイサカの話で盛り上がった後、また進展があったら頼むと言ってマドスの鏡を終了した。
「さて、進展があったと言えばあったが、こっち側で出来るのはリヴェラのババアの尋問くらいだな」
「そうだね。もしかしたら捕縛した時に持ち出そうとしていた物の中に何か証拠があるかも」
「そうだな。近衛の詰所に行くか」
次の行き先を決めた俺達はゴーマットに礼を言ってギルドの受付まで戻ってくると、黒色冒険者達からあれこれ聞き出しているフリックがいた。
「なるほど。デューク兄とシャロ姉はやっぱり凄かったんだ」
「その通りです騎士様。当時のクルンヴァルトにはSランクパーティー自体は五パーティーくらいいたが、その内全員がSランクだったパーティーは2つだけでした。Sランク冒険者『剣狼』率いる灰色の牙と、コスタル団長がリーダーだった貴黒の猫毛です。そもそもがSランク冒険者なんて大陸に片手で数えられるくらいしかおらず、パーティーにSランクが一人でも居ればSランクパーティーとして認められたんです。にも関わらずこの2つのパーティーは誰も死ぬことなく全員がSランクまでたどり着いた、世界中でもそんなパーティーは昔話の中にしか出てこない、まさに偉業です」
「剣狼ってのは二つ名なんだよね?じゃあデューク兄にも」
「おしゃべりはそこまでだフリック」
熱く語り過ぎて俺達の接近に気づかなかったフリックの肩を叩いたら、あははーと苦笑いしてからピシッと気をつけの姿勢をとった。
「会談は無事終了しましたか」
「ああ、だが新たな問題も明らかになった。次は近衛の詰所に行くぞ」
「ハイッ!」
何かキラキラした目で俺とシャロを見るフリックをお供に今度はホックあたりが留守番をしていそうな近衛の詰所へと足を向けた。




