二日酔いで二人して川の中に頭を突っ込んだ仲
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ニヤニヤ笑っていたゴーマットにその顔やめろと言いながら再びマドスの鏡の部屋に来た俺達は、早速会談を始める事にした。
ゴーマットが魔力を通すと、鏡に写された光景がポヤ~ンと波打ち、おさまった先にはキーランと、その後ろに立っているキグスリーが写っていた。
「ちょっと久しぶりだな、キーラン、キグスリー」
「ちょっと久しぶり」
「おう。ちょい前ぶり」
「ちょっと前ぶりですね」
軽い挨拶の後、まずは感謝と謝罪から入る。
「まずはドラゴンベルの確保済まなかった。恩に着るよ」
俺は深々と頭を下げた。
「あんな危険な魔道具、使われれば地方都市なら壊滅しかねない。そこまでの危機を貴国にもたらしてしまった我が国の腐敗っぷりを一貴族として不甲斐なく思うし、取り締まり切れなかった騎士団の長として、責任を感じている」
「頭上げろよデューク。ソルドリから話を聞いた時はマジかよって思ったがな、責任はそっちだけじゃない。今回の魔道具の盗難は我が国も関わっていた。手引きしたのは第三皇子だ」
「やっぱりか。こちら側の主犯の一人のパルダス侯爵第一夫人、リヴェラ・パルダスが捕縛の際に第三皇子との関係性を突っ込んだらかなり動揺したから、何かしら関係があるのかと疑っていたんだが、証拠はまだ見つかってない。普通なら高位貴族とは言えかたや四十路の侯爵夫人、かたや成人したばかりの第三皇子、繋がりがあると考える方がおかしいが…」
「俺達が冒険者ギルドの酒場で安酒を一晩中呑み明かした挙げ句二日酔いで二人して川の中に頭を突っ込んだ仲だって考えりゃ、どんな繋がりだってあり得るよな」
二人してだよな~と言いながら大笑いし、キーランは懐から手紙を取り出した。
「シャハルザハルの目はドラゴンベルだけじゃなく第一夫人から第三皇子宛の手紙も持っていた。中身はこうだ」
親愛なるミュリアス様へ
こちらでの工作は上手く行きました。
貴方様が欲されていたドラゴンベルも手に入れましたのでこの手紙とともに使者に預けております。
早くこの戦争を終結し、貴方様のお顔を拝見したいと逸る気持ちでいっぱいです。
貴方様はきっと、御姉様に似てお綺麗なお顔なのでしょう。
血の繋がった叔母として、貴方様の皇位継承を心から願っております。
貴方様が皇帝陛下となり、私の息子が第四王女と婚姻を結べば、貴方様とのお目通りも容易くなる事でしょう。
それでは、お互いの成功を遠くラグラントの地から願っております。
どうか、お身体にお気を付けて。
オリヴィア・マグヌス
「第一夫人が、第三皇子の血の繋がった叔母だと?」
どういう事だ?オリヴィア・マグヌス?
「キーラン、マグヌス家とは?」
「マグヌス家はユールディンの西部皇家だ。第一皇子と第三皇子の母で、数年前に亡くなられたオルレーナ王妃様のご実家だ」
「はあ?西部皇家?王妃?キーラン、オルレーナ王妃様にはオリヴィアなんて名の妹がいたのか?」
「いない。歳の離れた弟が現マグヌス公爵だ」
「まさか、隠し子か?」
「その可能性が高い」
リヴェラ・パルダスもといリヴェラ・ホリビスがユールディン皇家の隠し子?
そんな話は聞いたことがない。
そもそもユールディン皇家の隠し子が我が国の高位貴族との子どもだとしたら国際的な大問題になっているはずだ。
リヴェラが実父の前ホリビス伯爵の暗殺に加担したのは、金欲しさだけじゃなかったって事か?
一度あのババアを尋問して事情を聞き出さなきゃならなくなったな。
「事の真偽はおいといて、二人が甥と叔母だとしてもドラゴンベルを手渡して何をするつもりだったんだ?リヴェラはドラゴンベルがどういう魔道具か知っているはず。ありゃ亜竜を呼び出せはするが操れはしない。しかも一度使ったら近隣の亜竜を全て呼び集めるぞ。帝都で使用したら帝都が滅ぶ可能性のが高い。他の場所で使用したにしろ無理矢理縄張りから引っ張り出された亜竜が近隣を蹂躙するのは間違いない。人が住めなくなり魔物を呼び寄せて第二の宵闇の森が生まれるかもしれない」
キーランは俺の言葉に目をつぶって腕を組んで考え込んで、うーんと唸った後、ぱッと目を開いて、前のめりになって質問してきた。
「デューク、建国王ラグラントがドラゴン騎士団を作った時の話を聞かせてくれ」
「あ、ああ。建国王ラグラントは元は貧しい田舎の遊牧民だったんだが…」
当時の古代王朝は獣人を獣混じりと普人の下に見る差別国家で、ラグラントが生まれ育った遊牧民の部族も古代王朝の奴隷狩りにあって妹のナタリーとラグラントを除いて全滅した。
逃げ出した隣国ストルトラードで、探索者(冒険者ギルドが出来る以前の冒険者の呼称だな)になった二人はメキメキと頭角を現して、異端過ぎて魔術学会を追放された若き天才魔術師ユフツ、普人とそれ以外の人種を差別する神殿に嫌気がさして出奔した放浪の神官サリナスを仲間にして各地で活躍する。
その間にも各地の獣人を虐げ続けた古代王朝はストルトラードにも被害を出し始めた。ラグラント達は獣人を守るべく国境近くで奴隷狩りを排除する依頼を中心に受けていたが、ある時ツェーラ山のダンジョンで魔物が大量発生した。
そちらに応援で出向いたラグラント達は、ダンジョンの奥で魔物達のボスを倒したが崩落に巻き込まれ、命からがからたどり着いた先がツェーラ山の奥にある古代の神殿だった。
そこは今は失われたとされている神々との謁見が許されし場所だった。四人はその神殿で、それぞれを選んだ神の使徒となり、加護と貴重な魔道具を授かった。ナタリーは戦いの女神アレイナ様から『紅き魔剣レラゼル』を、ユフツは魔法の神メイヤード様から絶大な魔力を秘めた『知の魔宝玉』をいただき後に『ユフツの杖』をつくり、サリナスは治癒の女神メルナ様から『治癒の聖典』をいただき、ラグラントは大地の女神パンゲア様から『真竜のあぶみ』と『ドラゴンベル』をいただいた。
神殿を守護していた真竜『ウィーグラード』と契約したラグラント達は崩れ落ちる神殿からウィーグラードの背に乗って脱出し、魔物の大量発生も無事鎮圧した。
しかし彼らが抜けた国境近くは古代王朝によって蹂躙され、いくつかの村が奴隷狩りにあった。急遽戻ったラグラント達は古代王朝の追っ手に追われて絶体絶命だった大義賊リオルを偶然助けたところ、彼から古代王朝内の現状と、ツェーラ山の魔物の大量発生はラグラント達を遠ざけようと古代王朝によって人為的に発生させられた事を知る。
ラグラント達はリオルを新たに仲間にして、ストルトラード王の助力を得て古代王朝に潜入して国境の街ベルゲンを占領し、奴隷達を解放した。そこでウィーグラードの助言に従ってドラゴンベルを鳴らして亜竜を集めた。
ワイバーンやバジリスク、シーサーペントが主だったが、中にはワームやリンドヴルム等稀少種もいた。それら全てを配下においたウィーグラードによって従順になった亜竜達にあぶみや鞍をつけて、ワイバーンを中心とした空竜騎士、バジリスクを中心とした地竜騎士、シーサーペントを中心とした水竜騎士を作り、それらをまとめたドラゴン騎士団を結成した。
ドラゴン騎士団の強さは凄まじく、古代王朝をあっという間に打ち倒し、全ての獣人を解放し、ラグラントは新たに差別のない平等な国を作ると宣言し、ラグラント王国を建国した。
その後はラグラントが死ぬまでウィーグラードはラグラント王国に滞在し、ラグラント死後は残りたがった一部を除いた亜竜達を引き連れてツェーラ山脈に帰ったため、ドラゴン騎士団は解散となった。
「で、ドラゴン騎士団は今の近衛騎士団、第二騎士団、第三騎士団て形となったってわけだ」
一部の残りたがった亜竜はその子孫達がラグラント国内に住んでおり、第二騎士団と行動を共にしているリンドヴルム、ドルグド鉱山でドワーフと一緒に穴を掘っているワーム、国王の騎乗竜レッドワイバーンがいる。この三種は亜竜の中でも頭が良く人になつきやすい種で、小さな頃から育てれば馬や番犬と変わらない。
「建国王ラグラントは真竜の力で亜竜を配下においたんだな?パンゲア様の加護ではなく」
「そうだ。パンゲア様の加護は大地を回復する力らしい。どうも古代王朝は獣人達を奴隷としてこき使って大地を汚す事も厭わず魔力を人為的に発生させ、それを使用して大量の魔道具を使い便利な生活を送っていたらしい。古代王朝滅亡後、草木も生えないほど汚れた土地をラグラントは生涯をかけて元に戻し、実り豊かな大地を取り戻したんだ」
俺の説明に頷きつつ、キーランは難しい顔をしていた。
「キーラン、何が引っかかってるんだ?」
「なあデューク、真竜は亜竜をどうやって配下においたんだと思う?」
「どうも何も、力ずくだろ?犬や狼が腹を見せるのと一緒で亜竜も絶大な力を持つ真竜に頭を垂れたんだろ」
「真竜とまではいかなくとも、亜竜は力ある上位の竜に従うって事か」
「そこは竜種に限定されないんじゃないかな。他の魔物だって一緒だろ。ダンジョンのボスとか種族が違う魔物を配下にしてたし。オークがゴブリン引き連れてたりしたじゃん」
「だよなぁ…。すまん、デューク。手を貸してくれ」
キーランは何かに納得するといきなり頭を下げだした。
「待て待て待て事情説明しろ」
「第三皇子は多分我が国の禁忌に手をつけた」
「禁忌?」
「邪竜だよ」
物騒な単語の出現に、俺とシャロとゴーマットは顔をしかめてしまうのだった。