まさか練習させてたとか、そんな事ないよね?
五十話到達です。当初の予定では五十話二十万字くらいで完結する予定だったのですが(-_-;)
もう少しお付き合い下さい。
シャロが食事を終えるのを待って冒険者ギルドに行こうとしたら、南門以外にも行かせようと思っていたフリックが何故かついていきたがった。
「兄は冒険者ギルドにお供をしたんですよね?兄は近衛に戻りシュライザーさん達はノックス先生の護衛、他の方達も皆さん門の閉鎖にまわっています。団長のお供がメイドのシャロ姉さんだけ、というのは第三騎士団として格好がつきません。一人でも騎士を同伴させるべきかと」
真面目な顔して何か最もらしい意見を述べているが、目は俺達の冒険者時代の話を聞きたいと告げている。
何がそんなに気になるんだよ。
冒険者時代は黒歴史もたっぷり含んでいるからあまり話をしたくなかったので聞かれてものらりくらりとかわしていたのだが、それが余計に興味をひいてしまったようだ。
話せる範囲で小出しにするべきだったかとも思ったが、バセット兄弟の勢いを見るに根掘り葉掘り聞きだそうとしたのは想像にかたくない。
多分、フリッツは黒色冒険者やゴーマットからあれこれ聞き出したに違いない。その結果があれなので報いは受けたのかもしれないが。
「フリック、今は緊急事態だ。見栄など気にしている場合ではない。お前には各門の前にたむろしている馬車の連中から特に今回の関係者を炙り出すよう指示するつもりでシュライザー達から外したのだ」
(意訳 我が儘言わずにあっちを手伝ってきなさい)
「王都での不正貴族の捕縛は近衛が中心である、と先ほど団長と副団長は仰っていました。今頃近衛はパルダス侯爵派閥及び紅の騎士団関係者、さらにフスカ男爵から押収した資料を元に各家に踏み込んでいるはずです。そこに漏れた、あるいは先んじて逃げ出した罪人どもも近衛は捕縛するために兄を各門に派遣するはずです」
(意訳 やだ。あっちはお兄ちゃんがいるから大丈夫だもん)
フリックの奴、いつの間にこんな屁理屈がポンポン出てくるようになったんだ。
中々反論しづらい内容の返答に、俺は思わず言葉が詰まる。
「確かにそれは考えられるが…」
「デューク様、よろしいのではないでしょうか」
「シャロ?」
「現在の冒険者ギルドにはもしかしたら我々が最初に踏み込んだあの場にいなかった、不正貴族に協力していた冒険者達が逃げ込んでいる可能性もあります。冒険者は一度逃せば足取りを追うのが難しくなります。その不届き者達を炙り出すにはフリック様の鼻が有効かと」
何故かフリックを擁護しだしたシャロの説明も反論しづらいものだった。
シャロ、何か考えがあるのか?(アイコンタクト)
今言った理由もあるけど、フリッツ君が黒い子達やゴーマットから聞き出してるならいずれフリック君も私達の冒険者時代の話を知るはず。 (アイコンタクト)
確かに遅かれ早かれだが。 (アイコンタクト)
それに、黒い子達の相手をしてもらった方がスムーズに事が進む気がする。 (アイコンタクト)
確かに。 (アイコンタクト)
五秒程でアイコンタクト会話を終了すると、俺はシャロの提案通りにフリックにお供を許可した。
「はぁ、わかった。フリック、随伴を許す。ついてこい」
「ハッ!ありがとうございます!」
歩き出した俺の後ろでシャロにお礼を言いつつ、フリックは尻尾をブンブン振りながらついてくるのだった。
「「「「昨夜は無礼な振る舞いをしてしまい申し訳ありませんでした!」」」」
「「えぇー」」
「ウワッ!びっくりしたぁ~」
ドアを開けて冒険者ギルドに入った途端これである。
昨夜もいた噛ませ犬のスキンヘッドから赤ら顔でヤジを飛ばしていた酔っぱらいどもまで、冒険者ギルドにいた全員が入ってきたのが俺とわかるや声を合わせて謝罪してきた。
まさか練習させてたとか、そんな事ないよね?
冒険者達の中心で三人並んで頭を下げている黒い子達に思わず問い質したくなるくらいきっちり声とお辞儀がそろった謝罪だった。
黒剣士も目を覚ましたらしく、シーフの子に支えてもらいながら頭を下げている。あれ、思ったよりダメージでかかった?
いきなりの謝罪にちょっと引きつつ、とにかく頭を上げてくれと言いながら、さっきもこのパターンだったなとげんなりする。
黒剣士は頭を上げると、他の二人と同様に謝罪と感謝の言葉を口にした。
「あらためて、謝罪をいたします。命の恩人であるコスタル男爵様に斬りかかってしまい、申し訳ありませんでした!そして、あの時は命を助けていただいてありがとうございました!」
最初に対峙した時のややはすっぱな口調ではなく、好青年的な口調だ。こっちが地なのかもしれない。
「謝罪は受け入れる。こちらも君の剣を折ってしまってすまなかった。あの場は急いでいたから俺も手荒な手段に出てしまった。申し訳ない。そしてダイオウリクガニの時は、他の二人にも説明したが、あれは偶然だった。他の二人からも感謝の言葉は受け取っている。もしどうしても恩を返したいと言うなら君達がもし同様の場面に出くわしたなら、出来る範囲で助けてあげて欲しい。俺から言えるのはそれだけだ」
「剣は俺がいきなり斬りかかったのですから自業自得です。コスタル男爵様が気に病む必要はこれっぽっちもありません。他の二人も言ったと思いますけど例え偶然であれあの場にいた俺達全員が助かった事は事実ですし、ナノワイバーンの素材を譲って頂いたおかげで借金をせずに済みました。全て貴黒の猫毛の皆さんのおかげです。他のパーティーの奴らも同じ事を言うに違いありません。本当に、ありがとうございました」
「ああ。感謝の気持ちはありがたく受けとるよ」
俺はまだ何か言いたげな黒剣士を手で制すると、フリックにいたか?と視線で聞いた。
フリックは小さく頷いて、冒険者達の後ろの方にいる中年の鳥系獣人と、左端にいる鼬系っぽい獣人、右端にいる鼠系獣人を指差した。
「今指をさされた三人、前に出ろ」
やや低めの声での指名に、その場にいた全員が何事かと三人に視線を向ける。
三人は目に見えて動揺しながら、身を縮ませながら俺達の前に立った。
「何故呼び出されたか、理解しているな?」
三人はビクッ!と身体を強ばらせながら、お互いの顔を見たあと、頭をガックリと下げた。
「俺ぁ、とある貴族の使い走りをやってました」
「俺もでさぁ」
「私もです」
「使い走りか。具体的に何をやっていた?」
「手紙の配達ですとか」
「荷物の配達とか」
「商人に金を届けたりです」
「麻薬をさばいたり、人を誘拐したりとか、犯罪に手を染めた事は?」
「と、とんでもないです。そんな事してないです」
「旦那、俺もでさぁ。そんなヤバい事には誓って手を出してませんぜ」
「信じて下さい。私は小金欲しさに簡単な仕事を受けはしましたが、そんな事をすればこの国じゃすぐに近衛にしょっぴかれます」
「そうか、だが自分達の口からでた言葉だけでは信用出来ない。お前達は今まで引き受けた貴族の依頼を包み隠さず近衛に話してこい。他の冒険者、五人くらいに依頼だ。この三人を近衛の詰所に途中逃げ出さないよう送り届けてくれ」
「じゃあ謝罪もかねてうちのパーティーで引き受ける。報酬はいらねえ」
噛ませスキンが手を上げて立候補したので彼にまかせ、俺達は引き続きやって来た冒険者の炙り出しのために待機を命じたフリックをこの場に残して、ニヤニヤ笑いながらこっちを見ていたゴーマットにマドスの鏡の用意は出来てるのか確認しながら冒険者ギルドの奥へと入っていくのだった。
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