いまこの場では秘めたままでいてほしかったなあ
誤字報告、ありがとうございました。
やっちゃあかんやつだった…。
パルダス侯爵様に全てをお伝えした後、念のためシュライザー達を残してバウマン殿に協力して侯爵様の護衛をするよう指示し、俺とシャロは第一夫人リヴェラと長男、五男が捕縛されたかを確認するために地下道の入り口の地下室に向かうと、入り口の階段部分からすでに渋滞をしていた。
「まだ中でうだうだやってるのか?」
「一先ず後ろの人達は一度下がらないと中の人達は動けないのでは?」
俺とシャロが呆れながら近衛が押し合い圧し合いしてるのを眺めていると、奥からフォーゲル団長の怒鳴り声が響いてきた。
「一旦下がれと言うのが聞こえんのか貴様らー!!!」
外にいる俺達にも響くように聞こえてくる大音量で、中にいる人達は鼓膜がやられてしまうのではとちょっと心配になった。
「下がれ下がれ」
「早くしろー!」
「ちょ、押すな押すな~」
いい歳こいた騎士達がまるで寄り合いで集まった貴族の子供達みたいにわーわー言いながら地下室からわらわら出てきた。
「どんだけ入ってたんだ」
「もしかして、こちら側から入った近衛の人達全員で入ったのかな?」
途中近衛騎士団の人を一人も見なかったし、とシャロは小首をかしげた。
「いや、流石にそれはないだろ」
「そうですわ、全員ではありませんわよ」
「あ、リリザさん」
「さっきぶりですわ、シャロちゃん」
「リリザ、じゃあリリザ以外の騎士達はここ以外だとどこにいるんだ?二階か?」
「いいえコスタル団長、全員ではない、と言ったのは私は入っていませんから全員ではない、と言いたかったのですわ」
杖を片手に、まったくうちの男性陣はしょうがありませんわね、と苦笑いしていた。
「いや、ほぼ全員じゃないか。俺、フォーゲル団長に中は二人が並んで歩くのもきついくらいの広さしかないって伝えたのに何で一度に皆行くんだよ………」
「それはフォーゲル団長が『皆の者、我輩に続けー!』と言って突撃したからですわ」
「フォーゲル団長ェ……」
誰か止めるか意見言うかしなさいよ。マクネス副団長はどうしたんだ。
「マクネス副団長は団長の次に突入していきましたわ」
俺の表情から疑問を察したリリザが困ったものですわといった感じに頬に手を当てた。
「ナンバー1と2が突撃タイプって、普段は誰が抑えてるんだ?」
「ホックさんですわ」
今回ホックはフェルディナント子爵側から突入している。
マクネス副団長をフェルディナント子爵側にした方がよかったのでは?
「リリザが止めてくれてもよかったんやで」
「私が止める暇なく突撃していかれたものですから」
再び困ったものですわねと頬に手をやるリリザ。
「フォーゲル団長は、まあ、その、前しか向いていないってタイプだって知ってたけど、マクネス副団長もそっち側だとは意外だったな」
ランデルと同じ落ち着きのあるクール系副団長だと思ってたよ。
「マクネス副団長は熱い心を内に秘めた方ですから」
いまこの場では秘めたままでいてほしかったなあ。
地下室から出てきた騎士達は、そのまま周囲にとどまりフォーゲル団長達が出てくるを待つつもりらしいが、何故か式典みたいに両側にズラリと整列して道を作っていた。
「近衛の癖ですわ」
「嘘つけ」
「ゴールがリリザさんになってる」
「花束でも渡した方がよろしいのでしょうか?」
「無事のご帰還おめでとうございまーすってか」
「あの花瓶の花使う?」
俺達がお馬鹿な話をしていたら地下道からフォーゲル団長とマクネス副団長、そして捕縛された第一夫人のリヴェラとその息子達が出てきた。
「いい加減になさいッ!何の権限があってワタクシに縄をかけるというのですッ!」
「そうだッ!母上と私の縄を外せッ!今ならまだ不問にしてやるッ!」
「この無礼者どもが!薄汚い手でさわるな!」
「ワタクシ達は我が家に侵入してきた賊から逃れるためにあそこにいたのですッ!」
「お前達は早く賊を捕らえに行かないかッ!」
「この無能者どもめ!」
おおう、母子そろって往生際が悪いし頭が悪いな。
母親はごてごての溶け始めた厚化粧が気持ち悪いヒステリックババアだし、長男はまだ二十歳前なのに段腹薄毛の汗かきとっつぁんボウヤだし五男はまだ十歳ちょっとくらいなのに滲み出るクズ臭が凄い。
「フォーゲル団長、お疲れ様ですわ」
「無事、二人とも捕らえられたようですね」
「リリザ、出迎えご苦労。コスタル団長、そちらも大丈夫だったか?」
「パルダス侯爵様は無事です。やはり、医者に変装した刺客がおりました。そいつが国内最後のシャハルザハルの目です。そいつが薬に希釈した毒を混ぜ、徐々に体を蝕んでいったと思われます」
「パルダス侯爵様には全てを話したのか」
「話しました」
「そうか、お身体の方は大丈夫なのか?」
「わかりませんが、体力はそうとう衰えています。このあとノックスとメラニアを向かわせます」
「あの二人なら何とかしてくれるだろう」
「そう願います」
さて、いい加減後ろでぎゃーぎゃー言ってる馬鹿母子をどうにかするか。
「往生際が悪い母子だな」
「あなた、こんな事をして無事に済むと思っているの!パルダス侯爵家を敵にまわすことになるのよ!」
「私は次期パルダス侯爵だぞ!父上が黙っていない!」
「貴様などクビだクビ!」
まだバレてないと思ってるとかどれだけ頭が悪いんだこいつら。
「パルダス侯爵家を敵にまわす?それは俺ではなくお前らだろ。父上が黙っていない?お前らの本当の父親のフスカ男爵なら今檻にいれて護送中だがどう黙っていないんだ?ああ、お前らの悪事を黙っていないって事なら正解か。あの男は一から十まで全部吐いたよ」
途端、三人は顔を青くして黙りこんだ。
「元第一夫人のリヴェラ、お前がパルダス侯爵と結婚する前からフスカ男爵と不倫関係にあった事から実の父親である前ホリビス伯爵を弟と協力して殺した事、シャハルザハルの目を弟の伝で雇ってパルダス侯爵に毒を盛り続けた事、そこの長男と俺が反逆罪で捕らえた次男と五男はパルダス侯爵の子ではなくフスカ男爵との不義の子で、英才教育の賜物で本人達もそれを知っている事、シャハルザハルの目を使い実弟のホリビス伯爵と息子達を毒殺してホリビス伯爵家を五男を養子に出して乗っ取ろうとした事、自分達の悪事が露見する事を防ぐためと和睦を反古にするため俺を暗殺してついでにリグリエッタを救出して次男と結婚できるよう画策した事、全部先ほどパルダス侯爵に説明してきたぞ」
「それは、あの男の陰謀です、私は騙されたのよ!」
涙を流しながら自分も被害者だと訴えるリヴェラ。
厚化粧がさらに崩れて、正直、どん引きです。
「フスカ男爵を信用せずに非合法ギルドを使って監視役と始末役を雇っておいてよく言うな。そっちからも証言はとってるよ。だからその気持ち悪い嘘泣きをやめろ。正直見ていて気分が悪くなる」
「な?!」
「それでもあくまでシラを切るなら、正義の女神アレッサ様の『アレッサの秤』を使ってお前の話の真偽を確かめてやる。こっちは使徒にあてがあるんでな。神殿とも話がついている」
神殿長とは話してないけどメラニアのあの反応ならもろ手をあげて歓迎してくれるだろうなー。ちょっと怖いが。
「う、嘘も大概になさいませ!」
「そうだ!使徒が我が国にいるなんて聞いていない!」
「でたらめを言うな馬鹿者が!」
俺は三人の顔を順に眺めながら、大きくため息をついた。
「誰が国内で遣わされた使徒だ、なんて言った?」
「「「へ?」」」
「我が国で近年使徒が現れていないのは確かだが、他国では何人か存在する。その内の一人はすでに国内にいて、いつでも神殿にいける用意がある」
嘘はついていない。
俺はクルンヴァルトで使徒になったし、すでにラグラント国内だし、いつでも神殿に行けるし。
三人は俺の言葉にこちらの本気度を察したのか、何も言い返せず黙りこんだ。
「自分達がおかれた立場が理解できたか?もはや言い逃れはできない状態なんだよお前らは。この先どうなるかもな」
三人は顔を青くして、ブルブル震えだした。
「最早お前らに用は…ああそうだ、聞きたいことはまだあるんだったな、リヴェラ、貴様、ドラゴンベルを盗み出すよう指示したな?」
リヴェラはビクッと身体を震わせた。




