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貴殿の妹君はメイドではなかったのか


 パルダス侯爵家の館は流石に高位貴族だけあって立派なものだった。


 基本この辺りは高位貴族ばっかりなのでどの館もうちの何倍もでかいが、パルダス侯爵家の館はその中でも目立ってでかい。


 さすが宰相も輩出した文官の名門だなと思うが、これだけでかいと自分の家なのに入った事ない部屋とかあるんだろうな。


 なんかもったいないと思うのはパルダス侯爵家の十分の一しかない普通の一軒家に毛が生えたど田舎男爵だからだろうか。


 それに使用人の数も半端ないだろうし。


 名前も分からない使用人ばかりなんだろうな。


 うちは使用人五人しかいないし名前から家族構成から好きな食べ物まで知っている仲だから、逆に自分の生活圏内に全然知らない人がいたら物凄くやりにくいと思っちゃうだろうなぁ。


 そんなどうでもいい事を考えて現実逃避してるのは、パルダス侯爵邸の門に片角が折れたオーガが仁王立ちしているからだった。


 金棒片手にめっちゃいい笑顔してはる。


 デートで恋人待ってる若者みたいな。


「団長、お待ちみたいですよ」


「今日はお日柄が悪いからやめとこう」


「しかしどのみち近衛が包囲したところで相手をするのは団長になる気がします」


「言うな」


 俺もそんな気がしてるから。


「まあ、あれだ、アイツがあそこに陣取ってる以上中からも外からも移動は無理だからしばらく放置しておこう」


「外だけでなく中からも、ですか」


「俺の獲物が自分の依頼主だってわかってるんだから俺が来るまでは外に出さないだろうさ」


「なるほど」


「しかし、あいつをのぞいても中々物々しい雰囲気だな」


 門以外にも館内外を巡回する警備兵の数はかなりのもので、中には番犬を連れているやつまでいた。


 屋根の上から周囲を監視している兵もいる。


「ミッドが偽の報告をしたのに警戒はまったく解けていませんね」


「多分フスカ男爵が王都に帰ってくるまではこの状況な気がする」


 第一夫人は、基本的に他人を信用していない。


 信用していたら愛人のフスカ男爵に監視役なんかつけない。


 誰も信用していないから常に警戒は怠らないのだろう。


「ある意味弟より厄介だな」


「そうですね」


 館の警備の厳重さにシュライザーと二人で辟易していると、裏口周辺を探索しにいっていたシャロが戻ってきた。


「お帰り、シャロ。どうだった?」


「ただいま戻りました。裏口周辺も警備は厳重で忍びこむのは難しそうです」


「やっぱりかぁ」


「ただ、気になる事が一つ」


「気になる事?」


「はい。ホリビス伯爵同様抜け道の可能性も考慮して探索をおこなったのですが、下水道につながるものはありませんでした。ただ、パルダス侯爵邸から間にもう一つ館を挟んだ先の館の警備がパルダス侯爵邸ほどでないにしろ厳重でした。あの館の持ち主が誰かによっては調査した方がよろしいかと」


「裏の裏にあるのは…誰の館だ?」


「俺もわかりません」


「シャロはその館がパルダス侯爵派閥の誰かで、そこに抜け道が繋がっている可能性があると?」


「はい、その周辺の館も偵察してきましたが、どうしてもその館だけ警戒具合があからさまに厳重なんです」


「この辺りは近衛の担当だからな、彼らに聞いてみるしかないか。どうなんだ?ホック」


「おや、お気づきでしたか。流石デューク団長。妹さんにも気づかれていたようですな」


 先ほど宰相に緊急連絡を伝えに行った年輩の騎士ホックは、いやいや鋭いですなぁと言いながらこちらにやってきた。


「宰相は何と?」


「寝耳に水だったらしく、直ぐ様王城に向かうとの事でした。デューク団長には宝物庫の確認作業が終わった後に報告が聞きたいとおっしゃっていました」


「そうかわかった。ご苦労だった」


「それで、デューク団長、先ほどの館の件ですが、あそこはフェルディナント子爵ですな」


「金髪ドリル家か」


 思いっきりパルダス侯爵派閥だった。


 これは先んじて調べた方がいいな。


「ホック、貴殿はここでフォーゲル団長達の到着を待て。我々はフェルディナント子爵邸を調査してくる」


「分かりました。お気をつけて」


 ホックに後を任してフェルディナント子爵邸に向かうと、シャロの言う通り確かに妙に警備が厳重だった。


「兵の巡回頻度が高いし、こう言っちゃ何だが子爵家程度にしては兵の数も多すぎる」


「ただパルダス侯爵家ほどではないですから忍びこむのは容易かと」


「確かに。どうせ取っ捕まえる家だし、行くか」


 巡回の間をぬって裏口の鍵を開けたシャロに続いて、俺達はフェルディナント子爵邸に侵入した。


 内部はさほど警備は厳重ではなく、俺達はさほど苦労せずに探索できた。


「シャロの読みどおりだったな」


 地下倉庫の先に掘られた抜け道を前に、俺達はため息をついていた。


「やはりホリビス伯爵の姉。考えている事は一緒か」

 

「そのようですな」


「こちらの抜け道もわりと最近作られたようですね」


 地下室にうず高く積まれた土砂が放置されていたが、これだけあると、かなりの長さの道な気がする。


「とりあえず進むぞ」


 シャロを先頭にして抜け道を進むと、だいぶ先から光が漏れてきているのが見えた。


 シャロの停まれの合図に俺とシュライザーは足を止め、シャロが先行して近づいていく。


 しばらく向こう側を伺っていたシャロだが、こちらに向かって手招きをしたので再び歩き出す。


「今は人の気配はしません。入りますか?」


「行ってみよう。パルダス侯爵邸だと確認できたら撤収する」


「了解です」


 シャロが扉を開くと、予想通り地下倉庫のような広い空間だった。


 こちら側にも掘った際にでた土砂が積まれていた。


「この部屋の外も人の気配はありません。扉を開きます」


 シャロがサクサクと扉の鍵を開けていく。


 扉の向こう側は階段で、一階部分に通じているようだ。


 そのままシャロが先行し、周囲を確認してから一階の廊下に出る。


「あ、オーガが見えた」


 廊下窓の外に門の前に立つオーガの後頭部が見えた。


「間違いないな。見つかる前に撤収だ」


 俺達は慎重に来た道を戻ってフェルディナント子爵邸の地下室まで下がった。


「シャロの読み、バッチリ当たったな」


「流石ですね」


「恐縮です」


 シャロは澄まし顔だが尻尾の先っぽのゆらめき具合から誉められてまんざらでもないご様子だった。


「近衛にパルダス侯爵邸を包囲する際にこっちにも人を回すよう伝えないとな」


「いっそのことこちらの扉に細工をして通れないようにしては?」


「そうしたいところだが、時間がない。おそらく近衛はもう到着しているし、第三騎士団もそろそろだ。一度近衛と合流しよう」

 

 パルダス侯爵邸近くに戻ると、案の定フォーゲル団長達は現場に到着して俺達を待っていた。


「おお、デューク団長。様子はどうだ?」


「探索の結果、フェルディナント子爵邸の地下にパルダス侯爵邸と繋がっている抜け道がありました」


「本当か、よく発見できたな?」

 

「うちの妹は優秀なので。彼女はホリビス伯爵邸でも抜け道を発見しました」


「貴殿の妹君はメイドではなかったのか?」


「メイドですが?」


「む、う…。そうか」


「とにかく、これで後は第三騎士団が到着して門を封鎖するのを待つばかりですね」


 マクネス副団長の言葉に頷いて、空を見上げる。


 東の空が、うっすらと色が変わりだした。


 夜明けが近い。


 今日は長い日になりそうだなと、ため息をつきながら第三騎士団を待つのだった。


 

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