お互い隠密系だからか何か仲良くなってるな。
完全に寝過ごして遅れました…。
冒険者ギルドからの気まずい脱出の後、ホリビス伯爵家に向かった俺達は、貴族街でリッツとミッドに鉢合わせした。
「あれ、ミッドとリッツじゃん。偶然だな」
「お二人ともご無事のようですね」
「え?どこにいます?」
シュライザーはどちらも見つけられなかったか。でも多分相手が攻撃しようとしたら超反射で気づくタイプだろうな。
「やっぱり隊長の目はごまかせなかったか。そしてシャロルさんも当たり前のように見つけるし」
「いやいや、リッツの旦那、あの二人が可笑しいんですよ。俺の気配遮断だってどうやって見破ったんだか見当もつかねぇ」
暗闇から二人が出てきてようやくシュライザーは場所がわかったらしく、修行不足だなとちょっと落ち込んだ。しかしこの二人お互い隠密系だからか何か仲良くなってるな。
「殺気を放っていれば分かるのですが」
「リッツは夜目を鍛えれば見えるようになるぞ」
「ミッドさんは気配を消すのが上手すぎますね。そこだけぽっかり穴が空いているかのように何の気配も無さすぎでした」
俺とシャロの説明に、シュライザーはわかったようなわからないような顔をして、リッツは頬をひくつかせ、ミッドは消しすぎるのもだめなのかとなんか新しいステージに入りそうな感じになっていた。
「それはともかく、上手くいったようだな」
「ああ、第一夫人はわりとあっさり信じたよ」
「ん?第一夫人『は』?」
「あんたを大好きなオーガの野郎はあんたがあんな奴らに殺られるわけがないといって笑ってたよ。凄く信用されてんな、あんた」
「そんな殺意満載の信用要らないんだがなぁ」
「団長の方も上手くいったみたいですね」
下着姿のリッツは鎧を置いてきたのでミッドが肩にかけていた皮袋からローブを取り出して上に羽織っていた。
「ああ、ひとまずはな。多分大丈夫だとは思うが今は結果待ちだ」
「そうなんですね。フリッツ騎士がいないのも、その関係ですか?」
「そうそうそんな関係」
「待機してもらってる」
「俺は裏口でよかった」
「「?」」
「それで、二人は城壁越えか」
「馬は侯爵家に返してきたからな」
「団長、僕はフリッツ騎士の代わりにそちらに行った方がいいですか?」
「いや、予定通りミッドとアベイルのとこに向かってくれ」
「俺は一人でも大丈夫だぞ」
「いや、ワイバーンライダーを倒してからそこそこ時間が経ってる。ホリビス伯爵は気が小さくて疑り深いタイプだ。そういう奴は自分の下した命令がちゃんと遂行されているか常に把握していないと怖くてしょうがないから細かな定時連絡をさせてる可能性が高い。ワイバーンライダーと連絡がつかなくなったら何かあったと探しに来るはず。あの場にはアベイルが一人だけだ。アイツがやられるとは思わんが万一もある。リッツはそのままミッドと集合場所まで戻れ」
「了解しました。では急いで戻ります。団長達もどうかご無事で」
「あんたにゃ余計なお世話かもしれんが、気をつけろよ」
二人は足音を消しながら城壁の方に去っていった。
「さて、どうしてくれようホリビス伯爵」
建物の影からホリビス伯爵の館の様子を伺うと、真夜中だってのに警備は厳戒態勢だった。
「ずいぶん警備に人を雇ってますね」
全員装備がバラバラのため、ホリビス伯爵家の領兵ってわけじゃないようだ。
「さすが悪どく稼いでるだけあるな。全員そこそこな傭兵だありゃ。まあしょうがないよな、まさか自分が仲介したシャハルザハルの目が自分を殺しに来るとは思ってなかっただろうからなぁ」
ホリビス伯爵が己の身の危険を感じたのはおそらく次男が殺されそうになったのを知ったからだ。
パルダス侯爵家がミッドを雇っていたのを知っていた以上、ホリビス伯爵も独自に自分の密偵を兵の一人に紛れ込ませていたのだろう。
そこで自身の次男が暗殺されそうになった事実を知り、姉達は自分が邪魔になったのだと考えるに至ったのだろう。自身がそうして父親を亡きものにしたのだから。
だが確証がなかったのでミッドを拐おうとしたようだが。
いずれにせよホリビス伯爵は今暗殺の恐怖にビクついているからこそのこの重警備なわけだ。
「見つからずに忍び込むには中々骨が折れそうだ」
「どうします?」
「正面突破かな」
「それでは時間がかかりすぎる気がします。パルダス侯爵家にばれる可能性が」
「シュライザー、正面突破は殴り込むわけじゃなく、近衛として正面からお邪魔するって意味だ」
「なるほど、失礼しました。しかし、いきなり行って会えますかね?」
「そこがなぁ」
二人して首をひねってると、裏口を確認しにいっていたシャロが戻ってきた。
「ただいまもどりました」
「お帰り、シャロ。どうだった?」
「かなりの警戒態勢です、裏口から忍び込むのは難しいかと」
「そうかぁ」
「抜け道を発見しましたのでそちらから侵入しましょう」
「ええ?!抜け道見つけたの?」
「はい。デューク様の言う通りの小心者なら必ず逃げ道を確保しているだろうと周辺を探索した結果、下水路に隠し通路が」
「見張りは?」
「一人いましたが気絶させて転がしてあります」
「「やだ、有能」」
俺とシュライザーは顔を見合わせて、澄まし顔なシャロを褒め称えた。
「こりゃ、最近作られたな」
「そうですね、急ぎ仕事だったのでしょう」
掘るのに使われたであろうスコップが放置されていたり、抜け道内がぼこぼこだったりと、色々と荒い部分が目立つ。
「和睦が成された後に掘られたとみていいでしょう」
新品のランプを見ながらシャロがそう推測する。
「しかしホリビス伯爵って熊系獣人だろ、こんな狭い道だと引っかかって詰まるんじゃねーか」
「確かに。次男が大男見たいですし、あり得ますな」
「お二人が頭を低くしているのですから、きっとそうでしょうね」
俺達は緊張感のない会話をしながら抜け道を抜けて、館の地下室であろう部屋に到着した。
「シャロ、表に人の気配は?」
「いません」
「じゃあ、お邪魔しようか」
扉を開けると、予想外にまた同じくらいの部屋だった。
部屋の中には木箱や樽がいくつも積み上げられていた。
「倉庫、ですかね」
「なんだろうが、これは……」
俺達が今通った扉は、中からは普通の扉だったが、その外側は閉めると壁と同一に見えるよう細工されていた。
俺は手近あった木箱を一つ開けると、中身を確認した。
「この荷物は、本来は今出てきた隠し部屋に隠してあったみたいだな」
「こりゃ、まさか麻薬、ですか」
箱の中身は大量の麻薬だった。
以前撲滅した麻薬組織の黒幕、ランデルの予想通りだったようだなこりゃ。
「ホリビス伯爵を締め上げてやる理由がまた一つ増えたな」
クズはとことんクズだなと思いながらその場を後にした。
「で、ここが当主の寝室で間違いないんだな?」
首もとにナイフを突きつけられた傭兵は顔を青ざめながらコクコク頷いた。
「ご苦労さん、そしてお休み」
首をキュッとやって傭兵を落とすと、シュライザーか引きずって調度品の影に隠した。
ホリビス伯爵家の館内は予想以上に悪趣味だった。
ごてごてさした調度品や金が頻繁に使われた屋内。
日中は眩しくて目がやられそう。
屋内も傭兵が何人か見回りしていたが、見つからずに当主の寝室らしき傭兵が入り口を警護している扉にたどり着き、シャロが相手の背後をとってナイフをつきつけ、驚く傭兵の横からシュライザーが口をふさぎ、そのままシャロと立ち位置を交換して尋問し、今に至る。
「シャロルさん、暗殺者になっても一流なんじゃないですか?シャハルザハルなんか足元にも及ばないレベルで」
「私はあくまでデューク様のいちメイドに過ぎません」
二人の軽口を聞きながら傭兵が持っていた寝室の鍵を見つけてシャロに手渡す。
シャロは音もなく鍵を開けて扉を開き、中にはベッドで寝ている当主しかいないのを確認して、俺達は中に入り、鍵をかけた。
「おはようには早いかな、こんばんは、ホリビス伯爵。声をあげたら殺すのでそのつもりで」
俺は寝ていたホリビス伯爵の口を塞ぎ首筋にナイフをつきつけて、何事かと目を覚ましたホリビス伯爵に、そう脅迫しながら笑いかけたのだった。




