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この手が悪いんです無節操なこの右手が俺は悪くないモフモフナデナデ。



 トルーマンが依頼手続きを済ませる間に『マドスの鏡』越しに久しぶりに再会したルルミアに、俺とシャロは近況を報告しあった。

 

 ついでにゴーマットにこれまでの経緯を説明する。


「デュークが騎士団長?似合わないね」


「ルルミアもそう思うか?」


「思う。あなたに振り回された冒険者時代を経験した私としては」


「振り回されたのはお互い様。そういや『拷問大全』にあった例の拷問、役にたったわ」


「え?あれ、やったの?」


 鏡越しにドン引きなルルミアに、教えたのはお前じゃないかと言うと、教えたからといって実践するかは別問題、と返された。


「そりゃそうだが、時間がなかったんだよ。相手はシャハルザハルの目だし。でもおかげですぐに口を割ったから今こうやって喋ってるってわけだ」


「あのシャハルザハルの目をすぐに口を割らせるほどの拷問ってどんな拷問なんだよ……」


 ゴーマットもドン引きしている。


「説明する?」


 ルルミアは拷問にはドン引きだが己の本から得た知識を披露するのは好きなので、ちょっと目を輝かせたが、ゴーマットは首を横に振った。


「いらん。怖いから聞きたくない」


「そういえば、ゴーマットは今ギルド長なんだね。案外似合ってる」


「ありがとよ。天狼平原の合同討伐依頼でお前達に命を救ってもらった後、怪我を治したはいいがうちのパーティーは半壊して装備も全部壊れちまったからな、引退して地元に帰るかと思ったらクルンヴァルトのリーマイアギルド長にスカウトされてな、ちょうどラグランティア支部の支部長が年齢を理由に引退したがってるから後釜にどうだ?ってよ。で、リーマイアの推薦が通って今にいたるってわけだ」


「二人はゴーマットが支部長だと知ってた?」


「知ってたが、さっき話したように俺は厄介なお姫様に目をつけられていた。冒険者を下賤な輩と言い放つ馬鹿が俺と支部長が知り合いだと知ったら何しだすかわからなかったから接触は控えていた」


「私も理由は同じ。私が接触しても兄さんにいちゃもんつけてギルドに迷惑がかかると思ったから」


「俺は就任してすぐはデュークの奴が騎士になってるって知らなかったな。そもそもお前らと灰色の牙が解散したのを聞いたのが治癒院出てからだったし解散理由もデュークが家を継ぐからとしか聞いてなかったからな。デュークが戦場で活躍して、姿絵が出回ってるのを見て初めて『黒猫』のデュークだって気がついたんだ。俺は二人も俺が支部長になったって気づいてなかったと思っていたが、まさかあのワガママ脳筋お姫様が絡んでるとはな」


 接触しなくて正解だったな、とゴーマットもしみじみ頷いた。


 どうやら紅の騎士団と冒険者ギルドの間で一悶着あったらしく、事の説明中でもリグリエッタの名を出すと渋い顔し、リグリエッタを殴り飛ばした話をしたらよくやったと肩をたたかれた。


「で、なんでシャロはメイドなんだ?」


「そこは私も聞きたかった」


 二人の疑問にシャロは何を当たり前の事をって顔した。


「兄さんと一緒に居られるから」


「騎士じゃだめだったの?」


「お前の実力なら、余裕でなれるだろ?」


「騎士だと夜一緒の天幕で寝られないから」


「え?そんな理由なの?」


「これは重要。兄さんは騎士になって人前でモフナデするのを控えるようになった。王都なら家の中でモフナデし放題だったけど、今みたいな戦争中の天幕生活だと長期間モフナデができない。そんな兄さんのストレスを和らげてあげるためにも私はプライベート空間でも常に一緒な妹メイドを選択した」


 二人は俺がモフナデを自重している事に驚きの声をあげ、シャロの説明に納得の表情をした。


「デュークがモフナデ出来なくてストレスためるとか、ドラゴンベルより危ない」


「王都が半壊する危険性があったって事だな」


「お前ら、酷くない?」


「酷くない」


「現に今だってシャロの頭を撫でてるじゃないか」


「ハッ!」


 また無意識に手が出ていた。この手が悪いんです無節操なこの右手が俺は悪くないモフモフナデナデ。


「まあ俺達の事情は分かっただろ。ルルミアはずっと知識の塔に?」


 解散時にルルミアは知人に誘われたからと研究都市イサカの中心にしてバーランディア大陸の最高学府である知識の塔に行くとは聞いていたがそれ以降音沙汰がなかった。


 どうせ知識の塔の中にある本を全て読んでたに違いないだろうが。


「うん。ずっと本を読んでた」


「読んだことのない本はあった?」


 シャロ質問にルルミアは悲しそうに首を振った。


「なかった。バーランディア大陸一の蔵書量だというから期待してたのに。そうそう本だよデューク。キーランに頼んで読ましてもらえって言ったけど、私の読んだことのない本がルフラントに本当にあるの?」


 今度はずずいっと鏡に近づいて興奮気味な顔をするルルミア。


「俺は可能性がある、としか言ってないぞ」


「その根拠は?個人の日記は歴史的価値のある物以外は対象外だよ」


「歴史的価値のある日記もあるかもしれないが、俺が可能性と言ったのはパムルゲン関連だよ」


「千年前に滅んだパムルゲン神聖王国の?確かにあの国に関する書物は現存数が極端に少ない。でもそれはユールディン帝国が徹底的にパムルゲン関係の痕跡を消したのが原因。その帝国にパムルゲンの本が残されているかな」


「ユールディンほどでないにしろ、同じようにパムルゲンを滅ぼした我が国にだってパムルゲンに関する情報は秘匿されて保管されている。我が国にあるのは吟遊詩人スコラトがパムルゲンに訪問した際に書かれた日記だ」


「それは写しを読んだことがあるよ。当時のパムルゲン国内の生活ぶりや、パムルゲン教に関する教えに対する私見が書かれていた貴重な資料だった。オリジナルが現存していたのは驚いたけど」


「パムルゲン殲滅戦争じゃあライ・パムルを陥落させたのはユールディンだ。その際に全てを破壊、燃やしたわけだが、我が国のように将来的にパムルゲン教が復活した時のために当時の資料を残しておくのは不思議じゃないだろう?」


「確かに。可能性はあるね」


 ルルミアは納得したようだ。


 これでとりあえずは大丈夫かな、と思ったら、ルルミアはだけどね、と続けた。


「残していない可能性もあるよ。何故ならスコラトが書いた日記の中ではライ・パムル内では獣人は酷い扱いを受けていた。血の繋がりを重視する傾向の強い獣人が、それを見て将来のためにと自分達を虐げた元凶を残しておこうとするかな」


「あー、確かに、それはそうかも」


「だからもし残ってなかったら、ラグランティアのスコラト日記のオリジナルを読ませて欲しいな」


「それは、出来なくはない、とは思うが」


 リンクス公爵あたりに頼めば大丈夫、かな?


「それに、久しぶりに二人に直接会いたいしね」


「分かった。ユールディンにあるないは別にして、こっちはなんとかするよ」


「やった」


 ルルミアは嬉しそうに胸の前で両こぶしをキュッと握った。


「すみません。お待たせしました」


 話が一段落したところでタイミングよくトルーマンが戻ってきた。


「依頼は無事受付完了しました。今回はAランク冒険者のソルドリという者に頼みました。こっちでは知られたシーフで、この支部の冒険者達のまとめ役です。シーフなので足が早いうえに仕事ぶりも丁寧で確実、特定の貴族と仲が良いということもないため依頼は無事に達成してくれるでしょう」


「そうか。支部長であるあなたがそこまで言うなら大丈夫なのだろう」


「はい。それとこれは個人的興味からの質問なんですが、第二皇子キーラン様の事を先ほど灰色の牙のキーランだ、とおっしゃっていましたが、まさか第二皇子は元Sランクパーティー冒険者の『剣狼』なんですか?」


「ああ、その通りだ。だが、周りに吹聴しないように。あいつの冒険者時代の女ぐせの悪さは皇帝になってから絶対足を引っ張る」


 帝城の前に連日夜のお店のおねーちゃんがあなた様の子どもですと押し寄せてくる姿が想像できる。

 

 一番の問題はその中に本物が混じっている可能性がマジであるって事だ。


 キグスリーの苦労が偲ばれる。


「時間の問題」


「だよね」


「どーせ現在進行形でやらかしてるだろうしな」


 奴の業を知っている面々は中々辛辣だ。俺も全面的に同意するが。


「はっはっは。剣狼と言えば女好きというのは冒険者達の間では有名でしたからね。もちろん周りに口外はいたしません。ただ、冒険者としてトップランクだった方が皇帝になられた方が我々にとってはありがたいのも間違いないですから」


「まあな。そこは同意するぞトルーマン」


 ゴーマットがこちらを見ながら同意する。


 すまんゴーマット。俺はもう騎士団長辞めるつもりだから。


「とにかく急な依頼を受けてくれて助かった。ソルドリが依頼を達成して戻ってきたらまたゴーマットに連絡をくれ。ドラゴンベルの奪還についても進展があったら同様に」


「わかりました。我々としましても両国の和睦は大歓迎です。そちらも上手く事が進むよう祈っております」


「ありがとう。ルルミアも今回は助かった。ひとまず国内のゴタゴタが片付いたら一度連絡する」


「うん。待ってるよー」


「またねルルミア」


「シャロも気をつけてねー」

 

 ゴーマットが鏡に魔力を通すのを止めると、むこうの姿が消えて、普通の鏡に戻った。


「よっしゃ。これでドラゴンベルはどうにかなるだろう。ゴーマットもいきなりすまなかったな、助かった」


「あの日、命を救ってもらったんだ、これくらいじゃまだ返しきれない」


「そうか、ならまた何かあったら手を貸してくれ」


「もちろんだ。いつでも頼ってくれ」


 案外すぐに頼りにくるかもなぁ、なんて考えながら俺達はマドスの鏡部屋を後にした。




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