新しい本が読めると聞きまして
遅くなりました…。
評価ポイントつけていただいた方、ありがとうございます。
俺とシャロは冒険者ギルドのギルド長ゴーマットに案内されてギルドの最奥にある部屋へと来ていた。
「今鍵を開ける」
ゴーマットが厳重に施錠された鍵を開けていき、ドアを開いた先には木製の簡素な鏡台が置かれていた。
これこそが、『マドスの鏡』。
冒険者ギルドのみがもつ特殊な魔道具で、冒険者ギルドの創始者、賢者マドスが作ったとされている。
この魔道具は、世界各地に存在する冒険者ギルドを繋ぐために産み出された物で、特殊な魔方陣が刻み込まれた鏡の前で会話をしたい支部名を口にしながら魔力を流すと、例えどんなに離れた場所にあっても相手の支部と鏡が繋がって会話ができるという驚きの性能を持っている。
「それで、こいつが必要な事態ってのは何なんだ?」
「ドラゴンベルが盗まれた」
「何ぃ?!ありゃ王宮で厳重に管理されてたんじゃないのか?」
「内部に手引きした馬鹿がいる」
「何てこった」
「今、ユールディンに向かってる最中だ。運び人はシャハルザハルの目だ」
「はあ?!なんで奴らが?」
「話すと長いから後でまとめて説明する。まずはユールディンの冒険者ギルドに繋いでほしいんだが、パムルゲン平原から帝都までの間に『マドスの鏡』を所持している支部はどこだ?」
「ちょっと待ってろ」
ゴーマットは鏡台の引き出しから一冊の本を取り出した。
「これは全世界冒険者ギルド支部一覧だ」
索引欄にユールディンを見つけると、ゴーマットは三つの支部を指し示した。
「一つ目がここ、帝都ルフラント支部だ。二つ目はここ、研究都市イサカ支部、三つ目がここ、湖畔都市バートだ」
キーランが第一皇子派の残党と傭兵の混成軍が待ち伏せしていると話していたが、具体的な場所については聞いていなかった。
「とりあえずイサカに繋いでくれ」
「わかった」
ゴーマットは鏡台の前で鏡に触れて魔力を少量流しながらイサカ、と口にした。
すると、少したってから鏡の向こうに虎の獣人が写し出された。
「こちらユールディン帝国イサカ支部支部長のトルーマンだ」
「こちらラグラント王国ラグランティア支部支部長ゴーマット。緊急につき連絡した」
「久しぶりだなゴーマット。緊急とは?」
「彼が説明する」
ゴーマットと席を代わり、トルーマンに用件を説明する。
「初めてお目にかかるトルーマン支部長。私の名はデューク・コスタル。ラグラント王国第三騎士団の団長を務めている。さて緊急用件とは、実は我が国が保有していたドラゴンベルという魔道具が北の大陸で有名な暗殺者集団であるシャハルザハルの目によって盗難され、現在ユールディン帝国へと運ばれている最中だ」
「ドラゴンベルという魔道具の性能と特徴を教えてくれませんか」
「ドラゴンベルは建国王ラグラントが使用した魔道具で、金色の手のひらくらいのベルだ。このベルを鳴らすと、亜竜を呼び寄せることができる。だが呼び寄せた亜竜を支配下に置くことはできないため、下手に使用すると呼び寄せた亜竜がその場で暴れだして手がつけられなくなる。先ほどユールディンへと運ばれていると言ったが、受取人はおそらく第三皇子だ。和睦を成した際に第三皇子がクーデターを目論んでいるとキーラン第二皇子から話を聞いたが、現在ユールディン帝国内はどのような情勢なのか教えて欲しい」
鏡の向こうのトルーマン支部長は渋面になり腕を組んだ。
「話を聞く限り非常に危険な魔道具のようですなコスタル団長。実はコスタル団長のおっしやった通り、第三皇子はクーデターを起こしました。パムルゲン平原での和睦が成されたとの報があってすぐの事です。その後帰還途中に待ち構えていた第一皇子派の残党と第二皇子が湖畔都市バートとこの街との中間あたりで激突し、第二皇子が蹴散らしました。第二皇子はそのまま進軍を続けて、昨日我が都市を通過したため現在はここから早馬で半日くらいの距離まで進んでいると思われます」
「では今すぐ使者を出して警告すれば帝都での戦いには間に合うのだな。トルーマン支部長、緊急依頼で第三皇子キーラン殿か執事のキグスリー殿宛にドラゴンベルの危険性と、第三皇子の手に渡る前にシャハルザハルの目から奪還するよう書いた内容の手紙を届けてくれ。手紙自体はあなたに書いてもらうが、キーラン殿が配達人を怪しんだら私からの言付けとして、『かたい干し肉と安酒はまた今度だ』と伝えればおそらく大丈夫だ」
「わかりました。依頼報酬は如何いたします?」
「足が早くて信頼できる奴を金貨三十枚で指名依頼してくれ」
「了解です。しかしシャハルザハルの目が運び人となると探し出すのも難しいと思われます。何か手がかりは他にありませんか?」
「一応捕縛したシャハルザハルの目の構成員を拷問して容姿を聞き出した。中肉中背、普人、三十代前半、髪の色は茶色、瞳は青だそうだが、ただ変装している可能性もある。右耳に魔道具のピアスをしている」
「うーむ、人混みにまきこまれたらすぐにわからなくなる外見をしていますな」
「ああ、そこである人物の力を借りたいのだか、多分知識の塔で本に埋もれてるはずだから今すぐ呼びだしてくれ。名前はルルミア。新しい本が読める可能性があると言えばすっとんでくる」
「ルルミア様ですね、分かりました。少しだけ席を外します」
トルーマンが鏡に映らなくなってから、ゴーマットが話がかけてきた。
「もしかしてなんだが、ユールディンの第二皇子って、あのキーランか?灰色の牙の?」
「そのキーランだ」
「……あいつ、皇子だったのか」
「俺も戦場で再会して驚いたよ」
「あの女好きで、娼婦にいれこんじゃあ金欠になってたあのキーランがなぁ」
ゴーマットの微妙な表情は理解できる。
冒険者時代を知っている人にとってはあいつが皇子とは信じられないよなぁ。
あいつの冒険者時代に入れ込んだ女の話をしていたら、唐突ににバンッ!と鏡の向こうでドアが開く音がした。
「新しい本が読めると聞きまして」
鏡の向こうに姿を表したのは、ちょっと髪がぼさついた金髪のエルフだった。
「久しぶり、ルルミア」
「久しぶりー」
「久しぶりだな」
「おお、鏡の向こうは知ってる人だらけだ」
ルルミアは目をくりくりさせていた。
「早速だがルルミア、お前に頼みたい事がある。実は今俺達はある魔道具を調べているんだが、使い方がよくわからなくてな。これなんだが、わかるか?」
俺は懐からピアスを取り出して目の前にかざしてみた。
「ん~~?デューク、今それに魔力を流してる?」
「いや、流してない」
「どこからかそのピアスに魔力が流れ込んでる。微弱だけど。多分居どころを探すためのもの」
「魔力に見覚えは?」
「ないかな。発している魔力を探知はできそう」
「どうやって?」
「鏡にそのピアスを接触させて」
「こうか?」
「そうそう。この鏡って物質はやりとりできないけど声と姿はやりとりできるよね?実は声って微量の魔力が通ってるんだよ。それに私達は生きてるだけで微量の魔力を発している。だからこの鏡に映っているのはその魔力波長を鏡が読み込んで映しているんだよ。だからこのピアスも鏡越しに魔力をやりとりできないかなーっと。うん、できたね」
「できたのか、スゲーな」
相変わらず魔術や魔力に関しては天才的だなこいつ。
「このまま魔力を辿っていくとー、北の大陸方面だね。ほかにも沢山の魔力を各地に伸ばしてる」
「その中でユールディンに伸ばしてるのはいくつある?」
「ええーっと、一つだけ」
「場所、突き止められるか?」
「正確な場所と言われると私には無理。表現ができない」
「お前、方向音痴だからな」
「場所は無理でも相手に印をつけるのは可能かも」
「やってくれ」
「ほいほーい」
ルルミアは指輪に鏡ごしに魔力を流し込んでいるようだ。
「完了したよ」
「どんな印なんだ?」
「魔力を過供給して相手のピアスを爆発させたから右顔にけっこう大きなけがをしたはず」
「怪我のあとがある奴を探せばいいのか、ありがとうなルルミア」
「お礼は新しい本で」
ルルミアはかなり興奮状態だ。ワクワクした目をしながら前のめりになっている。
「灰色の牙のキーラン、いただろ?あいつユールディンの第二皇子で、今クーデター起こした弟の第三皇子を殺しに向かってるんたけど、うちの国から盗まれたヤバい魔道具が第三皇子の手に渡ったらそれもどう転ぶかわからん。だからこのピアスしてる配達人を探してたんだよ。キーランが無事弟を殺って皇帝になったら協力したお返しに皇室にある本を読ませてもらえるよう頼めばいい」
「キーランが皇子だって話も初耳だけど、皇帝になるってのもビックリ」
「トルーマン、聞いてんだろ」
「聞いてます」
「さっき話した手紙の内容に右耳とそのあたりを怪我しているって追加しといてくれ」
「分かりました。これで大分絞れますな」
「ああ、早く見つかるといいんだが」