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噛ませ犬は何か見た目に統一性がないと駄目なのだろうか。



「見えてきましたね」


 アベイルやリッツ達と別れてから三十分ほどで目的地が視界に入った。


 遠目からでもわかる松明の焚かれた大きな門。


 久しぶりにみる王都だ。


 東門の上には衛兵が四人。


 夜番の衛兵達はサボる事なく警備している。


 俺達の馬の蹄の音が聞こえていたのだろう、向こうもこちらを発見して、一人が中に知らせに行った。


 俺達は焚き火が照らす明かりの範囲に入り、向こうはこちらが近衛騎士だと(四人中三人は偽物だが)気づいて、背筋を伸ばして対応した。


「警戒ご苦労!近衛騎士フリッツ・バセットだ!緊急の要件につき今すぐ門を開けろ!」


「フリッツ様、衛兵中隊長のハリーです。何故東門からお帰りに?」


「極秘の任務につき内容は答えられん!だが国を揺るがす一大事なのだ!早く門を開けろ!」


「しかし夜間の開門はご本人確認が必須でございます。今近衛騎士団の詰所に人をやり」


 俺は中隊長の言葉を遮り、ちょっと低めに声を変えた。


「ハリー中隊長」


「はい」


「貴様は反逆者か?」


「め、滅相もございません!」


「我が国はユールディンとの和睦を成し遂げた。しかし、それをよしとしない反逆者どものせいで今まさに和睦が反古にされかねない事態が起きようとしている。重ねて聞くが、貴様は反逆者か?」


「も、門を開けろ!今すぐだ!」


 ハリー中隊長は慌てて中に指示を出し、ガラガラと門が開きだした。


「すみません」


「いい。それより急ぐぞ」


 俺達は門が開けきる前に中へと馬を走らせた。


 冒険者ギルドはこのまままっすぐ行った先の右側にあるそれなりに大きな建物だ。


 深夜のため人気のない道をかっ飛ばし、すぐさま目的地の前に到着する。


「手筈通り、抜かるなよ」


 シュライザーはそのまま裏口へ、フリッツは俺達とともに中に入り、正面入り口前に陣取った。


「キャッ!何なんですか?!」


 夜勤の受付のギルド職員の女性が俺達を見て何事かと驚いた顔をしている。


「すまんが緊急用件だ。ギルド長を呼べ。今すぐだ」


「え?え?騎士様、ギルド長は自宅にお帰りに」


「今すぐ叩き起こせ。後この中にいる者はすまんが事が済むまではここから出ていくのを禁止する」


 併設された酒場でイビキをかいていたところを叩き起こされた冒険者達は、いきなりの事に何が起こったか理解していない奴が大半だった。


 ただ、理解した奴はいきなりの上からの対応にムッとしているのが何人かいるようだ。


「おいおい騎士様よぉいきなり冒険者ギルドにやってきて、気持ちよく寝落ちしていた俺達を叩き起こしてくれた挙げ句いきなり何命令してやがんだ」


 禿げ頭の傷だらけの大男が俺の前に立って文句を言い出した。


 なんてーか、どこの国のギルド行ってもこんな外見の噛ませ犬がいるんだよな。


 噛ませ犬は何か見た目に統一性がないと駄目なのだろうか。


「起こしたのはすまないと思っているが、国を揺るがす一大事なのだ。今は従ってもらう」


「ああ??俺達ゃこの国の国民じゃねぇぞ!」


「だが、今現在この国にいる時点でこの国の法の下にいるということだ。悪いがこれ以上議論する気はない」


「ハッ、お上品な騎士様のお上品なお言葉は俺みたいな奴には理解できねぇな」


 やっちまえー!ぶっ殺せー!と他の奴らからの煽りが入る。


 いや騎士を理由もなく殺したらお前らも死罪だぞ?


「従う気はないと?」


「力ずくで従わせてブグッ!」


「その方が楽だし早いな」


 俺は禿げ頭をギルドの床に叩きつけた。


 床板が割れて頭がそこに突っ込んだ状態で気絶してしまったようだ。


「何だ、最近の噛ませ犬は弱いにもほどがあるな」


「な?!双斧のギリーが一撃?」


「Bランクでも腕っぷしだけならAランクって噂のギリーが!」


「あの近衛騎士、何者だ?」


 他の奴らも今のでばっちり目が覚めたらしい。


「他に文句のある奴はいるか?」


「いるぜぇ、ここによぅ」


 酒場の奥から何か不健康そうな黒づくめの剣士と、やっぱり不健康そうな痩せた女魔術師とあばらの浮いた女シーフが出てきた。三人とも二十歳前くらいか?


 パーティー全員目の下に隈があるのはお揃いなんだろうか?


 野次馬がAランクパーティーの『黒渦』だ、あいつらならいけ好かねぇ騎士野郎をボコボコにしてくれるぜぇ!と実に説明的な野次馬科白を吐いている。


「冒険者ギルドはな、独立した組織だ。国とは協力関係にはあるが上下関係じゃあねぇ。この中じゃ国の権力より冒険者の自由を尊ぶんだよ」


「そんな事は知っているが、それはあくまでギルドが国の傀儡組織にならないようにするための建前だ。いざという時に優先されるのは国の安全で、そこには最大限の協力をするっていう約束事があるんだよ」


「お前らの緊急用件が本当に国の一大事だって証拠はどこにある?大方腐れ貴族の命令で奴らの強欲を満たすために動いてんだろ?」


「お前らに詳しく説明する気も暇もない」


「ふん、権力者の犬が!」


 いきなり斬りつけてきた黒づくめ剣士は剣まで真っ黒だった。


 視界の隅で魔術師が黒い杖をかざして詠唱を、シーフが黒いナイフを構えるのが見えた。


「だから、緊急だって、言ってんだろがこら!」


 俺は黒づくめ剣士の黒づくめ剣を避けながら横から殴って剣を折り、その折れた切っ先をとっさに掴んで魔術師に投げつける。同時にそのままあっけにとられている剣士を禿げ頭同様床に叩きつけた。


 切っ先は魔術師がかざしていた杖の魔石がついた上部分を綺麗に切り落として、魔術師の頬を掠めながらそのまま壁に突き刺さった。


 魔術師は杖の下部分を取り落として、ぺたりと腰を抜かした。


 シーフはいつの間にかシャロがナイフを奪って喉元に当てていた。


「僕の出番はなかったですね」


 抜いた剣をそのまま鞘に戻し、あははと乾いた笑いをするフリッツ。


「まだいるか?お前は?ぶっ殺せとか言ってたろ?やらない?じゃあお前は?遠慮します?そうか」


 俺は受付で固まっている職員の方を向いた。


「で、ギルド長はまだか?」


「い、今すぐ呼び出しますぅ!」


 女性職員は慌てて他の職員を探しに行った。


 俺は座り込んでいる魔術師とシャロがナイフを首に当てたままのシーフに視線を戻した。


「ヒッ!」


「て、抵抗しないから、ナイフを下ろして、お願いだぁ~」


 二人とも泣き出してしまったので、シャロにナイフを下げるように言って、切り落とした杖の先を拾って魔術師に投げ渡した。


 あわわ、となんかどんくさそうな声を上げながらそれを受けとる魔術師。


 シーフもシャロからナイフを返され、何か丁重な仕草で受け取っていた。


「お前ら、Aランクパーティーって本当なのか?」


 二人はビクッと肩を震わせながら、恐る恐る頷いた。


「えー、そこの黒づくめはいいとこBランクの下の方にしか思えないけどな」


 ちなみに禿げ頭はCランク。


「シーフも動きが遅かった。Cの上くらい」


 シャロもこいつらがAランクとは思えないようだ。


「魔術師のあんた。使える中で一番威力のある魔術か一番難易度が高い魔術は?」


「あ、えと威力はファイアーアローです」


「同時に何発出せる?」


「さ、三発、です」


 三発かぁ…。少ないなぁ。Cの上だぞ。


「難易度は?」


「フォーリンミストです」


「ほう!範囲は?」


「あ、密度を下げないように保つと五十メートル四方、です」


 フォーリンミストは霧を発生させて視界を奪う魔術だが、水属性と風属性の細かな調整が必要になるため難易度は高めだ。


 それを五十メートル四方なら中々の腕だ。


「優秀じゃないか。あんたはBランクの上のほうだな。それでもAランクには届いていない気がするけど」


「あ、その、私達、Aランクになったのはラグラントに来てからで」


「ここに来るまでは、騎士様の言う通り、アタシはCで、魔術師のミルルはB。剣士のバドはBだった、です」


「ラグラントで何かランク以上のでかい依頼をやってのけたのか?」


 たまにいるのだが、偶然ランク以上の難易度になってしまった依頼を達成して、本人達の実力に見合ってないランクに上がってしまう運が悪いんだか良いんだかわからない奴が。


「ち、違います。その、私達元はクルンヴァルトに居たんですけど、まわりの実力が高くて中々思うように稼げなくて」


「だから治安が良くて依頼難易度が低めのラグラントに移ってきたんだ、ですよ」


「ミョンのいう通りです。ここの依頼は私達からすると難易度のわりに一段階ランクが高い設定でした」


 クルンヴァルトならCランク向けの依頼がラグラントならBランク向けって感じになってるのか。


「あー、クルンヴァルトってか北の大陸は治安は悪いし魔物も多いしダンジョンも沢山あったからなぁ」


 何故か東バーランディア大陸にはダンジョンは存在しないんだよな。魔物も少ないし。


「あの、騎士様は北の大陸に行かれた事が?」


「騎士様と女騎士様、その、冒険者だった、ですか?」


 二人は恐る恐る質問してきた。


 うーん、こいつらとは知り合いではないと思うんだがな。


「昔、騎士になる前にな」


「クルンヴァルトで」


 二人は顔を見合わせると、やっぱり、と口を揃えた。


「一体何事なんじゃい!」


 受付の奥からドワーフ特有のがなり声が聞こえてきた。


「やっと来たか」


「待たせ過ぎ」


 ドタドタと足音が近づいてきて、バッターンとドアを壊すような勢いでドワーフが入ってきた。


「お前らか人が寝ているところを叩き起こせとか言って呼び出しやがったのは!」


 激おこなギルド長に、俺とシャロは兜を脱いで頷いた。


「その通り、俺が呼びだしたんだゴーマット」


「久しぶり」


「なッ?!まさか、お前らだとはな。なんの用だってんだ『黒猫』兄妹」

 

「借りを返してもらいに来た」 


「今すぐ」


「わかった。内容は?」 


「『マドスの鏡』を使わせてくれ」


「そりゃお前さん方なら大丈夫だが、なんでまた?」


「詳しくは中で話す」


「すまん、緊急だったな。こっちだ」


「フリッツ、見張りを頼む」


「了解です」  


 フリッツに後を頼んで俺とシャロはゴーマットに続いてギルドの奥へと進むのだった。



 

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