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私の尻尾も、捨てたものじゃないですよ?


 周囲で見ていた男性陣に若干のトラウマを与えてしまった拷問の成果により、パルダス侯爵家の馬鹿どもが何を企んでいるか分かった俺達は、第三騎士団を二手にわけて移動することにした。


 急ぎ冒険者ギルドにいく必要がある俺と、もちろんシャロ。


 リッツとアベイルにシュライザー。


 そしてフリッツと、恩赦のためにパルダス侯爵家へ逆スパイする事になったミッドだ。


 マリーとメラニアが何故かついて行きたがったが、メラニアはそもそもノックスと一緒じゃないと意味ないし、多分着いて行きたがった一番の理由である神様関係は今回はないし、危ないからとシュライザーに説得してもらう。マリーはモフばれの追及が怖かったから理由をつけて却下した。


 少数過ぎるとの意見もあったが、拷問の結果シャハルザハルの目はユールディンに向かった奴以外はもういないと分かったのでそっちの襲撃は心配いらなくなったし、もし俺達を狙う輩がいるとしてもパルダス侯爵家派閥の手先くらいだが、すでに王都付近では近衛騎士団の街道周辺の巡回等による厳戒体制が敷かれており、大規模な人間の移動はすぐにバレるから流石に表だって動くのは無理だろう。


 小勢の待ち伏せによる奇襲ならあり得なくもないが、シャハルザハルの目とミッドと始末屋を雇うのに金を使いすぎたパルダス侯爵家が金のかかる凄腕の殺し屋や傭兵を他に雇っているとも思えない。


 なので馬を飛ばせば半日で王都に着けるだろうから、移動速度を重視しての小隊規模の編成が一番良いだろう。


 おまけに夜間の強行軍なので、夜目のきくアベイルに先導役を任せる。


 ミッドは途中で別れて王都西門側にあるパルダス侯爵家へ向かい、シャハルザハルの目は依頼を遂行してフスカ男爵とこちらに向かっていると嘘の報告をしてもらい、報酬を貰ったら安全のためそのまま一度王都を抜け出す事にする。


 念のための護衛でリッツをつける。


 俺達は東門側にある冒険者ギルドで緊急依頼を出し、キーランかキグスリーに『ドラゴンベル』を持ったシャハルザハルの目の暗殺者が第三皇子にそれを献上する気だと警告をし、そいつを止めてもらうよう伝言する。運が良ければそいつを追跡できるよう手も打つ。


 依頼後は近衛騎士団の詰所へと行き、パルダス侯爵家とその一派を秘密裏に包囲し、第三騎士団が戻ってきて外側から各門を封鎖したら奴らを一斉に検挙し、一人も逃がさない予定。


 この際俺とシャロ、シュライザーは近衛の鎧を借りてパルダス侯爵家にバレないように王都に入る。


 幸い近衛の団員達は俺達三人と背格好が似ていたため鎧もすんなり着れた。


 ただ俺が鎧を借りた団員は猫系獣人だったため、尻尾の穴にミリカから貰ったらダンプリンキャットの尻尾をつけて偽装する。

 

 シャロはなんだか複雑そうな顔をしていたのが、ミリカはこれはこれで、と言っていたのが印象的だった。


 アベイルは城門を潜らず待機。ミッドとリッツが抜け出してきたら合流し、ランデル率いる後発隊を待つ予定。


 拷問後に即ここまでの指示を出し、念のためシャハルザハルの目の奴らは再びシャロ特性の動けなくなる薬を飲ませて鎖でがっちり拘束して専用馬車にフスカ男爵とともにぶちこむ。


 ちなみに目が覚めたらシャハルザハルの目の奴らと同じ拷問をして全て吐かしてやろうと思っていたフスカ男爵は、拷問の最中に目を覚ましていたらしく、何でも喋るからその拷問だけは勘弁して下さいと、泣きながら跪かれた。


 拍子抜けしてしまったが、小心者の小悪党が、自殺上等のガチの暗殺者が泣きわめいて許しを願い口をわるような拷問を見て我をはるなんざ出来ないわなと納得して、器具をちらつかせながらの聞き取りで全部吐かせた。


 やはり、パルダス侯爵家の第一夫人とは不倫関係で、子供も全部フスカ男爵との子供らしい。


 第一夫人は現侯爵といたす時は避妊薬を飲んでいたとの事。


 ちなみに第一夫人との不倫関係は現侯爵と夫人が婚約者だったころに両家の顔合わせで知り合ってからとかなり若い頃からの関係で、よくバレなかったなと思うが、金をばら蒔いて口封じを行っていたらしい。


 だが、年々関係が派手になって行くにつれて金も派手に飛んでいくようになり、現侯爵が疑いの目を向け始めたのもあって現侯爵を亡き者にしようと画策して、ホリビス伯爵に息子が侯爵家を継いだら伯爵の商売の手助けをしてやる事を条件にシャハルザハルの目を紹介してもらい、現侯爵を怪しまれずに毒殺しようとした。ちなみに長男と次男は第一夫人による教育の賜物で、実の父親が誰なのかも知った上で現侯爵と血の繋がった息子の振りをしているとな事。救いようがない。


 しかしそんな時に計画の全貌を知る息子とホリビス伯爵の次男が俺達によって捕縛されたとの情報がもたらされた。


 これはシャハルザハルの目の一人で、リッツに殺られた荷馬車の奴がパルダス侯爵家次男の従兵として紅の騎士団に潜入しており、紅の騎士団が俺達にボコられている時にその場から逃走して報告したようだ。


 確かにあの時は紅の騎士団をボコるのが楽しくて従兵の事なんか頭になかったが。


 ここで第一夫人はシャハルザハルの目に新たな依頼をする。


 騎士団の団長を殺して現場を混乱させて息子を救出し、さらに息子がリグリエッタ姫を救出したという体で王都へと帰還させて、国王様の覚えめでたくさせてリグリエッタ姫との婚約を画策して王家との繋がりを作る、といった内容だ。


 フスカ男爵はそこにホリビス伯爵家の乗っ取りを提案した。


 騎士団長だけでなくホリビス伯爵の次男を含む何人かを巻き添えにして殺した方が派手にそちらに目を向けられる。息子とは別の護送車に入れて、そちらをまとめて毒殺すれば問題ない。実行犯はシャハルザハルの目から以前から消すのに手を貸すよう要望を受けていた落伍者の奴らを使えば依頼料も削減出来る。ホリビス伯爵家を乗っ取れば、今までとは比較にならない金が手に入るのは、実父を亡き者にするために協力して以降の実弟を通じて知っているはず。今度は貴女が実弟とその長男をシャハルザハルの目を使い亡き者にし、何不自由ない生活を送る権利を得る番なのだ、と唆したらあっさり頷いたらしい。


 ただ、第一夫人はフスカ男爵を完全に信じていたわけではないので、寄り子を使って非合法ギルドに監視役と万が一失敗したときの保険として始末屋を雇う。


 どちらも呆れたグズっぷりだが、クズはクズ同士引かれ合ったのだろう。


「こんな奴らが沢山いるから貴族ってのは嫌なんだよな」


「いや、団長やゴルズ男爵様みたいなお貴族様もいらっしゃるじゃないですか」


 フスカ男爵達が専用馬車にぶちこまれるのを監督していた俺の愚痴に、シュライザーが気を使ってくれるが、彼も平民から騎士になり、貴族はどちらかと言えば俺やゴルズのじいさんではなくフスカ男爵や紅の騎士団のような奴ら寄りが多い事は身をもって知ってる。


「田舎者の少数派だけどな。それより、近衛姿も様になっているじゃないか」


「団長こそ、尻尾がよくお似合いですよ」


 話を強引に変えた俺のからかいに、シュライザーも乗っかる。


 こういう所がこいつの良い所だ。


 さて、気分を切り替えた所でそろそろ動くか。

 

「ランデル、後は頼む」


「団長こそお気をつけ下さい。今回はかなりの数の貴族が関わっています。パルダス侯爵家以外にも実力行使に出る浅はかな貴族がいないとも限りません」


「分かってる。だが、蹴散らすまでだ」


 ランデルは苦笑いしながら団長ならそうおっしゃると思っていましたよと口にした。


 続いてゴルズのじいさんとミリカが見送りに来てくれる。


「デュー坊、シャロちゃん、気を付けるんじゃぞ」


「デュー兄、シャロ姉、無事にまた会いたいんよ。シャロ姉、よければこれ持ってって欲しいんよ」


 ミリカはシャハルザハルの目から押収した魔道具の、弦のないクロスボウをシャロに手渡した。


 腰に取り付ける皮製の専用袋も一緒だ。


「この魔道具、内部に魔石が埋め込まれていて、この引き金を引くと中に入ってる金属製の玉を射って相手に当てる武器なんよ。でも訓練しないと多分当てるのは難しいんよ。だから金属製の玉の代わりに時限玉を金属で包んで射てるよう改良したから当たらずとも近くで時限玉を爆発させる事は可能なんよ。魔道具と時限玉の魔力を同一化したから百メートル離れても爆発させる事が出来るようにしたんよ。起爆はもう一度引き金を引けば爆発するんよ」


 おおぅ、凄い楽しそうに魔道具いじってるなと思ったら魔道具を魔改造していたか。ミリカ、恐ろしい子。


「ありがとミリカ。使うのが楽しみ」


 シャロも気に入ったようだ。


「ミッド、お前は何かあったら無理せずリッツとアベイルに守ってもらえ」


「言われなくても無理なんかしねぇよ。俺は荒事はからっきしなんだ。だから俺の事をジャムの瓶として見ないでくれ。お願いだから」


 ミッドには無事にお前を村に送り返せばホワイトハニーサックルジャムが一生タダだと伝えてあるため、俺が自分を見る目がジャムを見ているように思えてきたらしい。間違ってはいない。


 戦続きでここ数年はクルンヴァルトや北方エルフの村、ヅミロス様の社にも行けていない。


 ふわふわもっちり食パンと出来立てのジャムも食べたいが、収穫したばかりのホワイトハニーサックルも食べたい。


 早く騎士団長を引退したい理由がまた増えたな。


「リッツ、アベイル、シュライザー、用意は良いか?」


「「「はッ!いつでも行けます!」」」


「フリッツ、匂いは覚えたな?」


「大丈夫です。シャハルザハルの目やフスカ男爵と接触した相手が近づいて来たらすぐにわかります」


 では出発しようとしたらサッとマリーが近づいてきた。  


 こいつ瞬間的に紅の聖鎧使いやがった。


 器用な真似を。おかげで逃げられなかった。


 話しかけて欲しい&かけたいオーラにずっと気づいていたけど気づかないふりしてたのに。


 ヤバい、こんな皆の目があるところで無視はさすがに出来ないぞ。


 モフモフはあれなんです魔が差しただけなんです無意識の所業なんですシャロの極モフがいけないんですだから俺が騎士団長引退するまでそのささやかな胸に秘めておいて下さいお願いします。


 俺の邪な願いが漏れたのか眉をピクッとさせながらマリーが俺の目の前に立った。


「団長、今なにか変な事考えませんでした?」


「考えてません」


「そうですか。しかし、やっと目を合わせていただけましたね」


 避けてましたもんね、と非難の目を向ける。


「何を言っているのかわからんな」


 僕わかんない対応で逃げを図る。団長は汚いのだよ。


「団長、私は貴方を尊敬しています」


 だから、『あの事は別に気にしていません』と視線で訴えてくる。


 だが、俺は知っている。


 女性の『気にしてない』は気にしていないけど忘れもしないという意味だということを。


「そうか、剣聖ナタリーの後継者たる貴殿にそう言ってもらえるのは光栄だな」


 とりあえずよいしょしてもう勘弁してもらえませんかと訴えてみる。


 マリーは何故かため息をついて、やれやれといった顔をした。


「団長、ご無事で。この揉め事が無事収束したら、また稽古をつけていただきたく存じます」


「そ、そうだな、また機会があればいくらでもつけてやろう」


 だから早く解放して下さい。何かシャロの目が怖いしミリカが謎の疑いの眼差しを向けてきているんだよ。


「あっと、そういえばリンクス公爵様から団長に言伝てを頼まれていたのでした。お耳を拝借願います」


 マリーはそう言っていきなり俺の耳に口を寄せてきた。


「私の尻尾も、捨てたものじゃないですよ?」


 思わずカッと目を見開いてマリーを見る。


 イタズラっぽい顔をして、尻尾を揺らしながら近距離で笑っているマリーから思わず後ずさる。


 ヤバい。なんつー破壊力抜群な言葉をはきよるんだこの獅子っ娘は思わずモフりそうになったやんけ瞬間的に腰に巻きつけてある偽尻尾をモフらなかったらやっちまってたわー危なかったわー。


 視線を感じて振り向くと、シャロがマリーと俺にジトーっとした視線を向けてきていた。


 ミリカは偽尻尾に手をやっている俺に対してウンウン頷いている。


 なんやこのいたたまれない空気。


「よしッ!それでは出発するぞッ!」


 気まずさから普段より大きな声を出しながら、俺は馬にまたがるのだった。



 

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