三度の飯より読書
寝落ちして遅くなりました…。
俺は手袋をはめて、拷問器具を手に取った。
「グラウ、シュライザー、こいつの両足を抑えとけ」
「了解でさぁ」
「わかりました」
「さて、自称リーセン君。今回の拷問はな、とある古代遺跡から発見された本に記載されていた」
俺は器具を持ちながらリーセン君の周囲を歩きながら説明していく。
「俺が冒険者時代にパーティーを組んでいた魔術師はな、とにかく本が大好きで、三度の飯より読書って奴だった。既存の本は読み尽くしたから新たな本を求めて冒険者になったって変わり種だった」
魔術師としては超がつくほど優秀だったが、本人はただただ本が読めればそれでよく、魔術の腕は魔術の本を読み尽くしたその副産物として上がっただけらしい。
本を読むために言語にも精通し、共通語はもちろん各国の言語も少数民族の言語も果ては古代語まで、読めない言語を探す方が難しいくらい何でも読めた。
「俺達のパーティーは依頼を遂行中に偶然に古代遺跡を発見した。誰も足を踏み入れた事のない新発見の遺跡だった」
俺は手に持った器具をペシンペシンしながらリーセン君の正面に立った。
「その遺跡は、かつてありとあらゆる拷問を行って恐怖政治を強いていたサドラス血流王の国、サドラシア王国だった。俺達パーティーは遺跡内部のえげつない罠をなんとか攻略し、王の間でサドラス血流王の怨霊をぶっ倒したら、王の間の奥に隠されていた宝箱から本が出てきた」
器具でアゴをクイッとやる。
「その本の名は、『拷問大全』。ありとあらゆる拷問が記された、くそみたいな本だった」
リーセン君はごくりと唾を飲み込んだ。
「うちの魔術師は、別に拷問なんか好きでもないしやる気もないくせして、新しい本だと大喜びしていたよ。遺跡から帰ったらすぐに読みはじめて、次の日の朝には隅からすみまで読み尽くしていたな」
俺はリーセン君の目の前に見えやすいように器具をかざした。
「俺は魔術師にどんな拷問が書いてあったか聞いたら、血が出る拷問が七割で、残り三割は基本血はでないけど加減によっては出ると返ってきた。だから俺は血が出なくて簡単で効果の高い拷問はないか聞いた。魔術師は、ある、と答えた」
リーセン君は器具から目が離せない。どうやって使うのか想像もつかないんだろう。
「俺はその内必要になるかもしれないと魔術師に拷問内容を教えてもらった。特殊な材料を使った器具が必要だったが、偶然か必然か、遺跡で手に入れた物の中に材料は揃っていた。材料があるなら作ってみるかと、使うあてはないのに作ってしまったのが、この器具だ」
作った当時はほんとにいつ使うんだよとパーティー内でも疑問視されていたなぁ。
「さて一応最後に質問だ!リーセン君、ユールディンに向かった仲間は何をもってどこに行こうとしているのかな?何?答えるわけないだろう?そーかそーか、じゃあしょうがない。まさかこいつを使う日がくるなんてな」
俺はグラウとシュライザーに、しっかり抑えていろよ、と言って、シャロとメラニアに外に出ているよう指示する。
二人が出ていったのを確認して、俺はリーセン君の下着をずらして○ン○を丸出しにした。
何をするんだとわめくリーセン君を無視して、俺はリーセン君のチ○○に器具をぶっ刺した。
「ヒギャアアァァァーーー!!!」
訳もわからずあまりの痛みにもの凄い叫び声をあげるリーセン君。
俺は刺せるとこまで刺すと、器具の付け根に突いていた小さな魔石に魔力を流した。
すると、先端にはまっていた白い物体が器具から飛びだす。
「アギャギャギギャギャーーー!!!」
俺はリーセン君の叫びを気にせず一気に器具を引き抜いた。
リーセン君は白い物体が中で暴れた衝撃で、涙とヨダレを大量に流している。
周りで見ていた者全てが、ヒュンッとなった股間に両手をやっていた。
「さあ、どうかなリーセン君。喋る気になったかな?」
「じゃ、じゃ、じゃべヴぇらないぃぃぃ」
涙でグショグショになりながらも首を横にふるリーセン君。
「ふむ、よかった」
「な、何がだぁぁぁ」
「まだ準備段階なんだ。本番に入る前に口を割られたら、それはそれで興ざめだったからな」
「じゅ、じゅん」
「じゃあ心おきなく本番スタート」
「や、やめ、アヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅツツツツ!」
器具に魔力を込めて操作した途端、リーセン君は尋常ない痛みに苦しみだした。
「聞こえてるかわからないけど説明しよう。この器具の名は人工尿路結石棒。人為的に偽結石を尿路に流し込んで尿路結石と同じ症状を引き起こす恐ろしい代物だ」
「イダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイィィィー!」
「棒の先端についていた白い物体はボーンヘッジホッグの骨でな、ボーンヘッジホッグは見た目は単なるネズミだが、命の危険を感じると外骨格が変形してトゲとなるんだ」
「痛痛痛痛痛痛痛痛痛津ぅぅぅ!」
「で、この棒に魔力をながすと、尿路に入り込んだ偽結石がトゲだらけになって人工尿路結石症になると」
「アギっ!アギッ!アギギッ!」
「人はな、どれだけ鍛えようとも内臓部分は鍛えられない」
絶え間なくくる痛みにリーセン君は最早意味のある言葉を発せられない。
「この棒はミスリル製で、なかの装置はボーンヘッジホッグの骨と魔力的に繋ぐ役割を持っていて、こちらから魔力信号を出せば、ボーンヘッジホッグの骨がトゲだらけになる、と。その結果が、今の君の状態だ」
「アヅ!アヅヅヅヅ!イヅ!イヅヅヅヅヅヅヅ」
「さて、君はどれだけの時間耐えられるかな?」
すでに耐えられていない状態な気がするが、まあ最悪ノックスに一度治療してもらって、落ち着かせてからまた最初からやればいいかな。
「うーん、リーセン君一人に拷問するのは不公平な気がすると、そう思わないかな、ダドリー君」
痛がるリーセン君をわざと体を揺らしながら、一言もはっさずに青ざめた顔でただこちらを見るだけだったダドリー君に話をふってみた。
痛い痛いとしか言わないリーセン君を揺らし続けながら、ダドリー君に再度ふってみる。
「ダドリー君も、他の二人もきっと俺が知りたい事を知っているはずなのに、リーセン君一人だけに拷問するのも何か気が引けるし、時間の無駄にも思える。四人同時にやったほうが公平だと思うんだが、どうかな?」
ダドリー君と他の二人は青ざめた顔のままリーセン君とこちらを交互に見ていた。
「畜生!やつらまさか『ドラゴンベル』を持ち出してやがるとは!」
結局四人とも結石地獄に落とした挙げ句、この痛みから助かりたければ吐けと脅したら、四人ほぼ同時に口を割った。
その内容は最悪だった。
建国王ラグラントはドラゴンと契約したドラゴンナイトだった。
彼は亜竜を『ドラゴンベル』という鈴で呼び寄せて、己の契約したドラゴンの配下におき、自軍兵士を疑似ドラゴンライダーとすることで古代王朝を倒すに至ったのだ。
しかし、『ドラゴンベル』は、あくまで亜竜を呼び寄せる魔道具で、上位のドラゴンと契約していない限り呼び寄せた亜竜は言うことを聞かずにベルをならした者すら襲い出すだろう。
そんな危険な魔道具を、ユールディンに手渡そうとしている。
しかも、取引相手が第三皇子。
もし第三皇子が『ドラゴンベル』を手に入れて、それを使用したら、ユールディンの帝都は壊滅的な被害を被るだろう。
「内部からの手引きでは、防ぐのは難しいですな」
そう、よりによって手引きした馬鹿はパルダス侯爵家の寄り子で、資財管理を担う文官貴族だった。
第三皇子に恩を売ったつもりなのか、馬鹿が。
「何とか止めないとな。急ぎ、王都に行くぞ」
「何か手がおありで?」
「冒険者ギルドに頼む」
今はただ、間に合う事を祈るのみだった。