「盛るのなら、盛られる前に、盛りなさい、だな」
お供にミリカを加えて俺達は中央軍のフスカ男爵の元に訪れていた。
俺達の訪問に少し驚いた顔をしたが、フリッツから事情を説明されるとフスカ男爵は笑顔を浮かべながら椅子と机を用意して、お茶をすすめてきた。
シャロが、席をご用意して頂きましたのでお茶はこちらで、と予めミリカのバックに入れておいたティーセットを取り出して用意を始める。
その間にミリカを紹介し、ゴルズ男爵は領地で起きたゴタゴタの決裁の書類を書いているため、ゴタゴタに関する書状を届けにきたミリカがそのまま名代として参加したと説明した。
もちろん実際は演技がど下手なゴルズ男爵をフスカ男爵の前に出すわけにはいかず、ありもしないゴタゴタをでっち上げたんだけど。
ちなみにフスカ男爵はどのようなゴタゴタかと聞いてきたからミスリル関係と答えると疑うことなく納得した。
「バセット子爵に珍しい茶葉を頂きましたので、是非フスカ男爵にも味わっていただきたく」
実際にバセット子爵からもらったお茶を、シャロが教わった通りに淹れている。
「それは楽しみですな」
シャロはお茶の説明をしながら、慣れた手つきで淹れている。
「こちらの茶葉、産地はユールディンの西部にある香辛料で有名なポットクラムでして、香辛料の街らしく茶葉に少量の香辛料が入っております」
「ほう、それは確かに珍しい」
「ヴェルデローザも再びユールディンとの交易で人も物も賑やかになるでしょう。この茶葉も戦争前にバセット子爵が個人的に購入し、大事に飲んでいたものを、また手に入るようになったお礼として頂きました」
「バセット子爵の秘蔵の品なのですな。なるほど、このお茶の香りの中に確かに存在する香辛料の香り、実に素晴らしい」
シャロが用意できたお茶をティーカップに注いでいく。
「従兵の皆様方もどうぞ」
俺の後ろで護衛として立っていたフリックとシュライザーに渡したシャロが、フスカ男爵の後ろに立っていた四人の従兵にもカップを渡そうとしたが、予想通り拒否してきた。
「いえ、我々は結構です。せっかくの貴重なお茶を、我々のような者にはもったいなく」
「いやいや中央軍の諸君、このお茶は淹れたてすぐじゃないとこのお茶と香辛料の絶妙な風味が味わえないのだよ。もう淹れてしまったから、もったいないので飲んでくれ」
ここまで言われて断るのは怪しまれると思ったのだろう、四人はそれ以上なにも言わずにお茶を口につけた。
「うーむ、確かにお茶の中に香辛料の風味もあり、不思議な味わいだ。辛い、というわけではなく、飲んだ後に喉がスッとする爽やかさがある」
フスカ男爵は気に入ったようで、シャロからお代わりを注いでもっていた。
俺ももちろんもらった。
旨い。淹れ方をシャロに習ってカウリエン様にもご馳走してみよう。(楽しみ~)
皆が一息ついたところでフリッツが話始めた。
「さて、今回私は近衛騎士団のフォーゲル団長より指示を受けて、護送の手伝いに参りました。実は近衛の方で無視できない情報を掴みまして。皆様が撃退されました賊は、なんと北の大陸でその悪名を轟かせているシャハルザハルの目とよばれる暗殺者集団だったのです」
俺達は演技で、「な、何ぃ!」という表情や、実際口に出して驚いたふりをした。
「命を捨ててまでこちらを襲ってきた様を見て、単なる夜盗ではないなと思っていたが、まさかそんな大物が相手だったとはな」
腕を組んで唸る俺に、ランデルも同意して頷いた。
「最強の暗殺者といわれるシャハルザハルの目相手に、一人も被害が出なかったのは奇跡ですな」
「しかしフリッツ騎士、誰がシャハルザハルの目を、どういった目的で雇ったんよ?」
ミリカの疑問にフリッツはお手上げといった表情で答えた。
「誰が雇ったかに関しては今のところは何も。目的はおそらく紅の騎士団でしょう。彼らの実家のどこかが、おそらく口封じのために実子を消す目的で雇ったと考えてよいでしょう。実際にヴェルデローザで護送車が襲われたようですし」
「口封じとは穏やかではないんよ。しかし何に加担したら暗殺者を雇うほどの大事になるんよ」
「コスタル団長の話では紅の騎士団は捕縛の際に最後まで和睦は罠だ、女神カウリエンは偽物だ、と主張していたようです。つまり、戦争を継続させたい輩が実子を介して何らかのテロ工作を計画していたと考えられます」
「それがばれないために、暗殺か。王都まで後一日半、気が抜けない時間になりそうだ。中央軍内にも今まで以上に警戒を怠らないよう引き締めておこう」
「辺境伯軍も同じくなんよ」
フスカ男爵の言葉にミリカが同意する。
「しかし、相手は暗殺者、すでに潜り込んでいる可能性もゼロではありません。私と第三騎士団の皆さんで中央軍と辺境伯軍の抜き打ち視察を行いたいと思います」
フリッツの提案に、両軍トップは(表向きは)反対しなかった。
「表向きは激励として、兵士に声をかけながら怪しい者がいないか見て回りましょう。二手に別れて、そうですね、辺境伯軍のミリカ殿は中央軍に、中央軍のフスカ男爵は辺境伯軍に、それぞれ外からの冷静な視点にたって見て回った方がよろしいかと。案内役は、中央軍はそちらの従兵の方から二人、辺境伯軍は第三騎士団所属ですが西方辺境伯派閥の我が弟フリックとシュライザー殿に任せましょう。我ら近衛も私ともう一人は中央軍、残り二人は辺境伯軍に別れます」
フリッツの言葉にフスカ男爵は従兵に目線を送ると、シャロにお茶を遠慮した兵士ともう一人が案内役をかってでた。
「では第三騎士団は俺が中央軍、ランデルが辺境伯軍に別れよう」
「よろしくお願いします。それでは早速始めましょう」
中央軍は鎧こそ違えど基本は普段は農民で、職業軍人ではないので辺境伯軍と明確な違いがあるわけではない。
その証拠にこっちの兵士達もまだまだ顔の青い者が沢山いた。
それでも俺を見ると、陽気に挨拶をしてきたり、敬礼をする者がいるため俺も愛想よく返事や敬礼を返す。
時には小隊長格のベテラン兵士達と過去の戦の話で軽く盛り上がったり、まだ若い新兵に騎士を目指すにはどうしたらよいのか質問されながら、わりと気楽に周りつつ、怪しい者がいないか、怪しい物がないか、見つけたら即報告をと注意をしながら進んでいった。
「あー、従兵の君、名前はなんだったかな」
「リーセンです。コスタル団長殿」
「リーセン、君は戦に参加したのは今回が初めてか?それとも過去にも参加を?」
「私は初めてです。フスカ男爵家の者ですので」
「ああやはりそうか、他の兵士に比べ所作がきっちりしているから農民ではないのだろうな、とは思っていたが。もう一人の君も同様か?」
「ダドリーです、団長殿。私とリーセン、フスカ男爵の供をしている二人もフスカ男爵家の者です」
「なるほど。さすが引率役を任じられた家の者だけあって中々に鍛えていそうだ」
「騎士の皆様には遠く及びませんよ」
「特に第三騎士団は長く前線で戦った国内最強と名高い武勇の持ち主ですから、私達のような実戦経験の少ない者どもとは格が違います」
「はっはっは、持ち上げてくれるな。実際のところ俺なんかはもう戦争はこりごりだって思っているのだから、武勇などと言われてもこそばゆいだけだ」
「そうなのですか?こう言っては何ですが、コスタル団長は最年少で騎士団長になった優れた武勇の持ち主だともっぱらの噂でしたから、少々意外に感じます」
「ユールディンとの戦では味方が劣勢に陥る度に獅子奮迅の活躍で、騎士たる騎士はデューク・コスタルだと劇にまでなっていますのに」
「はっはっは、勘弁してくれ。俺一人では味方の劣勢を覆すなんて無理に決まっている。第三騎士団の皆が、よく鍛えられた素晴らしい騎士だからだよ。最年少という部分が強調されているにすぎんよ」
何故かフリッツが何か言いたげだが、とりあえず無視して俺達はそのまま視察を続け、辺境伯軍組と合流して、とりあえず今は異常なしと結論づけて、王都に向かって進むのだった。
「シャロ?」
「ばっちり」
「盛るのなら、盛られる前に、盛りなさい、だな」




