猫耳は、必要ない
一万PV突破&十万字突破!
密かに目標としていた数字を達成できました。
読んで頂いた皆様、ありがとうございました!
む~っとした表情で俺を睨むシャロに、何故か浮気男が現場を抑えられたかのような気持ちになって思わず敬語で弁明した。
「いや、シャロさん、これは違うんです。なんというか、これは、新作の性能の確認というか、ちゃんとモフモフしているかどうかをやはりモフラーとしては、気になるし確認したく………はい、スミマセン」
弁明途中でシャロがプクーっと頬を膨らまして『私本気で怒ってます』と無言で示されて、思わず謝ってしまった。
「ミリカ」
「はいなんよ!」
思わず気をつけの姿勢で返事をするミリカ。
「何で、フードに猫耳つけたの?」
「そ、そのほうが、可愛いかなって思ったんよ」
「騎士団で採用を目指すなら、可愛いさはいらない」
「いえ、あの、このコートは試作品で、うちが自分で着るために作ったから、騎士団用はちゃんともっとピシッとしたのを作りますんよ」
「最初から騎士団用のピシッとしたのを持ってきなさい」
「うう、でもでも、久しぶりにデュー兄に会えるから、ここはうちの存分をアピールしないとって、それに、デュー兄が喜ぶものってモフモフしたものかなって、思いましたん、よ」
「尻尾の飾りだけで充分。猫耳は、必要ない」
「うう、わかりましたんよ」
俺の横で小さい体をさらに縮めながら、シャロに一緒に怒られるミリカを見て、罪悪感がわき起こる。
すまんミリカ、俺のモフモフ成分が足りてないばっかりに。
「兄さんも、モフモフが足りてないからってこんな人目につくところでモフナデしない」
「はい。おっしゃる通りです」
「さっきマリーにモフモフしてるところを見られて気まずい思いをしたばっかりなのに、今度は他の団員や兵士の皆に見られてたらもっと気まずい思いをする」
「いや、マリーの時はシャロが意図的に俺のモフ魂を刺激して……はいスミマセン俺が悪かったです」
俺とミリカは用意が出来たとフリックが呼びに来るまで怒られ続けるのだった。
「団長、用意が出来………何やってるんです?」
俺を呼びに来たフリックが、シャロの前で気をつけの姿勢で並ぶ俺とミリカを見て不思議そうな顔をした。
「何でもないよフリック君」
そんなフリックに振り返ってニッコリ笑って返事をするシャロ。
シャロが滅多に見せない笑顔に、表情とは裏腹に何故か自分まで怒られてる気分になり姿勢を正すフリック。
「わ、わかりました!」
フリックは俺とミリカに近づいてくると小声で話しかけてきた。
シャロの怒りに声は震え、口調が騎士ではなく素に戻っている。
「ちょっと、デューク兄、シャロ姉滅茶苦茶怒ってるじゃないですか。ミリカと一緒に何をやらかしたの?」
「ちょっと俺が迂闊だったせいだ」
「うちがシャロ姉の踏み込んではならない領域に踏み込んだのが原因なんよ」
「二人とも悪いと」
「「はい」」
「フリック様」
「は、はい!」
「デューク様をお呼びに参られたのでしょう?」
「は、はいぃ!そうでした!団長、用意が整ったのでフリッツ騎士と副団長がお待ちです!」
「う、うむ、わかった。すぐに向かおう」
俺はシャロの氷のような冷たい視線を背中に受けながら、何も見ていません聞いていませんという表情のフリックと、何故かついてきたミリカと一緒にランデル達の元に逃げるように急いで向かった。
「団長、お待たせいたしました。そちらの女性は?」
「あれ?ミリカ、何でお前までいるんだ?」
ランデルの疑問に、フリッツが被せて質問してきた。
「お久しぶり、フリッツ君。今日はうちは第三騎士団に注文品の納入に伺ったんよ」
「ランデル、この子はミリカ・ゴルズ。ゴルズ男爵の孫で投げナイフを持ってきてくれたんだ」
「あの投げナイフはガルバ工房の品だったのですか。以前から質が良いな、とは思っていましたが」
「コスタル団長よりご紹介に与りました、ミリカ・ゴルズと申しますんよ。第三騎士団の副団長様にお褒めの言葉を頂くとは光栄の至りですんよ」
ミリカは綺麗なお辞儀をしてランデルに挨拶をした。
貴族の子女ってのもあるけど、ミリカはゴルズ男爵家の他の女性陣同様、職人気質な夫や父親に代わって交渉等を担当する事が多いため場馴れしているな。
「ミリカが第三騎士団に用があってきたのはわかったけど」
なんでこの場に来たの?って顔のフリッツ。
「うちは久しぶりにデュー兄に挨拶をしに行って、色々あって流れでここに」
「そうそう、流れで」
「完全なる流れでした」
俺の深くは聞くなって視線と、フリックの兄さんのためだ!って視線に、フリッツはよくわかってない顔をしながらも頷いた。
「それにな、ミリカには頼みたい事があるんだ」
「え?」
「ミリカ、お前は魔道具が作れるくらいだから魔道具に相当詳しいだろ?」
「作る以外にも仲買もしてるんよ」
「じゃあ、一目見れば魔道具か否かってわかるか?」
「国宝級に隠蔽されてなければわかるんよ」
「よし、じゃあゴルズのじいさんの名代として一緒に悪の親玉っぽい奴の悪事を暴きに行こうか」
「どーゆー事なんよ?!」
俺はミリカにとりあえず簡潔に和睦から今に至るまでの出来事を説明した。
「うう、思った以上に国内がゴタゴタしてたんよ」
「戦争の裏で好き勝手やってた奴らを、この機に一掃する予定だからな。まずは紅の騎士団の奴らを生かして近衛に引き渡さなきゃならない。そのためにはまず中央軍内のシャハルザハルの目を見つけ出して何かやる前に排除して、親玉を取っ捕まえて色々はかせてやらないとな」
奴らは恐らく通信系と、爆弾や煙幕などの撹乱系の魔道具を持っているはず。
それを活用して毒殺以外にもあちこちで騒動をおこしてこちらの戦力を分散させる腹積もりなのだろう。
「だからミリカの協力が必要なんだ。シャロも魔力の探知は出来るけど、基本罠の解除とかに特化しているから魔道具を探し出すのは難しい」
シャロは魔術師ではないし、魔道具も詳しくない。
だからミリカが来たことは渡りに舟だった。
「魔道具を所持している奴が何人いてどんな奴か、またどこかに隠された魔道具がないかの確認。お願いできないか?」
「そういう事ならまかせて欲しいんよ。うちはデュー兄の役に立てると思うんよ」
「恩に着る、ミリカ」
俺は黙って聞いていた他の皆にあらためて気をつけるよう引き締めて、中央軍のフスカ男爵の元に向かうのだった。




