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俺の前に立ちふさがる全てをモフモフの前に跪かせてやると心に固く誓うのだった

従軍医の名前が途中から間違っていました。

正しくはノックスでした。


誤字のご指摘、ありがとうございます。

書く側になると中々気づかないものなんだなと反省しきりです。


 暗殺者の襲撃を撃退した俺達は、それから何時間か先に進んだ後にクラッヘン川の手前で昼休憩をとることにした。


 二日酔いでヘロヘロになった兵士達が我先にと川へ向かっていった。


 水をごくごく飲んだり、ゲロ臭い服や鎧を洗ったり。


 その人数を見て、来る途中のゲロのあまりの量に恐らく近隣の住民からクレームが来るだろうなとちょっとゲンナリする。


 クレーム対応は次の団長(多分ランデル)にお任せしよう。


 最後尾からこちらに向かってくるランデルに、心の中で頼んだからな!と叫ぶ。


「何か良からぬ事を考えてませんでしたかな?」


「ソンナコトナイゾ」


 なんで心の中読むし。


 付き合いが長いからですよと視線で返される。


「それより、中々エグい襲撃内容だったみたいですな」


「ああ。まさか毒瓶もって特攻してくるとは、完全に予想外だった」


 昨日これで動きが読みやすくなったなんて考えたの誰だよ?俺だよちくしょー!


 多少むきになって襲撃してくるだろうと読んで、俺自身で頭を取っ捕まえてやろうと護送車の守備固めにグラウを移動させたのに。


「奴らもこうやって命を捨てるのが嫌だったからこそシャハルザハルの目から抜け出したはずなんですが」


「俺達を命懸けで殺そうとした理由があったんだろうな」


 ホーキンスが仕留めた偽酔っぱらい兵士の死体は毒にやられないよう大きく迂回して回収させた。


 念のため周囲を探索させたがやはり残党も何かしらの手がかりも残っていなかった。


「その理由がわかるといいんだがな。ノックスに検死を指示してあるから様子を見に行こう。フリック、ホーキンス、お前達もついて来い」


「「了解しました(であります)」」



 リグリエッタ専用馬車に監視のため同乗していたノックスとメラニア、シャロは馬車の前に簡易治療台を組み立てて偽酔っぱらい兵士の検死を行っていた。


 シャロは前回同様男の所持品をあれこれ調べている。


 リグリエッタの監視はアベイルに代わるよう指示してあるため問題ない。


「団長、お疲れ様です。今回は今までで一番肝が冷えましたよ」


「馬車の窓から覗いていましたけど、恐ろしい相手でしたね」


 襲撃の間に外に出ることも出来ずかなり心細かったようだ。


 二人は普段後方で治療に専念しているから、戦いの真っ只中に身を置くのは初めてだったろうから無理もない。

 

 紅の騎士団?あれは訓練(シゴキ)です。


「二人ともご苦労。フリック、ホーキンス、こいつに間違いないか?」


「匂いは確実に同じです」


「顔も間違いないであります」


 念のために面通しをしたが、二人とも間違いないと確認したなら本物だろう。


 万が一別人だった可能性もないわけじゃなかったしな。


「ノックス、何か分かったか?」


「多少古傷が目立つくらいで、今のところは何も。特徴も前回同様です」


「耳と歯の奥か」


 治療台に乗せられた死体は普人で四十台半ば、かなり鍛えられた肉体には確かに古傷が目立つ。


 ホーキンスの矢がこめかみに命中したのが死因だな。


「シャロは何か分かったか?」


「持ち物は前回同様かと。ただ、ナイフが違いました」


 メイドモードのシャロが取り出したナイフは確かに柄に赤い宝石が嵌め込んであったり装飾が施されていたりと豪華だ。


「頭の証かな?」 


「それもあるのかもしれませんが、ただ、このナイフには違和感が」


「違和感?」


「見た目より、軽く感じます」


 シャロからナイフを受け取り、柄を持って振るってみるが、よくわからなかったのでランデルにパスした。


 ランデルもナイフを振ったが、軽く首を振ってシャロに返した。


「何か細工がされているのかと、先ほどから調べているのですが、何もわからず」


 シャロは絶対に何かあるはずだと考えているようだ。


「こうなったら、専門家を呼ぶしかないな」


「専門家、でありますか?」


 シャロの手の中にあるナイフを興味深げに見ていたホーキンスが、疑問の声をあげる。


「ああ。フリック、ゴルズのじいさんを呼んできてくれ」




「大変だったようじゃの、デューク」


「読み違えました。それより今は」


「フリック坊から聞いとる。どれ、見せてみい」


 シャロから刃に毒が塗ってあるのでお気をつけ下さいと手渡されたナイフを見て、すぐに何かに気づいたらしく、頷きながらシャロに火を焚くよう頼み、さらに大きめのスプーンかお玉がないかと尋ねた。


 シャロはお菓子作りに使ってる小さなお玉をゴルズのじいさんに手渡してからお茶を沸かす用の簡易コンロで手際よく火をつけた。


 ゴルズのじいさんはナイフの柄に嵌め込まれた宝石を火に近づけて温めだした。


 すると、なんと宝石がドロリと溶けた。


「マジか」


「ビックリ」


「これは驚きましたな」


「溶けたー!」


「溶けたでありますー!」


 ゴルズのじいさんは溶けた宝石をお玉でキャッチして、シャロにナイフを手渡してからお玉を俺達に見えるようこちらに差し出した。


「これはのう、宝石ではなく正確には樹液なんじゃ」


 お玉の中にある赤い液体状の樹液を見て、先ほどまで宝石のような固さをもっていたなんて今の作業を見てなかったら信じられなかっただろう。


「シャロちゃんが感じた軽さの原因の半分は、こいつじゃろうな。同じ大きさの宝石の半分ほどしか重量がないじゃろう」


「残りの半分は?」


「シャロちゃん、どうじゃ?」


「溶けた樹液の嵌め込まれていた部分の裏側に空洞がありました。中にはこちらが」


 シャロが取り出したのは小さく丸めてある二枚の紙だった。


 シャロから受け取って、中を開いてみる。


 一枚目は昨日の二人が持っていた俺と熊系獣人の詳細が。

 

 もう一枚の内容が問題だった。


「目が届くのを厭うなら必ず殺せ、か」


「脅迫ですな」


「どういう事じゃ?」


 事情を知らないゴルズのじいさんに暗殺者達の素性を説明した。


「つまり、その北の大陸にいる暗殺者集団と連絡がとれそうな奴が黒幕なんじゃな。なら、ホリビス伯爵で決まりじゃろう」


「暗殺者の俺じゃない方のターゲットの実家ですね」


「熊系獣人で、東部辺境伯の寄り子で、領地には東部最大規模の港、ネットラン港がありますな」


「そうじゃ、あそこは北の大陸ともやり取りがある。おまけに現当主にはキナ臭い話が多い」


「あー、何か前当主と確執があって、前当主が突然ポックリいった後あっさり後を継げたのが怪しいとかご禁制のあれやこれやを売りさばいているとか何とか」


 そういえば麻薬組織を潰した時、どこから密輸したか調査した時の候補が東部のどこかって話だったな。


 結局正確な事は分からなかったが、そういえばあの後組織の末端が口封じに殺されたらしいとは耳にした。


 リグリエッタの起こした事件の後始末に翻弄されていたからそっちに気をとられてあまり覚えていないが。


「多分ですが、ホリビス伯爵の次男がリグリエッタの取り巻きになったのは、麻薬組織を潰したすぐ後だったはずです。我々はあの後すぐにおきた『空飛ぶ法典官事件』にかかりっきりになったので潰した後の調査はあまりしていませんが、『空飛ぶ法典官事件』で、法典官殿の拉致をリグリエッタに吹き込んだのはホリビス伯爵の次男だった可能性がありますな」


 あの事件はリグリエッタ迷惑事件簿でも上位にランクインする大事件だった。


 法典官殿をすんでのところでキャッチ出来たから良かったものの、一歩間違えば法典官殿が空の星になるところだった。


 しかしランデルの推測が正しければ、つまり、自分達に調査の手が及ぶ前にデカイ事件を起こして目をそらさせた、と。


 リグリエッタを利用して。


 これが明るみに出れば国王は激オコ間違いなしで、ホリビス伯爵は良ければ現当主打ち首、悪ければ現当主打ち首で降爵か取り潰し。


 どちらにしろ現当主は死ぬのが確定だな。


「紅の騎士団の奴らの実家はどいつもこいつも後ろ暗い噂がある奴らばっかりじゃ。ホリビス伯爵もそうじゃがパルダス侯爵家も最近不穏な噂が聞こえてきとる」


 パルダス侯爵家はランデルが散々ボコった紅の副団長の実家だ。


 現当主は有能な方なのだが、最近は病魔にかかり政務が行えず、第一夫人が後見人となって長男が家を動かしているらしいとは聞いている。


 同じ第一夫人の息子である次男があの様子ではろくな事になってないのだろう。


「第一夫人はの、ホリビス伯爵家の出で、現当主の歳の離れた姉なんじゃよ」


「………………」


 もう、そいつら完全にグルですやん。


 なんなんだ、後少しだってのに。


 何でこうも色々と騎士団長を引退する前に立ち塞がってくるんだよ!


 俺のモフモフライフへの道のりは、何でこうも厳しいんだ!


 もうやだ!こうなったら全て叩き潰してやる!


「…………クックック」


「………団長?」


「………デュー坊?」


 自分がゴルズのじいさんとランデルが引くほど据わった目をしている事に気づかないまま、俺は王都までの残りの道のりで俺の前に立ちふさがる全てをモフモフの前に跪かせてやると心に固く誓うのだった。

 

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