暗殺者を瞬殺する自衛能力を持ったメイドは中々いないと思うんですが
一部修正しました。
「中身は一緒だな」→「中身は別だな」
名前間違えてました→ラッセルХ ノックス○
合流したゴルズのじいさんとランデルに、暗殺者を撃退した事を話し、手に入れた密書を二人に見せながらランデルに他に侵入者が居なかったか確認した。
「今のところは見つかっておりません。不審な物もないようです」
「引き続き、警戒は続けさせろ」
了解です、と落ち着いた返事をするランデルとは対象的に、ゴルズのじいさんは暗殺者があっさり侵入できた事に驚いていたが、それを撃退した一人がシャロだという事にも驚いていた。
「ワシの目から見るとかなり警戒しとるようには見えたが、それでも侵入してくるとは、相当な手練れじゃったか?」
「いや、俺の投げナイフを避けたり防げなかった時点で大した事はなかったかと。シャロもそこまでじゃなかったって言ってましたし。うちの団員も終戦気分で弛んでいた部分はあると思います。あんな陽動にあっさり注意を持ってかれてるとこをみると。それに今は場所が場所だからむこうのが有利に働いてますし」
「シャロちゃんもまさか暗殺者を返り討ちにしてしまうとはの」
「いや、シャロもなんだかんだ冒険者時代は一緒にパーティー組んで活動してましたから自衛くらい出来ますよ」
「暗殺者を瞬殺する自衛能力を持ったメイドは中々いないと思うんですが」
ランデルの微妙な表情はおいといて、シャロが見つけた密書をもう一人も持っているかもしれないと、二人を連れて護送車の上から下ろされた死体のベルトも調べる事にした。
「どれどれ?お、やっぱりあったか」
同じようにベルトに隠された密書を取り出して、中身を読んでみる。
「中身は別だな」
「熊系獣人。茶毛、瞳は灰色、大剣使い」
「目立ちそうな奴じゃな」
「しかし、もう一人が持っていた密書の内容がなー。剣使い、百八十ほど、黒髪、普人」
「完全に団長ですな。うちの騎士団は普人は俺と団長だけですから」
灰色の髪を撫でながらランデルは苦笑していた。
「家が取り潰しにされるかもしれんと焦っとるんじゃろ。今さらこやつ一人を殺したところで逃げられはせんのにのう」
短絡的で往生際の悪い奴なんじゃろうなとゴルズのじいさんは呆れ返っていた。
「しかし何であっちの天幕に行ったんだか」
「団長の天幕、あまり大きくないしあっちの天幕より見た目が質素ですから間違えたんでしょうな」
「確かにのう。最初はワシもこの天幕で本当に合っとるんかと近くの団員に確認したからの」
「俺とシャロしか寝ないからあまり大きくても意味ないし、怪我人を運び込むなら一目でわかる外見に中がでかい方がいいじゃないか」
「今回はそれが逆に功をそうしたので結果よければなんとやら、ですな」
「とにかく、まだ他にも短絡的で往生際の悪い貴族は沢山いるじゃろうから気をつけるんじゃな」
ゴルズのじいさんは兵士の夜営へと帰っていった。
「さて、とりあえずホーキンスにも話を聞きに行くか」
ランデルと一緒に物見櫓に向かうと、ちょうどよいタイミングでホーキンスがグラウと共にこちらに向かってくるのが見えた。
「おう、ちょうどお前に話を聞こうとしてたとこだったんだホーキンス」
「自分も団長にご報告すべき事があるであります」
鷹系獣人のホーキンスは、その鋭い目を真っ直ぐにこちらに向けながら、自分の見たものを話し始めた。
「自分はフリック殿が警笛を鳴らす前からあの偽酔っぱらい兵士には気づいておりました。奴は街中からこっちに向かって歩いてきて、シュライザー殿の警告に従わなかったので鳴らされたフリック殿の警笛の瞬間、奴の足の左足の甲を狙って射ました。ですが、奴は急に左足を一歩後ろに下げて矢から逃れたのであります」
ホーキンスは狙った的をはずすことがない第三騎士団一の弓の名手だ。
少し距離があったとはいえ、外すことは考えにくい。
ホーキンスがいう通り、避けたのだろう。
注意を引かせるための単なる囮役かと思ったが、多分暗殺者側の頭かそれに近い立場だな。
「偽酔っぱらい兵士は恐れおののいた振りをして、人に紛れながら街中に逃げ込みましたが、その後に着替えて町の外に歩いていくのを確認したのであります」
「どっちに向かって歩いていった?」
「あちらであります」
ホーキンスが指差した方向は、俺とランデルが狭いからと除外した王都方面へ抜ける道だった。
「先回りするのが目的でしょうな」
「ランデルのいう通りだな、明日どこかで仕掛けてくるはずだ」
「奴一人ってこたぁ無えでしょうな」
「仲間をどっかに待機させているだろうよ」
「やはり二射三射と射って手傷の一つでも負わせるべきだったのであります」
「ホーキンス、明日はお前は護送車の上で他の団員とともに索敵だ。演技の下手な偽兵士を見つけたら射殺してかまわん。ひとまず今晩はこのまま交替まで元の配置に戻れ」
「了解であります!」
ホーキンスは殺る気満々で櫓の上に戻っていった。
「グラウ」
「なんですかい?」
「今晩この後朝まで襲撃がなかったら明日は最後尾ではなく中央に配置だ。その場合はランデルに最後尾を締めてもらう」
「了解です、団長」
「了解しました」
「グラウはひとまず戻っていい。ランデル、ちょっと付き合ってくれ」
「どこへですかな?」
「ノックスのとこさ」
「ノックス、検死はどうだ?」
天幕の中に入ると、男を治療台にのせて検死していたノックスと、目を覚ましたか、まだ寝る前だったのかメラニアがその助手を、シャロが運び込まれたもう一人の持ち物を調べているようだった。
「団長、父から話を聞きました。シャロが父を助けてくれたと。あの時団長から休むよう言われなければ、今頃父と私は殺されていたでしょう。本当にありがとうございました」
「礼はシャロに。そいつは俺を狙っていた。お前達はとんだとばっちりを受けただけだ」
「それでも父が助かった事実に変わりありません。シャロにも先ほどお礼を言いました」
「抱きつかれて熱烈な言葉を頂いたよ」
「それだけ嬉しかったの!」
ちなみにシャロ、マリー、メラニアの第三騎士団内の女性陣は皆同じ年頃で仲が良く、たまに従軍医天幕内で女子会が開催され、代わりにノックスがランデルとグラウとともにパパ会を副団長の天幕で開催している。
「で、ノックス、何か分かったか?」
「はい団長。死んだ二人の男には二つ共通点がありました」
台の上に寝かされている男の頭部分を見て欲しいと言われ、ランデルと左右から覗きこむと、ラッセルは右耳たぶを指差した。
「死んだ二人には良く似たピアスを開けた穴の痕がありました。両方とも閉じてから長いみたいですが。さらにこちらもご覧ください」
男の口を開くと、今度は奥歯を指差した。
「この一番奥の歯に、穴が空いているのがわかりますか?これは恐らく人工的に空けた穴です。これが二人とも存在します」
「歯の奥に穴、か」
「ランデル、何か知っているのか?」
「団長はシャハルザハルの目をご存知ですか?」
「ああ、北の大陸にある暗殺者集団だ。一度やりあった事がある」
「やりあった?流石ですな、最強と名高い暗殺者集団ですよ」
「確かに中々の強さだった。取っ捕まえて尋問してやろうと思ったら自決しやがった」
「その自決をするための隠し毒がこの奥歯の穴だそうです。おそらくこいつら、シャハルザハルからの逃亡者ですよ。何とかして毒を外す事に成功した奴が、仲間を増やしてこっちの大陸に逃げてきて、また後ろぐらい事をやって金を稼いでいるんでしょう」
シャハルザハルの落伍者か。
何か納得した。
シャハルザハルの奴らは獣人を見下している。
だからあの偽酔っぱらいがわざわざ自分から表に出てきて挑発したのだろう。
獣どもを騙すのなんて簡単だ、なんて腹の中で笑っていたんだろう。
それが意外な警備の警戒度で、弓で射られておったてられたからな。
面子があるから明日は絶対マジになってかかってくるに違いない。
これで明日のあいつらの行動が読みやすくなった。