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王都街道がゲロくさくなりそうですね

ちょいと修正を入れました。


 

 兵士達の夜営から聞こえてくる歓声を背中に受けながら、俺とランデルは第三騎士団の夜営にある団長用の天幕内で明日以降のルートについて話し合っていた。


「やはり、王都街道をこのまま進むしかありませんな」


「護送車の事を考えると他のルートは狭いし、道を塞がれたら大分時間をくいそうだしな」


「そうですな、いくら兵がいようとも他のルートでは必ず道幅の関係で防御陣形を展開出来ない箇所が出てきます。我々だけでは守りきれなくなる可能性も」


「西方辺境領の復興が遅れ気味なのがここにきて俺達の選択肢を狭める事になるとはな」


「どの街道も荷馬車が通れればいいだろうといった応急処置しかされていないとの話ですからな」


「それもしょうがない。まずは領民の生活を立て直す事が最優先だ。それにこっち側はずっと戦場だったから商人の行き来も最低限だしな」


 元々西方辺境領はクラッヘン川流域に広がる肥沃な土地に支えられた農業と、ユールディンとの交易により栄えた商業の二枚看板を持つ領地だったのだが、ユールディンとの戦争のせいで交易自体が中断して商業は落ち込み、そこに追い討ちをかけるかのような昨夏の大洪水が農業にも壊滅的打撃を与えてしまった。


 二枚看板を両方失ってしまった西方辺境領は、かつてないほどの苦境に立たされている。


 ユールディンとの交易再開で少しでも早く商業が回復すれば良いのだが。


「王都街道の一般市民の交通を制限しますか?」


「そうだな、一日だけならさして不満も出ないだろう。明日一番で何人かを街道を先行させて辻で交通整理をさせよう。マリーに人を出してもらうよう頼んだフォーゲル団長宛に書状を持たせてあるから早ければ明日の昼には向こうからも迎えが来るはずだ」


「ではツーマンセルで向かわせます。大きい街道は全部で四つ。八人を選抜します」


「シュライザーとフリックは除外してくれ」


「わかりました」


 先行隊を選抜しに行ったランデルと入れ替わりで、ゴルズ男爵がやって来た。


「頼まれとった護送車の檻部分を全部板に取っ替える作業は終了したぞ。これで弓矢程度なら問題ないわい」


「ありがとうございます。馬の方も簡易鎧は完成しましたか?」


「ああ、足や胴を守る皮と木製の奴じゃ。軽さに主眼を置いとるからさほど防御力はないぞ?」


「弓矢等の飛び道具で一撃死しない程度のものであれば大丈夫です」


「それならある程度は大丈夫じゃろ」


「さすがゴルズのじいさん」


「明日はどういった隊列にするんじゃ?中央に第三騎士団と護送車で、前に辺境伯軍、後ろに中央軍かの?」


「その最前列と最後尾にうちの騎士小隊を配置します。途中こちらの制止を聞かず近づいてくる奴は足を射って下さい。最悪、殺してしまってもしょうがありません」


「それは分かっとるが、先行しとる団員もおるんじゃろ?中央の人数は足りるのか?」


「相手は大勢ではなく小勢だと推測しています。例えそれなりに人数がいたとしても王都街道なら前後にいる兵士達が防御態勢をとれる広さはあるかと」


「ふむ、なら前後の兵士は足の早い奴を揃えた方が良さそうじゃな」


「そうですね」


「それじゃあ中央軍にこの話を伝えに、うん?何か騒がしいのう?っておいデューク!」


 俺は剣を手にとって天幕の外に駆け出した。




「中央軍も辺境伯軍も二日連続で大盛り上がりだな」


「ですね。街の人達も混ざってお祭り騒ぎみたいですね」


 シュライザーとフリックは、街の人達が兵士の夜営に向けて歩いていくのを遠目に見ながら、門番として立っていた。


「昨日は酒も大した量はなかったみたいだからあまり長くは騒いでなかったが、今日は日をまたいで続くだろうな」


「明日も朝から移動なんですが、大丈夫なんですかね?」


「少なくない人数が、明日の移動中にぶちまけるだろうよ」


「王都街道がゲロくさくなりそうですね」


「先行する兵士達にはゲロする時は街道から百歩離れた場所でするように言うべきだな」


「明日、僕は最前列なんでゲロ臭さはあまり感じなくて済みそうです」


「ああ、アリュードさんの小隊か。鼻を効かさなきゃならないから良かったじゃないか」


「ええ、本当に」


 フリックが話してる途中で、二人はこちらに近づいてくる兵士がいる事に気がついた。


 遠目からでも足をフラつかせながら歩いてくるのがわかる。


「おい!なに用だっ!それ以上近づくんじゃない!」


 シュライザーが大声で制止するよう警告するが、酒瓶片手に歩いてくる兵士の足が止まる気配はない。


「貴様聞こえんのかッ!それ以上近づくな!」


 シュライザーの本気の怒声が届いたらしく、兵士は赤くなった顔をシュライザーに向けた。


「おぉ~~ぅ騎士様ぁよぅやぁ~~っろ戦争がぁ終わっらんらからお祝いにぃ、一緒に飲もうぜぇっと酒もってきたんら~」


 所々呂律が回ってない口調で、酒瓶を掲げながら歩みを止めない兵士。


「警告だッ!それ以上近づいたら貴様を敵とみなす!」


 シュライザーは剣を抜くと兵士から目を離さずにフリックに警笛を鳴らすようジェスチャーする。


「ピッピッピー!」


 フリックの警笛に合わせて、物見櫓から矢が飛んできて兵士の足元に刺さった。


「うおぉぉい!な、何すんらぁ~」


 千鳥足の兵士はその場で腰を抜かして座り込んだ。


「ひ、ひでぇやないか~~殺す気かぁ~」


「殺されるのが嫌なら今すぐ失せろッ!」


 シュライザーの怒声に兵士はのたのたと立ち上がって街の方に逃げて行った。


 その後すぐに警笛を聞いた何人かの団員が入り口に駆けてきた。


「シュライザー、何があったんだぁ?」


 フル装備のグラウが剣を鞘に納めたシュライザーに近寄って声をかけた。


「酔っぱらいの兵士が酒瓶片手にこちらに近づいきたんで警告したんですが、止まらなかったので威嚇射撃を」


「酔っぱらい?どっちの兵士だった?」


「中央軍です。ただ、恐らく兵士ではありません。酔っぱらいと言いましたが千鳥足のわりには身体の芯はブレてませんでした」


「それに、あれだけ赤ら顔だったのに、僕の鼻にはアルコールの匂いはしなかったです。逃げ帰った先が夜営じゃなくて街中でしたし」


「団長の読み通り、刺客が来やがったか。フリック、匂いは覚えたか?」


「はい。視界に入る距離まで近づいてきたら気づけると思います」


「よし、流石だな。二人は引き続き門番を頼む。俺は物見櫓のホーキンスに話を聞いてくらぁ。お前ら二人もそのまま門番の増援だ」


 自分と一緒に来た団員にそう指示すると、グラウは物見櫓に向かって歩きだした。




 俺は物見櫓からホーキンスの矢が入り口方面に飛んでいくのを視界の端に捉えながら、護送車に向かった。


 護送車の周囲に立っていた団員達も、ホーキンスの矢に視線を向けてしまっている。


 その死角に、黒づくめの男が護送車に飛び乗ったのが見えた。


「チッ!」


 黒づくめの男は右手に何かの瓶を持っている。


 間違いなく毒だろう。


 叩き割ると揮発して周囲に撒き散らされるタイプだ。


 窓から投げ入れる気か。


 俺は懐から投げナイフを取り出して、男の右手に投擲した。


「グッ!」


 軽く呻いた黒づくめの男の右手をナイフが貫く。


 男の手からこぼれ落ちた瓶を走り抜けながらキャッチすると、振り返りつつもう一本のナイフを男の首裏に向けて投擲した。


 男は声をあげる暇もなくそのまま護送車の上で崩れ落ちた。


「侵入者だッ!周囲を警戒しろッ!」


 未だホーキンスの矢に視線を向けたままだった団員達は、慌てて周囲に視線を向けた。


「団長!」


「アベイル、右側の護送車の上に刺客だ!仕留めたとは思うが確認しろ!」


「了解です!」


 いち早く俺に気づいたアベイルが護送車の上にかけ登り、黒づくめを確認する。


「侵入者は一人とは限らん!手の空いてる者は二人一組で夜営内外を見て回れ!」


 俺の指示に皆が動き出すのを確認しながら、護送車へと近づいた。


「アベイル、どうだ?」


「死んでます。団長のナイフが延髄貫いてます」


「よっと、お顔を拝見しようか」


 松明を片手に俺も護送車の上に登り、ナイフを抜きとって黒づくめを仰向けにしてフードを脱がせた。


「普人か」


 目を見開いて死んでいる男は三十~四十才くらいの極々普通の外見だ。


 アベイルに松明を持ってもらい、男の身ぐるみを剥いでいく。


「上着、ズボンのポケットには何もなし、腰のポーチには毒瓶の予備と、多分煙幕だなこの瓶。ベルトの後ろにナイフあり。毒が塗られてるだろうな。ナイフは普通のナイフ、特徴なし。ブーツは、おぉう、ブーツにも仕込みナイフが。こっちは多分毒は塗られてないな。身体にも刺青とかも特に入ってないな。ダメだこいつ傭兵とかチンピラじゃなく本物の暗殺者だ。手がかりになる情報が何一つありゃしない」


 俺はそう毒づくと、下にいた団員に死体を下に下ろしておくよう指示して毒瓶を持ったままノックスの元に向かった。


「おーいノックスっておいおい」


 天幕の中には先ほどの暗殺者と同じ黒づくめがナイフに喉を貫かれて死んでいた。


 シャロが刺さったナイフを引き抜くと、椅子に座ったまま呆然としているノックスをそのままにナイフを拭って太ももの鞘に戻した。


「こっちにも来やがったか。シャロ、怪我はないか?」


「もちろん。あまり手練れの暗殺者じゃなかった。近づいてくるのが分かったから、入ってきた瞬間に一撃死」


「手練れじゃないわりにはあっさり夜営に侵入を許しちまったな、やはり終戦気分で団員も気が弛んでたか。シャロをメラニアと交代させておいて良かったよ」


 シャロはむふーっとした表情で頭を差し出してきたので、よく殺りましたと頭を軽く撫でておく。


「表の奴は手がかりになりそうな物を持ってなかったが、こいつはどうかな?」


 シャロが手際よく男の身ぐるみを剥いで横に並べていく。


 持ち物は全部同じだったが、シャロは男のベルトをズボンから引き抜くと端からグニグニ触りだした。


「ん、なんかあった」


「マジっすか」


 シャロがベルトの途中に隙間を見つけて、中に入っていた紙を取り出した。


「いかにも密書って感じ」


「中身は何が書いてあるのやら」


 四つ折りになっていた紙には、とある男の風貌や特徴がかかれてあった。


「お手柄だ、シャロ。流石自慢の妹だよ」


 差し出された頭を再度撫でていると、やっと気を取り戻したノックスが椅子から立ち上がってこちらに近づいてきた。


「だ、団長、こいつは」


「暗殺者だ。雇い主は護送車の中の一人の親だろうな」


「あ、暗殺者、いや、しかし何がなんだか」


 ノックスは額に浮かんでいた冷や汗を拭うと、シャロに驚きの視線を向けた。


「しゃ、シャロさんは実は凄い強かったんですね。私が侵入者に気づく前にはナイフで相手を倒してしまっていました」


 シャロはちょっと得意げな顔をした後、念のためメラニアを見てくると言って天幕を出ていった。


 ちょっと照れているみたいだ。


「シャロは冒険者時代は俺と一緒にパーティーを組んでいたから」


「知ってはいましたが、実際に目にすると予想以上に凄まじいですね」

 

「冒険者を引退した後に騎士団に一緒に入団すると思っていたくらいには腕はたつよ。本人がメイドが良いって言ったからメイドやってるけど」 


 とりあえず検死をして何か他に手がかりがないか確認してくれと伝えて、何も気づかずに薬で眠ったままのリグリエッタを一瞥してから俺も天幕の外へ出て、こちらに向かってくるゴルズのじいさんとランデルと合流するのだった。


 

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