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汚ねぇオーラ


 リグリエッタ姫を殴り飛ばして満足した俺は、紅の騎士団の団員を残らず捕縛するよう指示した。


 俺自身もぶっ飛ばしたリグリエッタ姫を拾いに行く。


 我ながら遠くまでぶっ飛ばしたなぁと、ちょっと引いてしまう距離で転がっていたリグリエッタ姫は、元の整った容姿が嘘のような顔の腫らし方をしながら気絶していた。


 念のためノックスとメラニアに診てもらうが、顔の腫れと歯が何本か砕けた以外は大したことがないとの診断だった。


 治療はせずに、そのまま手錠をかけて地面に転がしておく。


 他の団員達も無事紅の団員達の捕縛を終えたようだ。


 しかし紅の団員達の惨状は予想以上に酷いものだった。


「全員漏らしたまま気絶してんのか」


 シャロ特性の遅効性の下剤は効果抜群とはいえ、俺の殺気でまさか全員が気絶するとまでは思わなかった。


 おかげで誰一人逃げたり抵抗したりされなかったから捕縛自体は凄い楽だったが。


 ただあまりの惨状に皆は臭い臭いと鼻をつまみながら手錠をかけたり布を顔に当てながら引きずったりしていたが。


「何でお前まで青い顔してんだフリック」


「い、いえ、やっぱり団長の殺気は怖いなぁ、と」


「殺気なんだから怖くて当たり前じゃないか」


 まさかお前まで漏らしたんじゃないだろうなとからかうと、流石にそれはないです!と慌て否定してきた。


「団長のあれは、特別ですよ。俺も久しぶりに肝が冷えましたわ」


「飄々と言われても説得力ないぞ、グラウ」


「いやいやマジですって」


 軽口を叩きながら紅の団員を一ヶ所に集めた俺達は、後続のゴルズ男爵に頼んでおいた護送車の到着まで紅の団員達から距離をとって待つことにした。


「しっかし、リグリエッタ姫の最後のあれ、何だったんですかね?」


 リッツはただのオーラにしちゃあ禍々しかったですよと不思議そうな顔をした。


「体内の魔力だけじゃなかったのは間違いないが、よくわからなかったな」


 ちなみにオーラは実は獣人なら鍛えれば誰でも出す事が出来る。


 獣人は魔力を外に出して使用する、いわゆる魔術が苦手な種族で、神官など神様の力を介して使える者達以外はほぼ使えない。


 ただ体内に宿る魔力は普通にあるため、彼らは無意識のうちに身体能力を強化したり、変化さしたりして魔力を使用している。


 フリックの嗅覚強化や、リッツの体色変化などだ。


 彼らのように何かに突出している場合はともかく、そうでない者は種族差はあるが身体全体が強化される。


 これをさらに鍛えていくと、魔力が身体の外に出てくるまでに増大する。


 この状態が、オーラと呼ばれる。


 オーラを纏った獣人は身体能力が何倍にも跳ね上がる。


 これをさらに突き詰めていくと、『神速の牙』のような超スピード移動が可能になる。


 これはオーラの増減をコントロールすることにより、身体の部分部分で使い分けできるまでに研ぎ澄まされた技の極致だ。


 これがさらに進化して、オーラが鎧のように身体を覆って固定化される『紅の聖鎧』は、もはや高等魔術の領域だ。


 ちなみに例えオーラを使えたにしても、元の身体能力が大したことなければさして脅威にはならない。


 リグリエッタ姫みたいにな。


「最初のオーラだったらうちの団員なら誰でも対処できたでしょうが、あの禍々しいオーラだとちょっとヤバかったかもですね」


 アベイルが腕組みしながら気絶しているリグリエッタ姫を一瞥した。


 ほかの団員もうんうん頷いている。


「そうか?身体能力は確かに不自然なくらい跳ね上がってたけど、しょせん脳筋馬鹿だぞ?フェイントかけりゃあっさり引っ掛かってただろうし、負けはなかったんじゃないか」


 例えどれだけ凄い力でも、上手く扱えなければ意味はない。


「団長がそう言うなら、そうなんでしょうがね。しっかし汚ねぇオーラだったなぁ」


「あんな血のようなオーラが、アレイナ様の加護だとはとても思えないですね」


 副騎士団長補佐の二人も、あのオーラには違和感を感じているようだった。


「あれとよく似たオーラを、昔見た事がありますな」


「魔物相手に、か?」


「流石団長、ご存知でしたか。冒険者時代にやりあいましたか?」


 ランデルの言う通り、俺はかつてオーラを纏った魔物とやりあった事があった。


「色こそ違うが、あの気持ち悪い魔力はそっくりだった」


「どんな魔物だったんですか?」


「とあるダンジョンのボスだった。見た目はかの竜人種みたいだったが、頭が前後に二つあって、それぞれの口から石化と猛毒のブレスを放つやっかいな奴だった。パーティーで囲んで頭を一つ切り落としてやったら黒緑のオーラを纏って変身しやがった」


 変身後の強さといったらもう半端なかった。


 今生きてるのが不思議なくらいだ。


「その時のオーラとそっくりだったな。ランデルはどんな奴だったんだ?」


「まだ兵士になりたての若い頃、猪の魔物の被害が酷かったとある地域の山狩りに参加したんですが、その魔物の群れのボスが小山のような大きさの大猪でしてね、そいつを落とし穴にはめて、上から弓や槍を降らしてやったら血だらけになりながらも唐突に黒紫なオーラを出して落とし穴から這い出てきて、ところ構わず大暴れした後、限界がきたのかばったりと倒れ死にました」


 二百人いた兵士は生き残りは自分を含めて十人しかいなかった、自分はただ運が良かっただけでしたなと苦笑いしていた。


「どちらにしろ、ろくな相手じゃなかったってこったな」


「しかし、何故リグリエッタ姫からあのようなオーラが出たのか」


「こういった手合いは、医療か神殿の領分だな」


 ノックスとメラニアに視線を向けると、二人は同時に首を降った。


「私はオーラに関してはあまり詳しくなくて」


「私も聞いたことがありませんが、なんらかの呪いの可能性もあります」


のほひなほへはない(呪いなどではない)


 気絶していたはずのリグリエッタ姫が、目を覚まして反論してきた。


 歯が砕けて、頬が腫れているからまともに喋れないらしい。


 それでも上半身を起こして、こちらを睨みつけてきた。

 

 本当にしぶとい奴だな。


「目を覚ましやがったか。以外に早かったな」


「ノッフス、はやふへあへひろ(早く手当てしろ)


「何言ってるか分からないけど、ノックス、手当ては要らん。このままで良い」


わらひは、(わたしは、)おうひょひゃひよ(王女だぞ)!」


「何か不満みたいだけど、お前はこれから犯罪者として裁かれるんだよ」


うほほひゅうひゃ(嘘を言うな)!」


「お前、自白したじゃん。『私は私の願望を叶えるために戦争を起こした』って」


「ひょんひゃふぉふぉ」


「そんなもの、父上が信じるものかって?そこは問題ない。神殿で、正義の女神アレッサ様の『アレッサの秤』を使うから」


「お言葉ですが団長、『アレッサの秤』は神の使徒でなければ使用できません。我が国には現在使徒がいる神殿がありません」


 メラニアが困った顔してそう言うと、リグリエッタが何か得意気にひほひほまくし立てた。


「ひほはあひぇいひゃひゃまのひゃほほうへひゃわひゃひ」


「大丈夫、そこも問題ない。ついでに言うならリグリエッタ、お前は使徒じゃないしさっきのあれも女神の加護じゃないって言っただろうが」


「うひょひゃ!」


「嘘じゃない」


 俺は手甲とその下につけていた革手袋を外して、自分の手の甲が周りに見えるように掲げた。


「女神の使徒はな、利き手の甲に女神の紋章が刻まれるんだよ。こんな風にな」


 俺は手の甲に祈り力を込めると、カウリエンの紋章が浮かび上がった。


「えぇー!!!ま、間違いありません!これは、豊穣の女神カウリエン様の紋章!神殿のカウリエン様の神像に刻まれているものと一緒だわ!」


 キャーキャー言いながらメラニアが大興奮で俺の手の甲で光を放っているカウリエンの紋章を凝視していた。


 他の団員達も呆けた顔でこちらを見ている。


「カウリエン様が仲裁に入って頂けたのも、俺が事前にお願いしておいたからだ。使徒である俺のお願いを、カウリエン様は快く引き受けて下さった」


 俺が紋章から力を抜くと、光が収まり、紋章が徐々に薄くなっていった。


 ああ!と名残惜しそうな声を上げるメラニアに苦笑しながら、俺はリグリエッタに問いかけた。


「で、リグリエッタ。お前の手の甲に、アレイナ様の紋章は刻まれているのか?神の紋章は、祈りの力によって浮かび上がるぞ。試してみろよ」


「わ、わらひは」


 メラニアが手際よくリグリエッタの手の甲を露にするが、リグリエッタの手の甲には何の紋章も浮かび上がってこなかった。


「ま、そうだよな。実はカウリエン様にお願いしてアレイナ様に確認をしておいた。今代のアレイナ様の使徒はリグリエッタかってな」


 リグリエッタは怯えた目をしてこちらを見た。


 まさかそんな、といった感情が目から伝わってくる。


「違う。今代の使徒は男だ、しかもまだ生まれてすらいないってさ」


「ほ、ほんひゃばひゃな~」


 リグリエッタはその場に泣き崩れた。


 涙が地面を濡らし、土で汚れるのも気にせず顔ごと地面に伏せた。


「シュライザー、メラニアに手伝ってもらってリグリエッタをあの木に括りつけとけ。絶対に錠は外すなよ」


 俺は紅の団員が一塊にしてある場所の近くに生えているそこそこの大きさの木を指差した。


 これで完全に心を折ってやったが、それでも人はヤケになると何を仕出かすかわからないからな。


「まさか、団長が使徒だったなんて」


 アリュードがそう呟くと、他の団員も代わる代わる驚きの言葉を口にした。


「ただ者じゃねぇと常々思ってましたがね、まさか団長が使徒だとは。夢じゃねーよな」


 何気に失礼だなグラウ。


「すげー!使徒様なんて生まれて始めて見た!」


 ここ何年もほぼ毎日顔合わしてただろーがアベイル。


「団長!他何か、何か使徒っぽい事出来ないんですか?」


 使徒は大道芸人じゃねーよリッツ。


「使徒様だー!ありがたやありがたや」


 祈るなフリック!祈るならカウリエン様に祈れ!


 他の団員も大体似たような反応だった。


「加護は、カウリエン様の加護はどのような御力なのですか?!」


 素早く戻ってきたメラニアが、怖いくらいの勢いで質問してくる。

 

 やはり神官だけあって興味津々らしい。


「俺、加護は貰ってない。お断りした」


「何でなんですかー!!!」


 鎧の上から俺の両肩を掴んで前後に揺さぶりまくるメラニアに、俺は笑って誤魔化した。


「そういえば、副団長だけは驚かれていませんでしたが、やはりご存知だったので?」


 メラニアと共に戻ってきていたシュライザーが、恋人の暴走を見ないふりしてランデルにそう尋ねた。


 シュライザーは神託のお供でついてきていた時に何かしら察していたんだろうな。


「ああ、この会戦の前にお話頂いた」


 カウリエン様の降臨作戦の準備のためにはどうしても役職の高い協力者が必要だった。


 パムルゲンのカウリエン様の打ち捨てられた社に奉納するための貢ぎ物を、秘密裏に持っていってもらうためには騎士団の本陣から物資を持ち出しても怪しまれない者が必要だったからだ。


 だからランデルに打ち明けて、その役を担ってもらった。


 ちなみに奉納に出向いた歩兵は出兵していた我が家の領兵達なのでもちろんそちらも問題ない。


「作戦上、必要だったしな。俺としては本当ならこの場で明かすことなく終わらせたかったんだが、ここまでしなければリグリエッタの心を折れなかったからな、しょうがない。ただ」


 俺は目に力を込めて団員を見回した。


「この事は他言無用だ。一切の口外を禁じる」


 団員達は生唾を飲み込んで頷いた。


「ただ、神官のメラニアには神殿への報告義務があったよな」


 メラニアは申し訳なさそうに、はい、と頷いた。


「とりあえず報告は少し待ってくれ。このゴタゴタが片付いてからか、『アレッサの秤』を使用せざるをえない場合に、直接神殿長とお話させて頂く」


 その時は案内を頼むと言うと、任せてくださいとキラキラした笑顔で頷いた。


「『アレッサの秤』を使わないで済みますかな?」


「リグリエッタの心をバッキバキに折ってやったから、すらすら自白するだろうと考えてる」


「今は萎れていますが、この先もあのままとは考えにくいかと」


 ランデルの心配は尤もだ。


 リグリエッタの最大の強みは脳筋による鈍感メンタルだ。


 普通の人ならしばらく引きずるような失敗でも失敗と思わないか、一日経てば忘れるからな。


 だから、我ながらえげつない方法を取る事にしたんだ。


「迷ってはいたがな、『紅の騎士団』には、見せ物になってもらおう」


「やはり、やりますか」


「ここまできたらしゃーない。やる。奴らを表を歩けなくしてやる。あいつらは、そこまでの事をした。許されるもんじゃない」


「わかりました」


 さて、後はゴルズ男爵達を待つばかりだな。




 

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