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僕は当たりましぇん


「覚悟しろデューク!」


 目がチカチカする紅いオーラを出しながらこちらに突っ込んでくるリグリエッタ姫。


 なるほど確かに先ほどよりは動きが速い。


「まあ、無駄なんですけどねー」


 俺がサッと避けると、止まりきれずにボコられていた他の紅の騎士団員を巻き込んで、土煙をあげながらスッ転がっていくリグリエッタ姫。


 俺同様サッと避けたアベイルは、あちゃーって顔をしながら巻き込まれて白目を剥きながらピクリともしない紅の団員の片足を持って、ノックス達の元に引きずっていった。


「フッフッフッ、よくぞ避けれたものだ。逃げるのだけは上手いな。だが、今のは軽い様子見だ。まだ『紅の聖鎧』の実力の半分も出してはいない」


 オーラが身を守ってるのだろう、あれだけ派手にスッ転んでも無傷らしいリグリエッタ姫が、収まった土煙のむこうに立っていた。


「何事もなかったように話を進めるな」


「貴様には私を侮った事を後悔させてやる!」

 

「あーあー、傷は大したことなさそうだけど」


 ノックスが気絶した紅の団員を治療したのだが、怪我は大したことがないのは治療時間が短かったためすぐに分かったが、どうも意識は戻らないらしく、何とかならないかと頼み込むアベイルに、無理だと言って首をふっている。


 アベイルはがっくしと頭を下げて落ち込んでいた。


 殴り足りないんだろーな。


「まずは貴様を二度と剣が持てないよう完膚なきまでに叩き潰し、我が団員を痛め付けている他の第三騎士団の奴らにもその代償を払わしてやる」


「お仲間の一人はお前がやったんだけどな」


「次は半分の力を出してやろう。覚悟しろっ!ハアッ!」


「スルーですかそうですか。じゃあ俺もスルーする」


 またもや突っ込んできたリグリエッタ姫をサッと避ける。


 先ほどの再現のように他の紅の団員を巻き込んで、土煙をあげながらスッ転がっていくリグリエッタ姫。


 ほんと脳筋だよねお前。


 アベイル同様サッと避けたフリックが、地面にめり込んだ紅の団員を引っこ抜くと、やはりノックスのところまで引きずって行く。


 そしてアベイル同様紅の団員の意識が戻らないとノックスから告げられたフリックスは、あーあーもーって感じに首を降って、座って観戦モードに入っているアベイルの隣に座った。


 アベイルが団長ちゃんと相手してくださいよとジェスチャーしてくる。


「いやいや、俺のせいじゃないだろ」


「貴様が避けたせいで我が団員に犠牲者が出てしまったではないか」


「いや何言ってんだこの脳筋馬鹿姫は。はねたのお前じゃん!」


「黙れ!私を誘導して同士打ちさせるなど卑劣な手管を使いおって!もうその手にはのらんぞ!」 


「うわーこっちに罪を擦り付けてきやがった。俺はその場からほとんど動いてないってのにどうやって誘導するんだよ。部下をぶっ飛ばしたのは自分が力加減が出来てないからの癖して、それを対戦相手のせいにして自分のミスをなかったことにするとかますます騎士じゃないぞー」


 そうだそうだーと煽りを入れるアベイルとフリック。


 リグリエッタ姫は紅いオーラの上からでもわかるくらい顔を赤くしてプルプルしていた。


「貴様のような卑劣な輩にはもはや手加減など不要!全力で葬ってやる!」


「最初からそうすれば犠牲者二人も出さずに済んだかもしれないな」


 またもやこっちに突っ込んでくるリグリエッタ姫。


 当然サッと避ける。


 オーラなしの時より三倍くらい速い動きにはなっているが、そんな直線的な動きしか出来ないようじゃ避けてくれって言っているようなものだ。


 三度、土煙をあげながらスッ転がっていくリグリエッタ姫。

 

 その先には観戦中のアベイルとフリックが座っていたが、二人ともサッと避けて、何故かこちらに抗議のジェスチャーを送ってくる。


「だから、俺のせいじゃないじゃん」


「貴様は本当に避けるのだけは上手いなデューク。逃げが得意なのは戦になると逃げ出す冒険者上がりの特技か。そのような臆病者に騎士を名乗る資格はないわ!」


 わけのわからない理論を持ち出してこちらに仕返しとばかりに叫ぶリグリエッタ姫。


「そういう発言は俺に一撃でも当ててから言えよ」


「言われるまでもない!」


 意地になって何度も斬りかかってくるリグリエッタ姫。


 その度にサッと避ける。避ける。避ける。


 正直この程度のスピードではオーラ不使用時のスピードとの誤差の範囲内でしかない。


 避けた先で派手に土煙をあげてはスッ転がるものだから土ぼこりを被りまくって赤茶色になりつつあるリグリエッタ姫は、身体的ダメージは皆無だが、攻撃が掠りもしない状況にイライラを募らせていた。


「何故だ!何故当たらん!」


「そりゃ、あんたのスピードが大したことがないし直線的だからだよ。『神速の牙』は今のあんたの五倍は速かったし、動きも流動的だったぞ。お前あれだけ訓練で見てたのにそんな事すら分からないのか」


 前副団長は、俺が見てきた中でもブッチギリの速さだった。


 おまけに緩急自在でフェイントも滅茶苦茶上手く、彼との訓練は常にガチマジでやらないと気づいたら地面に転がされてしまうくらい圧倒的な速さと上手さだった。


 今のリグリエッタ姫のスピードならば第三騎士団なら俺を含め何人かは出せる程度でしかないし、身体や目がついてこないので一直線にしか動けないから対処も容易い。


「『紅の聖鎧』はスピードだけではない。己の身体能力全てを何倍にも高めるのだ。このように、な!」


 ドヤ顔しながら手に持った紅い剣を地面に叩きつけて、小さなひび割れを起こすリグリエッタ姫。


 剣をそんな事に使ったら無駄に刃こぼれするだけだぞ。

 

「ふん、一瞬で終わらせてやろうと思ったがもう良い。我が剣の前に沈め!」


 今度はちゃんと自分で制御できるスピードでこっちに近づいてきて、接近戦をしかけてくる。


 まあ距離が近づいたところで避けるんですが。


「ハアッ!セイッ!ソラッ!フンッ!」


 ヒョイ、ヒョイ、ヒョイ、ヒョイ。


「僕は当たりましぇん!」


 昔流行った喜劇の主人公の口調を真似てリグリエッタ姫を煽る。


「き、貴様ッ!大人しくッ!剣のッ!錆びになれッ!」


「そんのお上品な剣じゃあ百年経っても無理無理。おまけに無駄な力が入りすぎて振りが鈍ってるから余計に無理」


「このおおぉぉぉー!」


 やたらめったら剣を振り回すリグリエッタ姫だったが、それも長くもたずにまたもや肩で息をしはじむた。


 心なしかオーラも小さくなっているな。


「何故だ、『紅き聖鎧』をまとった私が、剣聖ナタリーの再来たる私が、何故こんな輩の一人も倒せんのだ!」


「そこがまず勘違いだな」


「何?」


「お前が纏ってるオーラは、『紅き聖鎧』じゃないし、剣聖ナタリーの再来は別にいるし」


「何を言っている!またそうやって私を騙そうとしても」


「剣聖ナタリーの再来は、マリーだ。あいつは『紅き聖鎧』を使える。本人はまだ未完成だとは言ってるけどな」


「なッ!」


「マリーが使う『紅き聖鎧』はそんな無駄に魔力をオーラ状にバチバチ放出しっぱなしじゃない。体の中に溜めた紅色の魔力で体の外側をうっすらと鎧のように覆っているから『聖鎧』って名前なんだよ。そもそもマリーはお前と違って剣聖ナタリーの直系の子孫だし」


 そう、マリー・ランガーは剣聖ナタリー・ラグラントが公爵位を賜った時に彼女が新たに興したランガー公爵家の長女だ。


 ランガー公爵家は代々女性が当主を受け継ぐため、マリーもいずれそうなるだろう。


 今回彼女を早馬に選んだのも、次期ランガー公爵である彼女なら途中接触したリグリエッタ姫に何を言われようとも無視して先に進めるからだ。リグリエッタ姫なら報告の内容を虚偽のものだといちゃもんつけて、早馬を拘束しかねない。


 他の団員だった場合、無理矢理振り切ってしまうと王族に逆らったとして不敬罪が適用されてしまう場合があるが、マリーなら問題ない。


 腕もたつから例え囲まれても他の団員とともに強行突破できる。


 ランガー公爵家の女性は皆初代のように剣が得意、というわけではなかったが、それでも初代のように『紅き聖鎧』を発動させる事ができた者も中にはいたらしい。


 マリーは初代を含めた先人の残した指南書を読んで鍛えているらしく、未だ記載されている全ての技を習得するには至っていないらしい。


「マリーが、『紅き聖鎧』を発現しただなんて、私は、聞いてない」


「いやだってマリーはお前の事嫌いだし」


 マリーは小さな頃は病弱だったらしく、すぐに熱を出しては寝込んでいたらしい。


 それでも寝物語に聞いた初代の冒険譚が大好きで、いつかは自分も初代のような強い女性になるんだと幼心に憧れていた。


 そんなマリーは、リグリエッタ姫から『そんな病気ばかりになるようじゃランガー家の名が泣くわ。剣もろくに振れないようじゃ剣聖ナタリーのようになるなんて無理よッ!』と散々言われ続けたらしい。


 やがて成長し、体も健康になってやっと剣の修行を出来るようになった頃、第三騎士団に無理矢理入団したリグリエッタ姫が『騎士である私自ら鍛えてあげる!』と押し掛けてきた。


 まだ素振りくらいしか出来なかったマリーを散々しごいて、『貴女には剣才がないわ!諦めなさい!』と捨て台詞を残して去っていったらしい。


 リグリエッタ姫のドン引きするほどのクズエピソードだが、やられたマリーはへこたれなかった。


 前近衛騎士団長の、アリュードの父親であるカラルド・バダック子爵に個人教師になってもらい、リグリエッタ姫が紅の騎士団の団長になる直前までの四年間みっちり鍛え、バダック子爵からいっぱしの剣士になったとお墨付きをもらう。


 マリーが『紅き聖鎧』が発現したのは三年目で、残り一年を『紅き聖鎧』の修行に費やし、リグリエッタ姫が第三騎士団を退団した直後に騎士の登用試験をクリアして、正式に騎士となった。


 実は最初は近衛騎士団に入団する予定だったのだが、本人が前線で戦いたいと希望したのと、アリュードが推薦したため第三騎士団に入団した。


 正直当時の俺は自身がいきなり騎士団長にされて戸惑っていたし、リグリエッタ姫の事もありお嬢様を相手にするのはもう懲り懲りだった。


 その上戦争中に育てる余裕なんかないんでお断りしたかったのだが、大先輩であるバダック子爵と副騎士団長補佐になったアリュードの親子推薦をはねられる程肝が太くはなかったので受け入れるしかなかった。


 だが、マリーはリグリエッタ姫と違い勤務態度も至極真面目で訓練でもすぐに他の団員に劣らない動きをするようになった。


 さらにランデルのしごきにも志願して耐え続け、他の団員同様騎士として一人前だと合格をもらった。


 初めての戦場でも臆することなく戦っていたし、周りとの連携も訓練通りにこなしていた。


 この頃には俺も考えを改めて、マリーを一人前の騎士として認めて、信頼するようになった。


 マリーはリグリエッタ姫を見返してやる、という気持ちもないわけではなかったらしいが、第三騎士団で騎士として認められ、さらにリグリエッタ姫の過去の悪行を聞いて、あんな奴に思考を割くのは無意味だと悟ったと笑っていた。


「嫌い、って、え?」


 俺の発言に何故かショックを受けているリグリエッタ姫。

 

「散々騎士にはなれないだとか、剣才がないだとか言ってイビってきた奴を嫌いになるなんて当たり前だろ。しかも言った本人はなんちゃって騎士だったわけだし」


「そんな、つもりは」


「お前がどんなつもりだったかなんて興味ないけどな、マリーにとってはそうだったってこった」


「私は、ただ、ランガー公爵家の者なら、誇りを、持て、と」


「誇りを持っていたからマリーは病弱な体を頑張って克服し、バダック子爵を個人教師になってもらうようお願いして、厳しい訓練に耐えて剣を習い、騎士の登用試験にも正式に合格して、ランデルのしごきにも志願して耐えて、一人前の騎士として認められたんだよ。だがお前の言う誇りとは違う。お前はただ、妬ましかったんだよ」


「妬まし、かった?」


 リグリエッタ姫の目は、焦点を失い始めていた。


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