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談合合戦

初投稿です。よろしくお願いします。


 ウオオオオオォォォーーー!!!


 大地が震えるほどの雄叫びを上げ、大平原を埋め尽くさんとばかりに広がる我がラグラント王国の兵士達が敵陣に向かって一歩づつ進んでいく。


 ザッザッザッザッ。


 相手も勿論ただ突っ立って出迎える訳ではない。

 こちらに負けじと雄叫びを上げ、真っ正面からぶつかりに来る。


「ここまでは作戦通り」


 俺は高台に敷かれた陣地に作られた物見櫓から、戦場の動きをつぶさに観察していた。


 遠眼鏡で各陣地の動きを、裸眼で全体の動きを、それぞれ交互に確認しながら机の上にある配置図の駒を動かしながら戦場を観察する。


「チッ、敵の騎馬隊の動き出しが予定よりちょっと早いぞ」


 戦場とは生き物だ。


 先ほどまでここは大丈夫だと思っていた地域が、次の瞬間には劣勢に陥ったりなんぞ日常茶飯事。


 ただの歩兵隊だと思っていた相手が突如騎馬隊よりも早く進軍し本陣を強襲してきた時はマジでビビった。


 歩兵全員に天馬のブーツなんて使い捨てだが高額なマジックアイテムを装備させての奇襲なんて奇策中の奇策だったなぁ。


「まあ今回は奇策も何も起きやしないが」


 とりあえず相手の騎馬隊の動きに合わせてこちらも騎馬隊を動かすよう伝令を出す。あくまで牽制に留めるため手出しはさせないよう告げる。


「デューク様、コーヒーをお持ちしました」


 メイドのシャロルが急な階段を苦にすることなくお盆にコーヒーと菓子を載せて物見櫓の上まで持ってきてくれた。


「ありがとう、シャロ」


 淹れたてのコーヒーに口をつける。

 

「うん、うまい」


 俺の感想を聞いてもシャロルは無表情だったが、やや癖のあるショートの黒髪の間からのぞいている可愛らしい耳がピコピコと動き、極上のモフモフ感を持った柔らかい毛に包まれたしっぽもフリフリと左右に振られていた。


 シャロルは小柄な猫系の獣人だ。


 獣人にしては珍しくあまり表情を表に出さないがそのかわりに耳やしっぽは獣人らしくよく動く。


 もっとも俺と二人きりの時だけだが。


 彼女は色々あって小さい頃に我が家に預けられ、それ以来実の兄妹のように育ってきた。


 家族の中でも俺に特になついていたシャロルは俺が家を出て冒険者になった時もついてきて、家を継ぎ軍務につくため王都へ行くことになった時も俺と離れ離れになるのが嫌で俺の専属メイドとしてついてきたのだった。


 本当ならメイドなんかやらなくても俺についてくるだけなら他にいくらでも方法はあったのだが、シャロル本人が四六時中一緒に居られるという理由で専属メイドになった。


 俺としては妹同然の女の子を人前ではメイド扱いしなければならない事にちょっと抵抗があったりしたのだが、当の本人が嬉しそうな顔しているので何にも言えない。


 シャロの笑顔の為ならしょうがないよな、うん。


 コーヒーの香りを楽しみながら半分ほど飲み、焼きたてのクッキーをついばみながら戦況を見守る。


 今のところは上手いこといっているな。


 今回の戦争は、敵対国との談合合戦だ。


 敵対国であるユールディン帝国の大将キーラン第二皇子と内密に取り決めた内容は、パムルゲン平原でお互い戦力を最低限しか消費しない合戦を始め、こちらの仕込みで停戦に持っていき、むこうからくる予定の和睦案を飲んで手打ち。そのまま撤退する、といった感じだ。


 キーラン皇子は王都でクーデターを目論む弟を殲滅し、ついでに父親を強制的に退位させて自らが皇帝となり、我が国との国交回復と同盟締結を成して疲弊気味な国力の回復に努めるつもりとの事。


 一方こちらも西方で見舞われた昨夏の大洪水が原因の飢饉によって大分目減りした国庫の中身の回復と、大洪水によって破壊され、いまだに再建途中の西方辺境伯領都と我が国の小麦産出量の五割を占めるアラヤ平原の穀倉地帯の灌漑用水路を修復・整備しなければならないためユールディンと戦争をしている余裕などない。


 お互いの利害が一致した今回の談合合戦。


 もちろんただ利害のみで決まったわけではなく、俺とキーランが実は旧友だってのも大きな要因だ。


 俺とキーランは若い頃に同じ街で冒険者をやっていて、同じパーティーでこそなかったが互いに競いあい、時には危険な依頼を協力しあい、酒場で共に浴びるほど酒を飲んだ、そんな仲だった。

 俺が実家を継ぐために冒険者を引退して国に帰ろうとした時、キーランも母国から帰還するよう祖父から手紙がきたと言って冒険者を引退した。


 いつかまた会おうと、冒険者ギルドに併設された酒場が始まって以来の大送別会となって翌日のギルドの依頼不達成記録を大きく更新したあの日から、まさか戦場で再会するとは夢にも思わなかった。


 そもそもキーランの奴が皇子だなんて知らなかったし、向こうも俺が騎士団長になっているなんて夢にも思わなかったろう。


 だがこれは俺にとってもキーランにとっても幸運だった。


 戦場で再会した俺達は密かに連絡を取って、互いの近況を語り合った。


 キーランは妾腹の第二皇子で、母親の身分が低めだった(宮廷侍女で子爵家の三女)事から王位継承権から外されていたため母親の実家で育てられたが、ある日祖父の子爵と喧嘩して国外に出奔。


 とりあえず当座の金を稼ぐため流れ着いた街で冒険者になったらしい。


 その後は俺もよく知っているが 剣の才能と臨機応変な戦い方でメキメキと実力をつけ二つ名つきの冒険者になるまで上り詰めた。


 しかしこれが偶然祖父の耳に入る。


 キーランの祖父、エッケベルク子爵はその半年ほど前に流行り病にかかり、なんとか一命はとりとめはしたのだが後遺症で歩けなくなってしまい、自分が存命の内に子爵を継いでもらうためキーランに帰ってくるよう手紙を寄越してきたらしい。


 当初はキーランも突っぱねたらしいのだが、病によってエッケベルク子爵が心身ともに相当弱ってしまって歩くこともままならない事、ここで帰らないと万が一祖父が亡くなった場合エッケベルク家の存続が危うくなると手紙を届けにやって来た子爵家の家臣から説得された。


 いざ帰国してみたら昨年起こった大雨による崖くずれや、魔物被害の頻発化によってダメージを受けた子爵領内のあまりの疲弊ぶりにいてもたってもいられずあれやこれやと奔走した結果、エッケベルク子爵領は見事に黒字回復。


 この手綱を見た皇帝から皇子ながら正式にエッケベルク子爵家を継ぐ事を許可され、さらにエッケベルク子爵領を含む北方を守護する辺境軍を率いて北の守りを固めるよう命を受ける。


 ユールディンの北方は宵闇の森と呼ばれる魔物の生息地で、その被害に頭を悩ませていたのだが、キーランはこれを子爵領でも遺憾なく発揮された元トップ冒険者の経験と実力をもって劇的に改善。


 これらの功績によって第三皇子を抜いて継承権第一位になり軍の大将に任命されたらしい。


 キーラン自身は皇帝の座なんか興味なかったしなりたくもなかったらしいのだが、第一皇子を亡くし心が弱っていた皇帝がキーランの働きぶりをみて無理矢理継承権を上げてしまい、第三皇子から怨みを買ってしまった。


 第三皇子は元々キーランを妾腹の粗暴な輩だと目の敵にしていたのだが、この一件で殺したいほど憎い奴に格上げされ、同時に自分の継承権を下げた父親に対しても自分を身限ったのかと酷く失望し、ならば己で皇位を奪うまでとクーデターを画策するようになってしまったらしい。


 内と外から敵に挟まれるのを危惧したキーランが、戦場で見いだした希望がまさかの敵国の将、俺だった。


 一方俺も俺でキーランほどではないがかなり大変だった。


 親父が急にポックリ逝ってしまったため実家を継ぐべく帰国したら寄親に推薦されいきなり王国騎士団に入団する事になり、軍務についてあちこち転戦するうちになんやかんやで第三騎士団の団長になってしまった。


 一応最年少での団長就任らしいが、前団長が酒の飲み過ぎで体を壊してしまい、時を同じくして副団長もユールディンとの戦で足をやられて騎士団を引退。後釜がいなかったため副団長補佐の俺が急遽飛び級で団長に任命されてしまったのだった。


 正直、荷が重い。


 大恩ある寄親の推薦を断れずに、流されて騎士になった俺のような奴がなっていい地位ではないと常々思っている。


 ともかく俺達はお互い望んでないにも関わらず出世してしまい、しかも両国にとってなんの利益にもならない戦の大将にさせられて、戦場でまさかの再会をとげた。


 そんな偶然によって再会した俺達は、互いにこの無意味な戦をさっさと終わらせるべきだという結論に達し、談合合戦で早期終戦をしようと今にいたるのだった。


「そろそろ仕込みを始めるか」


 櫓の上から伝令に指示を飛ばす。


 目的は左翼に展開している歩兵隊。


 その後方にある小さな林の中にある打ち捨てられた社だ。


 その社こそ、今回の作戦の要。


 『豊穣の女神カウリエン』の社。


 そのボロ社に大量のお布施を納めることによって女神に降臨してもらい、今回の戦を仲裁してもらう目的だ。


 女神カウリエンとは冒険者時代にちょっとした縁で知り合い、その際に俺は女神の使徒にされた。


 使徒と言っても別に特別な加護とかがあるわけじゃなく、ただカウリエンといつでも会話が出来るってだけなんだが。


 そんな微妙な使徒だけど今回はそれが役に立つ。


『デュー君聞こえる~?』


『聞こえてます』


 間延びしたポヤポヤ声が俺の頭の中に響く。


 女神カウリエンだ。


 俺はコーヒーを飲みほすとシャロにカップを渡してカウリエンとの会話に集中する。


『もうお布施が届いたのですか?』


『ううん、まだ~』


『それでは何か問題でも?』


『違うの~ちょっと声が聞きたかったの~』


 いや、そんな彼氏彼女みたいな会話をしているような時じゃないんですが。


『はいはい、そういうのは良いんで本当はどんなご用だったんです?』


『む~。声が聞きたかったのはほんとだよ~。でもね、今回の作戦ってほんとに私が出なきゃだめ~?キーラン君とデュー君に同時に神託を下ろすとかじゃだめ~?』


『カウリエン様、直にお布施が届きます。そうしたら可及的速やかに平原の中央部に降臨していただき戦の仲裁をしていただくと、そうお約束していただいたはずです』


『でもね、私豊穣の女神だから~。戦いの女神アレイナちゃんじゃなくて~。皆お話聞いてくれるかな~?』


『大丈夫です。戦をしている兵隊達は大部分が普段は農夫をしております。つまり貴女の信徒です。そうでない者も女神様を前にして異を唱えようなどと考えもしないでしょう』


『そうなんだ~。それを聞いてちょっと安心した~。でもやっぱりこーんな沢山の人の前で降臨なんてしたことないから緊張しちゃう~。お願いデュー君、私が降臨する時すぐ側にいて欲しいな~』


『すぐ側に、となると俺が戦場の最前線にまで出ていくことになります。それではキーランとの作戦が失敗してしまう可能性が高くなります』


 つーか普通偉い奴が最前線に出るなんてするわけないだろ。お伽噺の英雄王じゃないんだから。


 うん、普通はしない。


 しないんだが、我が国にはその普通はしない事をした奴がいて、そいつのせいで俺が騎士団長を押し付けられたところがあるので心中穏やかではない。


『じゃあじゃあ、キーラン君に今から神託をして前に出てきてもらうようお願いしておいたら良いんじゃないかな~?』


『お互いの大将が前に出てきて一騎討ちなんてお伽噺や伝説の中だけですよ』


『そうじゃなくて~、私が神託をしてこれから仲裁に入るから前の方に出てきてって神託がきた~って周りの人に説明してから前の方に出てきてもらえばいいんじゃないかな~』


『いや、そんないきなり神託がきたからだなんて言って指揮官が前に出ていこうとしたって止められるし?』

 

 いや、待てよ。


 多少演出を加えればいけるかな?


 むしろ仕込みがよりドラマチックになる方向にもっていけば俺もキーランもこの先楽になるんじゃないか?


『カウリエン様、最前線の一画、あの辺りですが、この位の範囲にたわわに実った麦を生やせたりとかできます?』


 俺が指で場所と範囲を指し示すとカウリエンは即答した。


『できるよ~』


『ついでに麦を生やすときになんか暖かな光を出すとかはできます?癒されるような感じの』


『できるよ~。一緒にその光の中にいる人の怪我も癒せるよ~』


『流石カウリエン様』


『でもなんで麦を生やすの~?』


『演出ですよ。カウリエン様に仲裁していただくにしてもいきなり血まみれの戦場に降臨されるより、聖なる光が舞い降りて兵士の怪我を癒しつつ血で穢れた土地を麦畑にして浄化した、そんな奇跡を起こしてからの方が兵士達の戦意は喪失するでしょうから素直に話を聞く態勢になるでしょう。それにそんな奇跡を見せられた後なら俺とキーランが神託が下ったと言っても誰も疑う者などいないでしょうから俺達が前に来る時間を稼げます』


『なるほど~。それなら私が降臨する時デュー君が近くでお迎えしてくれるのも大丈夫だね~』


『しかも仲裁の時にここに実りし麦を双方の国へと持ち帰り疲弊した国土を癒すのだとか仰っていただけたなら和睦もスムーズに進むこと間違いなし。いかにも豊穣の女神様といったこのエピソードは必ずや両国の間で熱心な信徒を増やし、末長く語り継がれる事でしょう』


『わああぁ~すご~い!完璧だね~!流石デュー君!私の使徒になってくれて本当に良かったよ~!じゃあじゃあ、麦も普通のじゃなくて特別に病気や日照りに強い子にしておくね~!』


『勿体無きお言葉、ありがとうございます。麦もその方がよりカウリエン様の御力を広める材料となるでしょう』


『早速キーラン君に神託して~、あ、お布施も届いたみたい』


『ではキーランから異論がなければすぐにでも始めるとしましょう』


 我ながら良い案を思いついたものだと自画自賛しながら俺はキーランの返事を待つのだった。

 

 

 

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