6話
連れて行かれた居酒屋で座っている間も、飲酒が頻尿の症状を悪化させるのじゃないかと不安がぞろぞろやってきました。僕はそれらを抑え込むのに手一杯で、運ばれてきた食事や酒に手をつけず黙っていました。
「食わないと元気でないぞ。せっかく明日から長い休みなんだ。どんなに飲んでも食べても障りはないんだからほら」
差し出された皿の上から白身魚のフライを一つ頬張ると僕はもう腹いっぱいで、それきり箸はすすみません。
「おいおい薬で満腹なんて言わないでくれよ。今日は私のおごりなんだから気にせず食べろ」
「ええ」
荒川さんは食前に僕が服用していた錠剤や粉薬のことを言っているのです。健全な人からすれば見慣れぬ服用の光景はそれだけで異質な光景なのでしょう。けれど、それが僕の日常なのです。
苦しまぎれに副菜や肉片の小さいものを選んで食べ、休みの間の過ごし方や趣味はないのかなんていう問いにぽつぽつと応えながら気詰まりな時間は続きました。話すことで僕を励まそうとしているのは分かるのですが、その問い方はぎくしゃくとして中身がなく、応える気にもなりません。そっとしてもらっていた方がどれだけ良かったでしょう。お互い口下手なのですから黙っているほうが自然です。そう思っていると、荒川さんも僕の様子を察してか、喋らなくなりました。
酔客を眺める無言の時間を持て余していると、僕の背後から明るい声が飛んできました。酔っ払いがからんできたのかと思いましたが、荒川さんが慌ててお辞儀したのを見て、違うのだと分かりました。ちらりと見たところ、赤ら顔の上機嫌な紳士です。二人の話を俯きながら聞いていると、荒川さんはかしこまったままその方と話し続けるようでしたので僕は席を立ちました。僕には関係ないことのように思いました。




