4話
ずいぶん緊張しました。なにせ部署を挙げた新しいプロジェクトの提案ですし、それにさっき僕は手洗いでこの会議室の中にいる誰かに見られているのです。顔ぶれは直属の上司の他、見覚えのない方たちで、この中の一人にさっき小便をしていたあいつだ、と胸の内で指さされていると思うと、居たたまれません。加えて、 会議前に給水したのがたたって終盤になるにつれ、ずいぶんな尿意が波の様に僕を襲いました。
我慢しながら質疑を終えると、プロジェクトは無事に認証されました。
胸を撫で下ろしたのも束の間、すぐに手洗いへ行きたい気持ちで急いていました。しかし、上司が重役たちと立ち話をしている内は退室できません。もじもじすることもできずじっとしていると、一人の男性幹部が声をかけてきました。
「森原君と言ったかな、良いプロジェクトになりそうだね。うまく軌道にのせてくれることを期待しているよ」
つやつやとした笑顔をこちらに向けてきます。
僕は漏れそうになるのを堪えながら頭を下げ、精一杯頑張る旨を伝えました。
「かちこちだね。緊張しないように、とはいかないだろうけれど、ゆったりと構えなさい。そうしなければ、うまくいくものも取りこぼすし、何より出るものも出なくなるよ」
肩を叩いて、その幹部は出て行きました。
僕は少ししてから、あ、と思いました。おそらく、彼が手洗いで並んだ方でしょう。後で聞いたところ、部長の早庭さんという方でした。しかし、その時にはもう恥じらう気持ちより膀胱の危機の方が差し迫り、手洗いへ駆けこみました。