27話
十
一時間ほど走った先の道の駅で、僕たちは卵かけご飯と味噌汁を食しました。取れたての黄味が強い卵は、濃厚な口当たりで、僕は二杯、早庭さんは三杯をそれぞれおかわりして満足しました。休日ということもあり、道の駅の食堂は賑やかで、家族やカップルで埋まっています。
「いやあ良かったよ、久しぶりに来られて。私一人ではなかなか来る気持ちになれなかったんだ。森原君には感謝だな」
なんだか懐かしいような目をして言います。
「以前、ご家族と来られたりしたんですか?」
詮索するつもりはありませんでしたが、つい口を滑らせてしまいました。彼を見ると渋い表情です。
「まあ、そういう時もあったかな。それよりさ、」
早庭さんは早々に話を切り換えます。
「ここからしばらく北上した半島の先に、私たちの目的地があるんだ。秘湯という訳ではないんだけれどね、きっと驚くと思うよ。お昼くらいには着いているはずだ」
ちょっとした長旅になるから、寝ててもいいと付け加えて早庭さんは会計に立ちました。そして、すぐに手洗いへ誘われ、服と靴の他をもたない僕は彼についていくしかありません。不平不満で機嫌を損ね、放り出されなどしたらどこへも戻れないのです。小便器で隣り合った彼は、ずっとうんこの悪口を言っていました。
「あれを気持ちよく思ったことは一度もないね。だって尻の穴から出るんだぞ。いつもあれが出ようとする度、ぞっとするんだ。まるで奇怪な生き物が生まれてくるみたいじゃないか。硬かったりびしゃびしゃだったりさ。あれがいいって人間も一定数いるようだけど、気がしれないよ」
うんことおしっこはどちらも余分なものを排出する、からだにとっては大切な機能、結果な訳ですから、優劣などないでしょう。しかし、それは建前で、僕もどちらかと言えばおしっこの方が好きなように思います。
「食べるのは好きなんだけどね、さっき食べた旨い食事も便に変性していくかと思うとやりきれないよ」
彼が何に憤っているのか分かりませんでした。僕なんてこうして人に連れられない限り食事などしなくていいですし、排便したくないのなら、別のからだをもつしかないのです。
「草木にでもなった方がいいかもしれませんね」
「そうそう、そうなんだよ。やっぱり分かってるなあ」
子供みたいに目を輝かせます。
「でも、僕たちは人間だから、今あるからだを精一杯健やかにして、気持ちよくすることしかできないんだよ。残念ながらね」
深く頷きましたが、後から思い起こすととても馬鹿らしいフィクションです。排尿のために人間をやめようと一時でも考えるなんて真っ当ではないでしょう。




