2話
その男はずいぶん長い間ひっかけて、僕はその量の多さに驚かされました。なにせ、滝のような音なのです。限界まで貯めた僕のおしっこでも、これほどの音は鳴らせないと思いました。膀胱の容量が違うのかもしれません。
二十秒を過ぎて身震いし、男は終わりをむかえて僕を向きました。しっかりと目が合うと、僕は気恥ずかしさのあまり目を背け、チャックを閉めずに立ち去ろうとしました。他人の放尿に見とれるなんて、とても正常ではありません。
飛び出した局部を急いでパンツのなかにしまいながら去ろうとすると、男は僕に何か言いました。文句でもつけられたのかと驚き、逃げようとしました。しかし、男は再び声をかけてきます。
「君はおしっこが好きかい?」
はっきりとそう聞こえました。
恐い人だと感じた僕は、チャックを閉めきれないまま、振り向かずに駆けました。男は追ってこなかったものの、息をきらせて自宅へ辿り着いた後もその声がずっと耳に残っていました。
そのことがあってから、僕は外で小便をしなくなりました。自分でも意外なほどに恐かったようで、用を足す度に思い出し、尿が詰まるのです。こういうのをトラウマと言うのでしょう。小便器の前に立つと、あの暗闇と滝が脳内にリプレイされるのです。
以来、僕は頻尿になりました。
日常のなかでもふとすると膀胱の様子を伺っていますし、すればするで、公園での恐怖が蘇り僕を苛むのです。
会社でしきりに手洗いへ立つようになった僕の行動は周囲の目に留まりるようになりました。本名の森原でなく、直管とあだ名されるようになりました。不名誉なことではありましたが、僕はどうすることもできなかったのです。