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ピスの声が聴こえる  作者: 夏山 生海
11/46

11話

「モラルハラスメントですよ。困ってるじゃないですか」


「ああ、ごめんごめん。飲みすぎちゃったかな。しかし、生き辛い世の中だよ。ちょっとでも閾から踏み出れば、こうやってアラームを鳴らされる。他人がつくったものに縛られるなんて、ああ嫌だ」


「偉い方からのお言葉は有難いですね」


 カツヤさんが助け舟を出してくれても僕は少しも笑えず、気持ちは曇ったままです。


「手洗いに行ってきます」


 尿意はそれほど感じていなかったのですが、その場から一寸離れたく、僕は言いました。しかし、部長は見透かしたように僕の離席を阻むのです。


「もう少しでここを離れるから、トイレは次の場所でしたらいいじゃないか。それに、ここは会社じゃないんだ。役職名はやめてくれ、なんだかこそばゆい」


 浮かしかけていた腰を着地させて僕はがっかりしました。ここで解放されるとばかり思ってましたし、これ以上話すこともないのです。呼び方にしても、僕のなかで彼のアイデンティティは役職と癒着して、今更分けることなどできません。部長は部長です。


「なんとお呼びしたら」


「君も固い奴だな。けど、なんとでも呼べばいいと言ったところで困るんだろう。カツヤくんが呼ぶように、苗字で呼べばいいんじゃない」


「ええと、それでは早庭さんと」


 カツヤさんは、何がおかしいのか、口に手を当てて笑いを堪えていました。


「そういうことだよカツヤくん。おあいそ」


「はい、少々お待ちを」


 グラスに残った酒を慌てて飲み干すと、とても苦く感じました。

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