表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピスの声が聴こえる  作者: 夏山 生海
1/46

1話

 友人たちと飲んだ帰り、僕は繁華街から少し離れた路地でひとり、適当な暗がりを探してよたよたしていました。ひとと酒を飲んだ時はいつもそうなのですが、お喋りに夢中になるあまり手洗いに行くのも忘れて、店を出てから下腹部の張りに気づくのです。


 何でこんなになるまで気づかずにいられたのか不思議ですが、いつもそうなのです。


 既に尿意は我慢の一線を越え、覚束ない歩みで刺激される度、放水してしまいそうです。僕はアルコールに浸された頭で手洗いを借りることのできる最寄りの店を思い出そうとしましたが、とうに通り過ぎていました。自宅まではずいぶんありますし、外でするしかなさそうです。まわりに人影は見当たりませんでしたが、僕にも人並みの羞恥心がありますから我慢がきかなくなるまでもう少し歩くことにしました。


 街灯の照る道の先に突き出した緑が見え、助かった思いで膀胱を刺激し過ぎないよう一直線に向かうと、緑がある場所は遊具のない小さな公園でした。公衆トイレなどありませんでしたが、致し方ありません。


 街灯の届かない端に行き、低い植栽の前でチャックを下ろそうとするものの、尿意に急かされてうまくあけられず、局部がうずきます。やっとのことでズボンをひらき、晒すと、狙いを定める間もなく放尿しました。


 ざーっという音とともにおしっこは茂みの中に落ち、僕は声を漏らしながら上向きました。うっとりと見上げた空は濃紺で、そこはもう天の国です。少し前の焦燥は嘘のように消え、からだが浮き上がっていきます。息を吐きながら目を瞑り、からだの外へ出ていくのを感じていると、ざあざあと放尿の音が強くなりました。


 自分の下を見ましたが、もうちょろちょろと終わりかけていて、そんな勢いなど少しもありません。どうやら音は隣から聞こえてくるようなのです。見渡すと、いつの間にか一人の男が僕の左に立っていました。


 その男は、三メートルほど離れたところで僕と同じように、いいえ、よく見ると、自分とは違う様子で放尿していました。肩幅以上に足を広げ、左手は腰に右手は局部を支えてゆったりと放水しています。あんまり堂々としているものですから、さぞかし立派な人なのだろうと思いかけましたが、それは酔った判断です。野外で放尿する人間に立派な人がいるはずはないのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ