1話
友人たちと飲んだ帰り、僕は繁華街から少し離れた路地でひとり、適当な暗がりを探してよたよたしていました。ひとと酒を飲んだ時はいつもそうなのですが、お喋りに夢中になるあまり手洗いに行くのも忘れて、店を出てから下腹部の張りに気づくのです。
何でこんなになるまで気づかずにいられたのか不思議ですが、いつもそうなのです。
既に尿意は我慢の一線を越え、覚束ない歩みで刺激される度、放水してしまいそうです。僕はアルコールに浸された頭で手洗いを借りることのできる最寄りの店を思い出そうとしましたが、とうに通り過ぎていました。自宅まではずいぶんありますし、外でするしかなさそうです。まわりに人影は見当たりませんでしたが、僕にも人並みの羞恥心がありますから我慢がきかなくなるまでもう少し歩くことにしました。
街灯の照る道の先に突き出した緑が見え、助かった思いで膀胱を刺激し過ぎないよう一直線に向かうと、緑がある場所は遊具のない小さな公園でした。公衆トイレなどありませんでしたが、致し方ありません。
街灯の届かない端に行き、低い植栽の前でチャックを下ろそうとするものの、尿意に急かされてうまくあけられず、局部がうずきます。やっとのことでズボンをひらき、晒すと、狙いを定める間もなく放尿しました。
ざーっという音とともにおしっこは茂みの中に落ち、僕は声を漏らしながら上向きました。うっとりと見上げた空は濃紺で、そこはもう天の国です。少し前の焦燥は嘘のように消え、からだが浮き上がっていきます。息を吐きながら目を瞑り、からだの外へ出ていくのを感じていると、ざあざあと放尿の音が強くなりました。
自分の下を見ましたが、もうちょろちょろと終わりかけていて、そんな勢いなど少しもありません。どうやら音は隣から聞こえてくるようなのです。見渡すと、いつの間にか一人の男が僕の左に立っていました。
その男は、三メートルほど離れたところで僕と同じように、いいえ、よく見ると、自分とは違う様子で放尿していました。肩幅以上に足を広げ、左手は腰に右手は局部を支えてゆったりと放水しています。あんまり堂々としているものですから、さぞかし立派な人なのだろうと思いかけましたが、それは酔った判断です。野外で放尿する人間に立派な人がいるはずはないのです。




