僕にしかできない事
過去になにがあったかなんて、本当に興味がなくて
かと言って、特別未来に興味があるわけでもないけれど
もし、この世に未来や過去を行き来する事ができるのならば
僕はきっと、過去を選ぶだろう
-序章-
1986年12月24日、僕は産まれた
世に言うクリスマスイブの日だ
皆、誕生日がこの日だと聞くと揃って羨むけれど、当の本人は嬉しいと思った事は一度もない。なんせ、クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされる上、皆からはメリークリスマスのおまけ扱いだ。唯一ありがたいのは、覚えやすいという事くらいだろう
母が言うには、ホワイトクリスマスだったという。本当は、幸という名前にしようと思っていたらしいが、父がそれじゃあ女みたいだからという事で、優希になったと聞いた
僕の母は、とても優しい人だった
いつも笑顔で、僕がやんちゃして服をぼろぼろにしても、母のお気に入りだったコップを割っても、怒りはしなかった
だけど、そんな優しい母が一度だけ声を荒げた事があった
それは、僕が中学生になって間もない頃
父と大喧嘩をした僕は、家出すると言って荷物を抱えて家を飛び出そうとした時だった
いや、あれは、声を荒げたんじゃない
母は大泣きして、その場に崩れ落ちたのだ
だけど、何か言いたそうにしていたのは間違いない
言いたいけれど、言えないと言ったようなそんな表情だった
あの後、僕は母の泣いた顔を見て反省した
だけど、どうして母があそこまで泣きじゃくってしまったのか
そんな事、あの時は深く考えたりする事はなかった
ただ、悪い事はしたなとそう思うだけだった
それから、3年後
母は急死した
高校の入学式の日、母は家に帰ってから倒れ、そのままこの世から去ってしまった。医者は、脳梗塞だと一言だけだった。
あまりにも急で
あまりにも起こってしまった事が大事すぎて
どうしていいか分からなかった
救急病棟前のソファに座っていると、父が汗だくになって走ってやってきて、僕の体を揺すった
だけど、それ以降は全く覚えていない