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プロローグ 異世界転生は決定事項ですか? 後編

ロリっ娘書くの楽しい(重症)

 これこそ道場! という内装の一室。

 そこで動き回る二つの人影。


 俺と真己だ。


「遅いっ!」


 そんな声と共に、手首を木刀で強打される。


「いっづ……くっそ、もう少し手加減してくれてもいいんじゃないか? 滅茶苦茶痛てぇんだけど」


「それで死なれたら、美弥様が悲しむんだ! もっと真面目にやれ!」


 やってるんだけどなぁ……本気も本気なのに、どうして真面目にやれと言われるのかしらん?


 ……現在俺は、木刀を持ち、真己に稽古をつけてもらっている。いや、俺が望んだわけじゃないんだがな。


 美弥がどっか行ってるし、受けるしか無かった。


 そして、The普通の人間である俺に対して割と思いっきり当ててくる容赦ないロリっ娘。

 泣くほど痛いが、それはちっぽけなプライドが許さない。


 例え、何時間経っていたとしてもだ。


 立ち上がり、緩く踏み込む。放つのは、力の入っていない右薙ぎ。


「貴様! ふざけているのか!」


「まあまあそう言いなさんなって」


 イライラしているのを隠そうともせずに、俺の木刀を弾く。しかし、その直後に表情が凍った。


「なっ!?」


「――ようやく、一本取れた」


 喉に突き付けた木刀。弾かれたはずの、木刀。


 俺はふざけてなんていなかった。真面目にやっていないように見えたのは、真己の動きを見ることに集中していたから。


 力を入れていなかったのは、弾かれた直後に力を入れ、反転させた木刀を『終わった』という油断、一瞬の隙に捩じ込むため。


 この空間では疲れが生じない。とはいえ、俺は普通の人間で、やれることは限られる。

 だからこそ、ひたすら真己の動きを覚えることだけに全力を尽くしていたのだ。


 そう、


「それは、私がさっき使った……」


 剣道なんてやってなかったし、真似するしかないじゃん? それが無難というか、なんというか。


「俺がやられてるだけだと思うなよ? ……ま、油断してくれなきゃ勝ち目はなかったんだけどな」


「油断など……いや、そうだな……」


 稽古ではなく、一方的ないじめのような構図になっていたのが気に食わなかった。

 そりゃあ、一泡吹かせたいと思うだろ?


 それだけじゃなく、


「お前の過去に何があったのかなんて知らない。だけど、さっき自分で言っていた通り、死なないために必要な事なんだ。頼む、今回だけでもいいから、ちゃんと教えてくれ」


 頭を下げて真剣にお願いする。

 こういうタイプには、『人間』という括りじゃなく、『俺』個人を認識させないといけない。舐めてかかっていた相手に一本取られれば、少しくらい興味を持ってもおかしくないだろう。


 だってほら、こいつ超強いし。

 多分、相当自身あったと思うからさ。


「……ふん、仕方ないな。弱音を吐くことは許さないぞ? 物理的に吐いても止めさせないが」


「よろしくお願いします、真己師匠!」


「ちょ、変な呼び方をするな!」


「えー、そう言わないで下さいよ真己師匠〜」


「い、いい加減にやめ」


「いいじゃないですか真己師匠。かっこいいじゃないですか真己師匠。頑張りましょうよ真己師匠!」


「うるさーーい!!」


 バキャッ!


 投擲された木刀が、俺のおでこに直撃し、そのまま視界が暗転した。少し距離が縮まった……かもしれない。



 






「うっ……頭が……」


 目が覚めると、和室の布団……じゃないな。和室ではあるが、テーブルの横に寝そべっているようだ。更に、上を見ればムスッとした真己の顔が見える。


 後頭部の感触は明らかに枕じゃないし……このもふもふは、尻尾じゃないかと思う。

 もふもふは正義です。可愛いより上です。


「……起きたのか」


「ああ……で、この状況は?」


「いや、その……気絶させてすまない」


「別にそれは良いけどな……もしかして、美弥から謝るように言われたとか?」


「そ、そうだ! 美弥様に言われたから仕方なく、だな……」


 ふむふむ、なるほど。

 しかし、この尻尾もふもふしてるなぁ……


「――言った覚えはないんじゃが」


「みみみ、美弥様!?」


 美弥が背後に立っていたらしく、ビクッと跳ねた。毛もぶわっとなったので、割とくすぐったい。


「仲良くなるのは良いんじゃが……真夜はやらんぞ?」


「こ、こんなやつ要りません!」


「ぐはっ……その言葉はガラスのハートに刺さったぞ……美弥、真己師匠がいじめる……」


「うむ、こんなやつとは酷い言い草じゃな。よしよし、可哀想に……」


「いや、違っ……」


 中毒性のある尻尾から抜け出し、美弥に泣きつく。もちろん、本当に泣いている訳では無いが。


 真己は人間嫌いであっても、根は優しい子のようで、俺に謝ろうと口をもごもごさせている。まあ、人間嫌いの部分が邪魔してツンデレになっているがな。


 それより、真己をいじるのはたのしいと判明したから、良いコミュニケーションになりそうな予感。


 ……二人とも小さいからいじめるって言葉に犯罪的な響きが……でも、実年齢は俺よりも遥かに上なんだよな?

 気になる。一体何歳なのか。しかし、女性に年齢を聞くのはタブーだろう。例え神であっても。


「そういえば……美弥は何処に行ってたんだ?」


「む? 言ってなかったかの? 保護していた人間達を元の場所に返してきたのじゃ。当然じゃが、記憶は消してな」


「なるほど……お疲れ様、ゆっくり休め」


 足をぽんぽん叩くと、その意図を理解する。胡座をかいた俺の足に座って、そっと寄りかかってきた。


「うむ……うむ、悪くないのじゃ」


「……私は何を見せられているんだろう……」


「それは勿論、俺達のラブラブっぷりだが?」


「死ねっ!」


 毛を逆立てて怒ったかと思えば、そのまま出ていってしまった。そんなに怒るようなことかね?


「ふむ……夕食を作りに行ったんじゃな」


「あ、そうなのか……」


 今気づいたが、外は暗くなってきている。美弥に聞いてみると、人間に合わせてこうしたとの事。


 昼は願い事やらお参りがあったりするが、夜はなく、眠る時間として区別しているらしい。

 残念ながら、今は力があまりなく、聞き届ける余裕も無い。


 つまり、常にイチャイチャ出来ると言うわけですね!


「何となく、思ったんだけどさ」


「なんじゃ?」


「美弥って結構最近の言葉を使うよな?」


「うむ、あのような堅苦しい話し方、面倒だと思っていたのじゃ」


「で、『のじゃ』とか一部だけ残ったと」


「も、問題ないのじゃ! こういうのを、『のじゃロリ』と言うのであろ?」


「自分で言うのかよ……」


 俺があえて触れなかった部分に自分から行ったぞ。いや、ロリでも合法だし可愛いからいいけど。


 体は柔らかいし、いい匂いもするし、我が息子が反応して……しないな。する訳が無いな。

 本能的に危険を察知しているのだ。そう、ここで盛ってしまえば、あのロリ九尾に殺される。


 そもそも美弥がそういうのに免疫ないし、手を出すのは控えようと思う。こうしてイチャイチャするのも楽しい。


 なんてボーッと考えていると、ふと美弥が呟いた。


「……一度死んだ人間に恋をするというのも変な話じゃな」


「ごく普通の人生を送ってたのに、突然殺されるわ、神様とこんな関係になるわ、転生させられるわと……改めて考えるとハチャメチャ過ぎんなこれ」


 美弥以上に変な話である。

 トラック転生と言われる程定番の死因ではあったかもしれない。だが、その実情は、どこぞの神が俺を含めた人間を殺しに来てて、どう足掻いても死ぬしか無かった。


 死ぬしかないじゃない!!



 ……なんかすまん。一度言ってみたかっただけだ。


「真夜、本当に妾でよいのか……?」


「……良いに決まってるだろ。急にどうしたんだ?」


「そのな……改めて考えてみると、お主は冗談のつもりだったのではないかと思ってな……」


 バレたか。


「確かに、冗談ではあった」


「っ……そうか、やはり――」


「――けどな、」


 俺から逃げようとする美弥を抱きしめる。


「……真夜?」


「俺は美弥に惚れた。理由はいくつかある。ただ、美弥を知っているとは到底言えないし、俺がチョロいだけなんだろう」


 美弥が体をこちらに向けてくる。


 その頬に手を添え、


「軽い気持ちであんなことをした俺を、怒っていい、殴ってもいい。だから、俺と一緒に居てくれ。好きで好きでしょうがない、もうお前が居ないと駄目なんだ、美弥」


「……怒ってなどおらん。早とちりしたのは妾じゃし……それにの、真夜。お主が妾を好いていなかったとしても、手放すつもりなどなかったのじゃ」


「そう言えば、そういう条件だったしな」


「そうじゃ。お主に何を言われても、妾の心は変わらんのじゃぞ?」


 その小さい手で俺の両頬を押さえると、顔がずいっと近づけられた。至近距離で見つめられると恥ずかしいのだが、目を逸らせない。


「……変わるとしても、お主の事が、」


「俺の事が……?」


「愛しくなるだけじゃ……んむ……」


 二回目のキス。

 今度はちょっと触れるだけですぐに離れた。


 そして、俺の胸に顔を押し当てる。


「真己が来るまで、このままでもよいか……?」


「ああ、もちろんだ」








 ――ガラッ


 引き戸が開く音がしたので、そちらを見る。


「……美弥様は寝ているのか?」


「お前が出た少し後から」


「体は疲れなくとも、精神的な疲労がある。……色々あってお疲れだったのだろう。部屋まで案内するから着いてこい」


 そう言われたので、美弥をお姫様抱っこの要領で持ち上げる。俺はごく普通の男だが、軽く感じる。

 美弥が軽いのもあるだろうし、微妙に身体能力が上がっている気がしないでもない。


 互いに無言の時間が続き、美弥の部屋に着くまで続いた。


「……へー、美弥はゲームするのか」


「……私も、偶にやっている」


「それは意外だな。いや、そうでもないか?」


 見た目的には、違和感ない気がする。

 部屋の中にゲームが結構ある。なら、ゲームネタは通じると。美弥だけでなく真己も。


 そして、部屋に戻るまでの沈黙が続く。


 ふと空を見上げてみると、美しい夜空が見えた。星も月も実際にはないんだろうけど、俺には本物と区別がつかない。


「……真夜、もう着いたぞ?」


「え? あ、悪い、助かった」


 真己に袖を掴まれなかったら、通り過ぎる所だったな。

 ちなみに、俺も和服を着ている。


 ……なぜかと言えば、美弥の趣味だからだ。


 着心地は良いし、俺も気に入った。



 やっぱり、真己と二人きりっていうのは変な気分になる。相手が九尾だからか、あまり現実感がない。


「……さっきからぼーっとしてばかりだな。料理が舌に合わなかったか?」


「いや、そういう訳じゃない。料理は家の母さんが作るやつより美味いぞ」


「……そうか」


「? 俺、何か変な事言ったか?」


 何故か俯いてしまった。

 しばらくすると、目を伏せた状態で話し出す。


「真夜()、家族と会えないんだな……」


 ……も?


 俺が首をかしげたのを見て、ふっと笑う。


「私もだ。……少し、話したい気分になった。酔っ払いの話を聞いてもらえるか?」


「……俺で良ければ」








 遠い昔、とある村で、三人の妖狐が守り神として崇められていた。


 その更に遠い昔、森で暮らしていた二人の妖狐に、一人の少年が「村の不作を何とかして欲しい」と頼み込んできた事が始まりだ。


 その二人は、定期的に供物を捧げる事を条件として、村の守り神をするようになる。


 それから数十年が経ち、やがて産まれた新しい妖狐、それこそが真己。

 ただ、真己を産んだことで、両親の力は年々弱まっていく。


 そんなある日、村の人間が三人の元へやってきた。

 その人間が話したのは、


「不作が続いている。何とかしてくれ」


 という、前と似たようなもの。

 両親の力は殆ど残っておらず、真己にしか出来ない。しかし、真己にそんな事をさせるつもりはなかった両親。


「すまないが、もう無理なんだ」


 そう話すと、村の者達は態度を一変させる。

 真己達を邪悪な妖怪と言い始めたのだ。それは村の外へ伝わり、『討伐』という方向に進んでしまう。


 当然、その村を見限った真己の両親は離れようとする。……だがしかし、既に結界を張って出れないようにされていた。


 そう、最初から、村の人間と友好を築くことが出来ていなかったのだ。信用すらされていなかった。


 何も出来ずに待っていると、陰陽師という輩が来て、勾玉に真己の両親を封印してしまった。

 怒り狂う真己によって撃退する事は出来たが、両親は封印されたまま陰陽師の元に居る。


 怒りに任せて結界を壊し、陰陽師を探すこと半年。ようやく見つけた、両親を取り返せる、と喜んだものの……両親は力を根こそぎ奪われ、封印を解いた時には死んでいた。


「ふざけるな……! 許さない……絶対に許さない!!」


 その時九尾として覚醒した真己は、襲ってくる陰陽師達を殺し、全ての陰陽師を殺した後、かなりの年月が経ってから美弥に拾われる。


 既に死んだ両親だったが、美弥の力で一度だけ会わせてもらうことが出来たのだ。


「助けられなくて、ごめんなさい……」


「真己が生きているだけで十分だ」


「……私は何をしたら……」


「そうね……なら、幸せになりなさい」


「幸せ……? 二人が居ないのに……?」


「今は分からくてもいいのよ。いつか死ぬその時までに、あなただけの幸せを見つけなさい」


 そして、両親に会わせてもらった恩に報いるため、美弥に使える事となった。







 食べ終わってからも続いていた話はようやく終わり、真己が自嘲するように笑う。


「……答えは、今も見つかっていない……」


「同じって言ってたが、俺は自分が死んだだけで、両親は生きてるけどな……」


「あまり無理はするな」


 こいつ、かなり飲んでるはずなのに、酔っているようには見えないぞ。というか、無理?


「無理なんて、別に……」


「いいや、別れを告げることすら出来ない辛さは、身をもって知っている。それに今、自分がどんな顔をしているか気づいていないだろう?」


「……どんな顔なんだ?」


「今にも泣きそうで、悲しそうな顔だ」


 そう言って立ち上がったかと思えば、俺を押し倒して、頭を抱き抱える。尻尾も俺を包み込んで、もっふもふ状態だ。

 そうは見えないが、絶対酔ってる。


「ちょ、いきなり何を……」


「そんな顔をしていたら、美弥様に心配させてしまう。……それに、真夜のことは嫌いじゃない……私の気が向いた時は、少しくらい甘えさせてやる……」


 神に仕えているからか、紅白の巫女服を着ているが、しかし、上がはだけていて危ない感じになっている。


 まあでも、あれだ。

 ……少しばかり、甘えさせてもらうとしよう。





 真己は、俺が泣き疲れて眠るまで、いつまでも頭を撫で続けていたのだった。

ごめんなさい、終わりませんでしたっ!

というわけで、もう一話か二話続きます。

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