プロローグ 異世界転生は決定事項ですか? 前編
えっと……そう、ゾンビ物のゲームをしていた訳なんですが、なんか物足りなぁって思ったんです。で、その時思い付いたのが、普通のゾンビ物に美少女を出したらどうなるのか、という。
ほのぼのではありません。がっつりゾンビ屠ります。では、お楽しみ下さい。
やあ、俺の名前は 穴倉 真夜。
日本生まれの日本育ちで、凄い生まれとか、ラノベ主人公みたいなハーレム野郎でもない。
特徴……強いて言うなら、人より負けず嫌いな所だろうかね。
幼馴染みと格ゲーなんてした日には、全コマンドを覚えた上でフルボッコにしてやるぜ。
幼馴染み? もちろん男ですが何か?
……そうそう、突然俺が自己紹介を始めた理由ね。
それは、
「なんでっ! トラックがっ!! 追いかけてくるんだよぉぉぉ!? 俺を狙ってんじゃねぇか畜生がぁーーーーー!!!!」
絶賛、トラックと追いかけっこ中デス☆
いやホント、死んじゃうって。
何故か周りには人居ないし。
ここ商店街だよ? 人居ても良いんじゃね?
ドガガガガガガ!!
「色々吹き飛ばしてくんじゃねぇよ!! 痛っ!?」
今が旬のスイカさんが頭にクリティカルヒット。やっべ……汁が目に入って前が見えんぞ。
くっそ、とりあえず走るしかねぇ!!
「あ、そうだっ!! 店の中に――ってはぁ!? なんで急に閉まるんだよ泣くぞこの野郎!!」
まるで、誰かが俺を殺そうとしているかのよう。
いや、そうとしか思えない!
火事場の馬鹿力というやつだろうか? さっきからトラックに追いつかれ……なかったんだよ。
曲がったり蛇行したりで減速させて来たけど、俺の足が限界だ。
ガッ!
「おい待て、そんな所に引っかかるようなものは無かっただろうが――へぶっ!?」
絶対鼻の骨折れた……いや、そんな事はどうでもいい。それよりも、トラックは?
「……あ、死んだこれ」
その直後、タイヤに潰される激痛と、死の孤独感を味わいながら――あっさりと死んだ。
「――起きるのじゃ、ほれ……なんじゃったか……まあよかろう」
「いや、良くねぇよ!? 俺にはちゃんとした名前が――いやまて、誰だお前。というか、俺は死んだはずじゃ……?」
目が覚めると同時に飛び起きてみれば、見知らぬ和室で、布団に入っていた。……しかも、目の前には黒髪ロングの和服美少女。
普通なら照れたりする所だろうが、混乱でそれどころではない。
俺が慌てていると、何やら柔らかいものが頭に乗せられる。それは、目の前に居る和服少女の手だった。
「ふむ……説明してやるから落ち着くのじゃ」
「お、おう……取り乱して悪い」
圧倒的な女性経験の不足により、目を逸らして謝ることしか出来ない。自分より小さい少女に頭を撫でられているという情けない状況。
「まず、お主が死んだことに関しては間違いない」
「……やっぱりそうだよな。それじゃあんたは?」
「神、というやつじゃな」
「ああ、なるほどなぁ……」
神か……まあ、死後に会うのが神っていうのは定番だ。和室で寝てたのはアレだけど。
「……なんじゃ、驚かんのか?」
「まあ、ここまでの美少女が地球に居るとは思えないしな」
「び、美少女……そ、それなら納得じゃな、うむ……」
「いや、こっちが恥ずかしくなって来るから照れるなよ。神様だってんなら、言われ慣れてるんじゃないのか?」
「……ここ数百年、言葉を交わす相手がいなかったのじゃ」
軽い気持ちで褒めたのに、初心な反応をされて困ってしまった。だが、数百年一人だったならしょうがないかもしれない。
「そ、それとじゃな……お主には詫びねばならん」
「詫び?」
「うむ。死ぬ前、おかしな事があったじゃろ?」
「あー……トラックが追いかけてきたり、人が居なかったり、色々殺しに来てたな」
「それについて説明させてもらうのじゃ」
申し訳なさそうな顔で、あの珍事件の真相が語られる。
この少女――美弥によって。
「全てを引き起こしたのは、異界の神。それも、地球を模した世界の主じゃ」
異世界ってあるのか、と思いつつ美弥の話を黙って聞く。
「地球の文明に魔法というものを付け足したのじゃが……それが悪手でな。当初は便利なだけのものだったそれは、その内戦争に使われ始めた」
「そうなるよな」
「うむ、自然な流れじゃな。所でお主、核融合というものは知っておるか?」
「ん? まあ、一応は……」
「魔法はそれを遥かに上回る力になるのじゃ。しかしな、それを扱いきれず暴走させてしまった」
「それ、文明が滅ぶ未来しか見えないぞ」
核戦争で滅んだ世界……ゲームであったような? けど思い出せない。地味に気になる。
「無論、ほぼ全てが滅んだとも。しかし、その神は諦めなかったのじゃ」
その結果が、他の世界から連れてくる事。俺の居た地球が狙われた瞬間である。一度殺して、魂だけ持って行き、体だけ再構成するつもりらしい。
この世界に居た力のある神々はそいつに封印され、残ったのは美弥を含む……あまり知られていない神々だけ。
ただ、雑魚扱いされていた美弥にはそこそこ力があり、全力でそいつの邪魔をしてやったそうな。
「お主を含めた数百人は、守れなかったのじゃ。……すまぬ」
「いやいや、その数百人しか被害はなかったんだろ? 元々は何人くらいの予定だったんだ?」
「少なくとも、十万は……じゃが、なんの罪もない者達が……」
「仕方ないだろ、神が万能じゃないのは今の話からもよく分かるし。あんたが俺達のために頑張ってくれたって事実だけで十分だよ。ありがとうな」
あんまり申し訳なさそうにするものだから、頭を撫でてそう言ってやる。とはいえ、慰めるためだけではない。紛れもない本心だ。
「……たわけ。お主も他人事ではないのじゃぞ?」
「だから、仕方ないだろ。あんたが悪い訳じゃない。もし恨んだりするなら、そのクソ神にだ」
そうなんだよな、俺もその異世界に……
「……あれ? じゃあさ、なんで俺だけここに居るんだ?」
「妾がここに呼び出したのじゃ。最後の一人であるお主を助けようとしてな。……結果は、飛ばされるまでの時間を引き伸ばしたに過ぎぬ」
「へー? ちなみに、どのくらい?」
「二十日じゃ」
ふむふむ……何か出来る訳じゃないんだろうが、美少女と二十日間過ごせるならありか?
むしろ、グッジョブとしか言えない。
「……な!? ……そ、あ……うぅ……」
「おいおい、どうした急に……」
目を見開いたと思ったら、白い肌が瞬く間に赤くなって、目を回している。何を慌てているのか知らんけど、めっさ可愛いし、是非ともこういう子が嫁になって欲しい。
……また赤くなったか?
その時、俺の脳裏には一つの定番が思い浮かんだ。
数多くの神達が愛用し、いくらポーカーフェイスが上手くても、決して自分を隠すことが出来なくなる。
作品によっては、それによって口下手な主人公が自分の意志を伝えられていたような気もする。
それは、思考の読み取り。
『可愛い』
「はぅ……」
ストレートに褒めると、胸を抑える。
『全世界で一番可愛い』
「………」
口元が緩むのを必死で我慢している様子。まあ、ニヨニヨしてるから丸わかりなんだけどな!
というかこれ、伝えるものと伝えないものを自分で決められるみたいだ。念話的なあれかもしれない。
『好きだ』
「はわっ!?」
「なあ、さっきからどうしたんだ?」
「な、なんでもないっ!」
楽しいぞこれ。
そうだな、もう少しからかってみよう。
『愛してる。一目惚れだ』
「……愛……」
しばらく顔を見ていると、微妙に目がとろんとしてきたような。どうせ気の所為だろう。
『俺と結婚してくれ』
「……分かったのじゃ」
「……へ?」
おっと? チョロ過ぎません? いや、落ち着け、俺。こんな時こそステイクールだぞ、俺。
「た、ただ、条件があってな。お主が死んだ後も、妾の元に来るようにするのじゃ。生まれ変わったりも出来ぬぞ」
「そ、それは別に構わないが……」
上目遣いでこっち見んな! こいつちょっと泣きそうだし、嘘だなんて言えないじゃん!
「……その、死んでも妾と一緒に居てもらうが、本当にいいんじゃな……? もし捨てたりしたら、泣くからな……?」
「…………」
くっっっっそ可愛い!
妾って偉そうな感じなのに、実際は寂しがり屋とか、反則過ぎるだろ! これに惚れる俺もチョロいな!
「……今から、キスをする。やはり無理だと言うのなら、避けるのじゃ」
俺が返事をしないからそう言ったんだろう。そして、恐る恐る俺の肩に手を置くと、不安げに整った顔を近づけてくる。
あれだ、こんな顔させちゃ駄目だよな。
「……………無理な訳ないだろ」
「ふぇ?」
腕を掴んで引き寄せると、ベタな『歯をぶつけて痛くなる』ということがないように唇を優しく押し当てる。
「んっ!?」
一瞬驚いたあと、美弥が俺の首を手を回し、体を密着させてきた。柔らかい体に女性特有の甘い匂い、それと和服に使われている生地の匂いだろうか?
ただ触れ合うだけのキス。でも、それは思ったより気持ちいい。息継ぎも忘れ、二分近くずっとキスを続けていた。
「し、真夜、名前を呼んで欲しいのじゃ……」
「……美弥」
真昼間から布団の中……まあ、外が明るくても、ここは神界らしいので関係ないのだが。
で、布団の中で何をしているのかと言うと、別にエロい事ではなくて、イチャイチャしているだけ。
お互いの顔や体に触れたり、今みたいに名前を呼びあったりしている。超可愛いです。
だってさ、別に好きな相手も居ないし、美弥は超絶美少女だし、俺達人間のために全力で頑張るようないい子だし、断る理由が見つからないな。
……ロリババア? 経験を積んだと言え。
そうそう、俺が転生するなら美弥は連れて行けないじゃん、なんて思うだろ? そこはほら、神の力で無理やりですよ。
向こうが先にやってきたんだし、こっちから行ってもいいよね? という訳です。
ただし、十万人を救い、その世界に渡ると……神の力はしばらく使えないらしい。あと、俺に加護を授けたらしいんだが……それが強力だったせいもあるのだとか。
そして、今から加護の中身を決める。
「ふむ……ステータス、というのはどうじゃ?」
「ステータスって……ゲームとかに出てくる?」
「それで合っておるぞ。しかし、それでは加護が少々無駄になってしまう……そうじゃ、おまけをいくつか付ければ……」
そもそも加護ってなんなのか聞いてみたのだが、どうやら、相当凄いものらしい。
本来なら、ちょっと運が良くなるとか、健康になるとか、その程度のものなのだ。しかし、美弥は俺一人のために神格をも分け与えたらしい。
……お詫びにしては過剰だが。
その内回復するそうなので、気にする必要は無いとのこと。そして、そんな神格を分け与えられた俺は、もれなく寿命が無くなり、頑張ればそこそこの神にもなれるらしい。
「まあ、その世界で生き延びることが最優先だけどな」
具体的にどうなっているのかは知らないそうだ。外の世界にはあまり興味がなく、今は覗き見る力すら無い様子。
いや、見れないことも無いけど、見たら俺と一緒には来れない、という話だったか。
「当面は……食料に困るじゃろうな」
「魔法の影響だからなぁ……人を連れていこうとするなら、完全に駄目な訳じゃないんだろうけど」
「……今気にしてもしょうがない事じゃ」
そう言われてみれば、そうだな。どうせ二十日間はここに居るんだし、美弥とイチャイチャすることだけ考えればいいか。
……よくはないな。
そう考えていると、足音が聞こえてくる。美弥を見ると、思いっきり忘れてたって顔をしている。
「……しまったのじゃ」
「美弥様ー! 人間の食事を準備してきましたー。様子はどう……って、え?」
障子を開けて入ってきた……九尾? 狐耳に、狐尻尾が九本ある。少々幼くはあるが、美弥に勝るとも劣らない美少女……いや、美弥の方が可愛い! (個人的感想)
というか、小さいな。美弥が135程度なのに対して、九尾少女は130無い。ロリっ娘だ。
その九尾ロリは、俯いてぷるぷるしている。
「貴様……」
「……あ?」
「死ねッ!!」
「ッッ!? ――あっぶねぇ……包丁は投げるものじゃないぞ。つーか、マジで死ぬから!」
本気で殺すつもりだった。包丁を俺の顔面目がけて投擲してきやがったからな。隣の美弥は、ちょっと怒ってる。
「真己! なんのつもりじゃ!」
「え、いや、だって……この人間が美弥様の神格を持っているので、その、」
「妾が、自分で授けた」
「え、えっと……それは、どうしてでしょうか?」
「元々は詫びのつもりだったのじゃが……」
そこで一旦切り、俺の方を向く。
一応言ってもいいのか確認をとったのだろう。それに頷くと、微笑んでから九尾ロリ――真己に向き直る。
「妾の夫になった真夜のために、じゃ」
「お、夫? えっと、それ人間ですよね……?」
「人間なのは間違いないが、それ扱いは酷いと思わないか?」
「それに、別の世界で転生するという話では……?」
「無視かよ……」
相当な人間嫌いではなかろうか。
過去に何かあったのかもしれないな。まあ、どうせ二十日後にはお別れだろうけど。
「そこに妾も着いていく」
「じゃあ私も行きます!」
「無理じゃな」
「ど、どうしてですか!?」
「今のお主は、着いてくるだけで力のほとんどを失うはずじゃ。そんな危険なことをさせるわけにはいかぬ。……来るとしても、もう少し力を蓄えてからじゃ」
「そんな……くっ……」
悔しそうに俺を睨んでくる真己。力を蓄えたら来るんだろうなぁ……それと、美弥って物凄い慕われてるのな。
俺の告白(?)が本当は冗談だったとバレたら、殺されること請け合いである。
墓まで持っていかないと……絶対にだ。
「はぁ……相変わらずじゃな」
こうして、微妙な空気の中、昼……かどうかは分からないが、食事をすることになった。
残念、次回もゾンビは出てきません!
あ、そうそう、美弥の人と話していない発言は、男と話してないって意味です。だって、人(九尾)なら真己が居ますから。