暗闇に包まれた世界
「運び屋って表現はどうかと思うけど…」
タトスがたしなめる様に言う。
「ファデル君、君が選ばれたのは総合的な判断だ、なにせ視目と相性の良い人間が君しかいなかったんだよ」
それでも自分以外にもいただろうとファデルは思う。
「わかりました、引き受けましょう」
「そうかい、だったら3日後に出発だ」
ファデルはまだ全てにおいて納得したわけではないが承諾した。
そして3日後ファデルはタトスと共に自らの宇宙船が管理されている基地にいた。
「ファデル君、視目君に会う前に一つ忠告しておく」
「忠告ですか?」
「うん、もし彼に何を聞かされても同情しちゃいけないよ、彼は選ぶべくして彼自身の生き方を決めているんだからね」
「はあ…」
ファデルはタトスの言葉をよく理解出来なかった。そうしていると2つの影がファデル達のいる方に向かってくるのが見えた。ファデルは2つの内1人はすぐに誰かわかったが、
「あれ?視目さんの隣にいる人は誰ですか?」
「あれは…、肺君だね、『特能』の副局長をやっている」
タトスが答える、肺とよばれた者もまた奇妙な仮面をしていた。
「ファデルさんですね、今日は局長は所用があったため私が視目さんの見送りをしに来ました。」
肺の声は極めて透き通ったモノであった。視目と軽い挨拶を交わした後、ファデルと視目は宇宙船に乗る。宇宙船が基地から発射し、暗闇に包まれた『ラダクト』に向かった。
宇宙船内ではファデルと視目が静かに座席に座っていた。
「それにしても、君みたいな若い人間が宇宙船を持ってるなんて意外だったよ、いつ買ったんだい?」
「ここに勤めることが決まった時に買ったというか、買わされたというか…」
「買わされたか、まあタトスさんだったらやりかねないな」
宇宙船内で交わされた会話はそれだけで後は二人とも喋ることはほとんどなかった。
『もうすぐ入力座標につきます』
宇宙船内のコンピューターが静かに告げる。少ししてファデル達の前に真っ黒な球体が現れた。
「あれがどうやらラダクトのようだね」
「あれは雲には見えませんね」
「ふむ、突っ切れるかい?」
「なんらかのバリアが貼られてない限り大丈夫だと思いますけど…、ただ視界が少し不安ですね」
「わかった、操縦を変わってくれ」
ファデルは視目に言われた通り操縦を任せる。そうして異常も起きず無事ラダクトに着陸した。
「着陸地点、ここでよかったんですかね?」
「彼らが指定したんだから大丈夫だよ」
二人は宇宙船を降りた。