影は誘う
「例の黒い液体の解析が完了したようです」
ホテルの部屋でファデルは小型通信機を見ながら言った、基地での出来事から1日たっているのでそろそろ来ると思っていた視目は先を促す。
「どうやらというかやはりあれはこの世界のモノではありませんね、全く新しい物質だそうです」
「つまり人由来だと?」
「そうなりますね、紫外線のみを完全に遮断し赤外線を通す」
「そしてこの世界の状態を作り出している要因になったと」
「しかしボトルに入った状態ではあの状態にはなりません」
「おそらくあいつにとってはそれがあるだけで十分なんだろう」
「探知機に設定したらこの世界にばらまかれています、これを全て回収したら解決すると思いますか?」
「難しい質問だね、そうするとあの機械はいわば調節機能を果たしていたんだろう、うーん」
視目はしばらく考え、
「分からないな」
結論を出した。
「ファデル君はどう思う?」
「僕はあのボトルを回収するか【黒服】を捕まえるかのどちらかだと思うんですよ」
「それが1番かぁ」
「だったら賭けをしようじゃないか」
ファデル達はいつの間にか椅子に座っていた、辺りを見るとレストランにいるらしい、
「おや、そちらからおいでになるとはね」
視目は体が動かないのを確認して言った。
「【黒服】、さっき賭けと言ったな?」
「ふむ、まあまずは食事をしようじゃないか」
テーブルの上には先ほどまでなかった料理が置かれている。
「内側か…」
「今この世界はかなり不安定になっている、外と内の境界がかなり曖昧になっている、お前達が色々嗅ぎ回っているから少しはましだが焼け石に水だ、もうすぐこの世界はひっくり返る」
「それがお前の目的か、自分の世界とは内の事を言ってたんだな」
「ああ、…どうした?食わないのか?」
【黒服】が指をならすとテーブルの上にあった料理が消えた。
「賭けというのは簡単さ、あの物質が入ったボトル10本分ある特定の地域にばらまく、時間制限無し、お前達が全部回収すればお前達の完全勝利だ。当然邪魔はさせてもらう」
「なるほど」
「どうだ?悪くない話だ、別にお前達が何本回収しようがお前達は得をする」
「足りんな」
「なに?」
ファデルの言葉に二人は驚く。
「足りないと言っているんだ【黒服】、こちらは命を賭けてボトルを回収するんだ、こちらの命とたかだかボトル10本じゃ釣り合わない」
「別にやらなくていいんだぞ、命を失う覚悟がなければやらなければ済む話だ、それに10本全部回収しなくてもある程度回収して撤退すればお前達が生きる確率が上がるんだ」
「それで回収できる数が10本だと?そんなの割に合わない、いいか【黒服】、僕達がこの世界にあるボトル10本を回収するなんて簡単な事だ、それをただ特定の地域に集中させたからといって変わらないんだ」
「なるほど」
【黒服】は静かに笑っていた、こんな事になるのを想定していたのかもしれない。
「ならば私も命を賭ける事にしよう、調査団だったか」
突然出てきたその言葉はこの場の流れを【黒服】に掴ませるのに十分だった。
「あれは生きている、全員だ。その調査団の1人をその地域のどこかに置く、もちろん発信器を持たせてな、これなら十分だろ?」
「よし決まりだ」
答えたのは視目だった。