軍事基地(2)
ファデルが基地の地下で兵器を発見していた頃、視目はいまだにブラックスライムと対峙していた。
「まいったな、そろそろ弾切れしそうなんだけど…、ん?」
飛び散ったスライムの破片が首なし猿の元に集まっていく。
「おいおい、まさか」
スライムが猿の体にまとわりついているその光景はまさしく捕食である。そして猿を消化したスライムはやがて猿の形を形成した、大きな違いはファデルが相手した猿よりはるかに大きいことだ。
「はあ、逃げるか」
視目は猿型スライムに向かってボールを投げつけると同時に走り出した、ボールが猿型スライムに当たると爆発したが対してダメージを受けたようではなく猿型スライムは視目の後を追う。
「あれは、倉庫か」
倉庫の小さい扉をこじ開けて中に入る。
「さあ、今のうちに仕掛けないとな」
少しして猿型スライムが壁を壊して倉庫の中に侵入してきた。
「残念」
猿型スライムは視目に飛びかかろうとしたがその体は空中で停止した。
「それよっ」
視目が手を動かすと猿は視目とは別の方に飛び近くにあったヘリに叩きつけられた。
「じゃあね」
一本の糸に火がつけられ瞬く間に猿型スライムの元に行く、そしてあらかじめ視目が漏らしておいた燃料に火が到達し、次の瞬間爆発した。
ファデルは一度建物の外に出ることにした。
「あれ?発煙筒がなくなってる」
ファデルは建物に入る前クレーターの中心に発煙筒を置いてきた、しかしその発煙筒はなかった。
「発煙筒とはこれのことか?」
ファデルは上をみた、空中から【黒服】がゆっくりと現れる。
「【黒服】、お前がこの基地で行動を起こした理由はこれだな」
そう言って黒い液体が入ったボトルを取り出した。
「お前は馬鹿か?それがこの世界の現状を作り出したものなら私に見せるのは失敗だ」
クレーターから猿の死体が何体か浮かび上がる。
「お前、ネクロマンサーもできるのか」
「どうだかな」
猿の死体が1つに集まり巨大な塊になる。
「シャドウワイバーンの時とおなじ…」
「そう、悪いがそれは返してもらうぞ」
塊が巨大な猿の形になりファデルに殴りかかった。
「うお」
なんとかかわすが猿の殴った地面はえぐれていた。
「さて」
【黒服】が消えたがファデルは目の前の大型猿に集中することにした。
「剣は、そうか折れたんだったな」
ファデルは地下に入る前に作った棍を取り出した。
「さあ、かかってきな」
その挑発が大型猿に通じたか否か再び大型猿は殴りかかる、その拳を棍で凪ぎ払う、次の拳は下から打ち上げる。
「ん?少し強かったか」
蹴りをいなしつつファデルは大型猿の次の手を待つ、大型猿は殴りかかる、ファデルはその拳を再び下から打ち上げるように棍を振るった、棍と拳が接触したまま停止した。
「そーれ!!」
ファデルはその体制のまま踵を返し、棍を上に振る、大型猿の体が持ち上がり背負い投げされたような形で地面に叩きつけられた。
「豪炎魔【メテオファイアボール】」
上空から巨大な炎の塊が大型猿にぶつけられ爆発した。
「終わった、よな」
視目はライトを取り出して倉庫の中を見る、軍事基地の倉庫だけあってヘリの爆発には耐えたようである。
「いないようだな」
倉庫の中はブラックスライムの破片が残っているだけだ。
「ふう、この破片を回収していくか」
スライムの破片はあるだけではそこまで問題がないが破片が集まって核を作られると厄介だ。
「ん?」
視目が破片を回収しようとすると破片がひとりでに集まっていく。
「まさか、再生はまだできないはずなのに」
破片が集合してできた塊は【黒服】の持っていたカプセルに収まった。
「なにかと思ったらお前か」
「このスライムはもらっていくぞ」
「何に使う気だ」
「それを答えるとでも?」
そう言って【黒服】は消えた、視目は倉庫から出た。
「おや」
少し遠くの空に巨大な炎の塊が見えた。
「ファデル君か、そこまで遠くまで飛ばされなかったようだな」
視目は炎の塊が見えた方向に向かって歩き始めた。
「ふう」
ファデルは大きく息をついた、大型猿の死体は焼き付くされていた。
「ほう、少しはやるようだな」
声がした方を見ると先ほどまでいなかった【黒服】が立っていた、その横には地下の最奥にいるはずの最終兵器と思われるロボットがいた。
「まさか地下から持ってきたのか?」
「地下に行けるのは何もお前だけじゃない、後それはもう良いぞこっちを回収できれば十分だからな」
それとは恐らくファデルが地下で回収した黒い液体の入ったボトルを指すのだろう。
「足運び【縮地】」
ファデルは一瞬でロボットの前に移動し棍で攻撃しようとしたが【黒服】が鎌を取り出しこれを防いだ。
「お前の目的は一体なんなんだ?」
一歩下がりながら尋ねる、
「そうだな、ここはまだ完全に染まっている訳ではない」
「染まっている、…何の話だ?」
「ここを完全に私の世界とする。そこに神は、ましてやその使い走りなど必要ない、私だけの完璧な世界」
「完璧?これが完璧だと?」
「お前には分からないさ、しかし今にわかるだろう、この世界がどれほど素晴らしいか」
「できるなら分かりたくないね」
「そろそろか」
【黒服】はそう言って消えた。
「ファデル君」
振り向くと視目がいた。
「視目さん」
「無事なようだね」
「はい、あのこれ」
ファデルは例のボトルを取り出した。
「これは?」
「地下で見つけたんですよ、どうもこの世界のじゃないみたいで」
「ふむ、色々とあったようだね、とりあえずヘリの中で話そうかい?」
「あ、ううん、ヘリはちょっとまずいかな、宇宙船呼びますからそっちで話したいです」
「そうか、分かったよ」