闇の劇場
???
「しまったなあ」
道を歩きながら一人の青年が言った、
「渦奈さんに弁当作ってもらうべきだったなあ」
青年はある場所に向かって歩いていたがどうやら彼は食事をするのを忘れたらしい。
「まあいいかな、たまにはあそこで何か買って食べるのも悪くないだろ」
そうして歩くこと約5分、彼はそこにたどり着いた。
そこは普段なら何もない草むらが広がっていたのだろうがしかしそこには黒いテントがいくつもたてられていた。テントの周りには多くの人が集まっている。青年はそのうちの少し大きめのテントまで歩いた。そこにも人が並んでいたが彼は無視してそこにいる何かにカードのようなものを見せてテントの中に入った。テントの中はたくさんのテーブルと椅子があり、満席だった。彼は気にせずカウンターに向かって自身の注文した。注文した料理はパックに入れられ、
それを受け取り、そのままテントを出た。そして一番大きなテントに向かい、また何かにカードを見せて入った。
「おい、なんであいつは入れるんだよ?」
野太い声が聞こえる。
「ヒヒッ、彼はVIP ですからねぇ」
受付をしていた背の曲がった男が答えた。
「さて、そろそろお時間ですので今日の入場はこれで締め切らせていただきますよ」
瞬間並んでいた者達がざわついたが男は構わずにテントの中に入って行った。テントの中は劇場のような構造をしている。男はVIP 席に向かった。VIP 席には先ほどの青年が料理を食べながらステージの方を見ていた。
「これはこれは●●様、お久しぶりでございます。なにも食堂で買わなくてもこちらで注文してくださればよいのに」
青年は答える。
「まあたまにはこういうのもいいかなって思ってね。それよりも今日はどんなラインナップなのかな?」
「今日は彼の話から始まりますよぉ」
男は不気味な笑みを浮かべながら言う。そして次の瞬間テント内の照明が消えステージにスポットライトが当たった。ステージには真っ黒い影がぽつんとたたずんでいる。
「皆様、今宵はよくぞ我等が黒影劇団にお越しいただきまことにありがとうございます、今宵も心より楽しんでもらえると光栄です。ではさっそくですが一人の男の話をいたしましょう」
影はゆっくりとステージ上を歩き始めた
「彼は我が劇団の仲間でした。共に世界を旅し、そして彼は自分のやりたいことを見つけ劇団を抜けました。しかし、彼は最近死にました。今宵は彼を弔うためまず彼が死ぬこととなった事件のお話をしましょう」
影が笑ったように見えた。
「ドルグ・ファビルをご存じですか?彼の詩に『光を求めて』というタイトルのものがあります、事件の話をした後に内容を言うので覚えていただけると光栄です」
少し間をおいて影は再び喋り始める
「人には、999個の思い出があります。ではそれがもたらすものはなんなのでしょうか?」
影の手にはいつの間にか銃が握られていた。
何人かの観客がそれに気づいたがもう遅い。
「復讐か」
仮面を着けた者は何かを取り戻すため
「正義か」
銃を持つ者は全てを守るため
「あるいは、野望か」
その姿を決めるのは博打なのだ
「皆様、目を閉じてください」
その声はこの空間においては絶対だ
「次に目を開ければ、そこはもうあなたではない別の誰かの世界でしょう」
影が引き金を引く
「さあ、始めましょう」