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野良ポーター、下降開始!


1


 広場でドペルと落ち合い、ギルドへ向かう。今日はドペルとの初探索だ。

 ドペルは、今から迷宮に潜るにしては、やや軽装で、短槍を持っていた。 短槍は、よく使い込まれており、ドペルの手に馴染んでいる。

 ……これは、相当の使い手なのかもしれない。


 広場から少し歩き、ギルドに移動する。

 わたしは羽織のかぶりを目深に引き下ろした。ここで、知り合いと顔を会わせるのは気まずい。

 ドペルはなんの気負いもなく、ギルドに入ると、迷宮入場許可証を取得しに列に並びに行ってくれた。自分の分の入場費を預ける。

 わたしはすることもなく、魔導掲示板をぼんやりと眺めた。

 新しい迷宮が区画十二に発生しただとか、なんとか、という魔物の相場が高騰しているだとかいった情報が映し出される。


 二日ぶりなのに、随分と久しぶりのような気がする。

 迷宮に誘われたのが二日前。

 了承したわたしに、ドペルは、早速浅いところに潜って互いに様子を見よう、と提案した。

 わたしは二つ返事で頷いた。これからドペルと本格的に組むにしろ止めるにしろ、戦闘方法や、腕前を目で見て確認しておきたかったからだ。


 報酬や、日取りについて、お互い納得の条件が詰められたので、一日の準備期間をおいて、今日、早速潜ることになった。迷宮に潜る期間は二日。

 迷宮の()()()の部分だけを探索し、夜営も行う軽めの遠征だ。


*


「ほら、ポンコツ娘。区画十八の難度・キリの迷宮だ。近場の目ぼしいところは全部取られてた。今回のは、最近発見されたばかりの迷宮らしい」


「……っ! 早かったわね」


 はっと顔をあげると、ドペルが、ぽんっとわたしの分の許可証を放って寄越した。

 野良冒険者が何故、と受付にごねらることはなかったようだ。

 さっと内容に目を走らせる。


《区画十八 種類・森迷宮/規模・小/調査難度・キリ/実践難度・不明》


 迷宮の種類や規模、調査難度は、迷宮発生時にギルドが先見隊を出して調べる。

 普段は難度・クル~ややレケ、の迷宮に潜っていた。これならば、大丈夫だろう。

 だが、ひとつ気になることがある。


「実践難度、不明……?」


「そうだ、俺らが初挑戦ってことになるな」


 ドペルが目を細めて言った。


「最初の迷宮評価者になれるって訳だ」


 実践難度は、冒険者が実際に潜って体感した難度を示している。過去に人が潜ったことのある迷宮であれば、評価者の名前とともにその人の体感難度が記されている。

 評価者の多い迷宮ほど、情報も多く、安定した難度の見立てもできる。

 何も、始めてのメンバーで評価者のいない迷宮に潜ることもない。


「他のところはなかったの?」


「怖じ気づいてるのか? といいたいところだが、残っている難度・キリの迷宮が他に無かった。これで我慢しろ。余裕を見て、四日分は取っておいた」


「ふうん、わかったわ」


 わたしは、頷くと出発の準備をした。無いものはしょうがない。

 小振りの鎖を許可証の穴に通し、腰帯に引っかける。軽く跳んで背籠を背負いなおす。

 いざ、出発だ。



2


 辻馬車を使い、街の西口、通称・迷宮門から街を出ると、壁の外に広がる下町を抜けて迷宮区へと向かった。


 辻馬車をおりると、そこはもう、迷宮区だ。

 一般人が立ち入ることのないよう、ぐるりと壁で覆われている。この壁は、迷宮から魔物が出てきたときの、防波堤にもなる。


 わたしたちは、入り口で迷宮管理人と、入場許可証の照合をすませると、迷宮区に足を踏み入れた。


 異様な風景が眼前に広がる。

 赤茶けた大地に、大小無数の穴ぼこが口を開いている。穴ぼこには深い闇が満ちており、外から中を見通すことはできない。

 いつ見ても、薄気味悪いところだ。


「さて、区画十八か。遠いな……」


 ドペルが迷いのない足取りで進み出す。

 足の長い彼に置いていかれないよう、小走りでついていった。

 走る度にさらさらとした砂が舞い上がる。


 ほどなくして、目当ての穴ぼこに辿り着いた。

 ドペルが帰還予定日を書いた三角旗を地面に突き刺した。

 あまりにも帰還が遅い場合、ギルドが助けに来てくれるのだ。


「……着いたわね」

「ここだな」


 二人同時に呟くと、顔を見合わせた。比較的小さな穴ぼこだ。穴ぼこの一番幅が広いところで、ドペルがふたり分といったところか。

 この下に、緑豊かな森迷宮が広がっているとは、俄に信じがたい。


 わたしは、振り子式時司器(クロッカ)を取り出した。 時司器(クロッカ)を組み立て、水平にした手のひらに置くと、円形の時刻板の上でゆらゆらと振り子が揺れ、時刻を指し示す。

 おまえ、いいもん持ってるな、というドペルを無視し、時刻を読み上げる。迷宮に潜る前の習慣だ。

 ちらりとドペルに目をやると、彼も準備が終わったようだった。


「これから二日間よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく」


 向き合って互いに礼をする。


「行こうか」


 ややあって、ドペルが声をかけてきた。

 挑戦的に、金の瞳が瞬く。



 わたしは、穴ぼこの縁に立つと、地面の固いところを探し、杭を二人分打ち付けた。さっと下降用の縄を通し、引っ張って強度を確かめる。

 ……十分だ。

 ここからが、ポーターの仕事である。ポーターは、獲物の持ち帰りだけではなく、迷宮でのありとあらゆる雑務を行う能力が求められる。


 ドペルは降りれるのだろうか……? ふと疑問が過ぎる。迷宮初心者には真っ暗な穴ぼこへの下降を怖がる者も多くいるのだ。

 不安に思いながらも、縄をドペルに渡す。

 ドペルは迷いのない手つきで腰の掛け金に縄をかけていった。大丈夫そうだ。

 ドペルが違わず縄をかけ、荷物を持ったことを入念に確認し、 ひとまずほっとしたわたしは、自分にも縄をかけた。


 二人して、縄をぴんと張り穴ぼこの縁に足をかける。

 いよいよ、野良ポーターの初仕事だ。

 不思議と気持ちは落ちついている。 


下降開始アル・ダー!」


 ドペルの合図とともに、穴ぼこの壁を蹴った。


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