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いい女が酔う、嫌な予感しかしない

 例の今週末がやって来た。

今夜、重吾はイツキ先輩に会う。夕方五時に駅まで迎えに行きそのまま駅近くの居酒屋に向かうという。「なるべく早く帰る」と言うけれど、きっと午前様。

 

 結衣の運転で駅まで送るのは断固拒否。自分で運転しろと。だって、重吾にはお酒を呑んで欲しくないから。


「駅前の駐車場に停めてご飯食べに行けばいいじゃない」


「あそこ有料だろ。お金もったいないよ」


「ちょっとくらいのお金ならいいよ。」


お酒は呑まないで、ちゃんと運転して帰って来てね。代行運転は料金が高いから許さない。


「行ってらっしゃい。」


重吾を送り出す。笑顔は作れなかった。結衣の気持ちなどわかっていない重吾はいつもより浮かれているように見えた。


 重吾の飲酒は阻止できたけれど、イツキ先輩は止められない。イツキ先輩は大学時代、お酒をよく飲んでいた。基本的にお酒が好きな人なのだ。

 かといって、汚い潰れ方をする人ではなかった。なんというか、可愛らしい酔い方をする人だった。色白のイツキ先輩は酔うと綺麗に赤く染まる。そして子供っぽく笑って傍にいる人にもたれかかる。傍にいる人は女性の時もあれば、男性の時もある。一度だけ、結衣はたまたま「傍にいる人」になったことがある。気づけばイツキ先輩の頭が結衣の二の腕に委ねられていた。


 服の上からも頬の柔らかさが伝わった。サラサラの髪の毛が結衣の肘にかかってくすぐったい様な気もした。匂いも可愛かった。シャンプーの香りかと思ったが違った。イツキ先輩の本体が香っていた。香水か何かつけていたのだろうか。


 きっと重吾は酔ったイツキ先輩をホテルまで送ってあげてから帰ってくるのだろう。その時のイツキ先輩は、首まで赤くなっているのだ。そして重吾は彼女の身体を支えて部屋の前まで運んであげる。

 そこで、サヨナラしてくれたらいい。そう、そこまでなら。シラフの重吾がそこでサヨナラできなかったら夫婦は本当にお終いだ。


 サヨナラできたら、夫婦は続いていく。そして同時に二人の友情も続いていく。


 夫婦の信頼を守るためにサヨナラするか、イツキ先輩との友情を守るためにサヨナラするか。


 重吾の心の中はわからない。どちらを守るために行動するのか。今夜、結衣の元に帰って来ても笑顔で迎えてあげることができるだろうか。


「友情を守るために帰って来た」


そう決めつけて、重吾をまた攻撃してしまうだろう。


 だめだ、一人でいると悲観的なことばかり考えてしまう。結衣は近所にある実家にお邪魔することにした。今日の夕飯は実家で食べさせてもらおう。手ぶらで帰るのは申しわけない気がしたので作り置きのレバー煮を持っていくことにした。

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