1-2-2 「本当、憐れなツインテールだね」
司瑞が落ち着いたところで、いよいよイベントスペースの中に。
「おじゃましまーす……」
中にいる人は、ええと……ざっと数えて、20人くらいかな?
立って話してる人もいるけど、もうだいたいが椅子に座ってるみたい。
オレと同じくらいの子もいれば、少し上の子も――あ、ちょっと下っぽい子もいる!
司瑞が言ってたとおり――うまくいけば、たくさん友達できるかも?
「あれ?」
えーっと、あの、……クラスメイト、だよね? あの子。
……少し伸びた黒い髪の、なんか眠そうな目の男子。
「司瑞、司瑞」
「ん?」
「……誰だっけ、あの、同じクラスの……」
ちょっと申し訳ないけど、ここはこっそり聞いてみよう。今聞いとけば、あとで話す機会があっても安心できるしね。
「ん? ああ、あそこにいる――男子、で合ってる?」
そうそうそう!
「えっとね、書川。あ、書川氷河! そっか、本庄、まだ話したことないかもしれないな」
「そうだね。だいたい誰かといるときは、隣の津田と緩井が一緒かな」
そっか、女子と一緒にいることが多いんだ。班も違うし、男子のグループに来ないなら――ヘタしたら、ずっと話さないまま5年生に、……なんてこともあったりするのかな。
……書川のことまだ知らないけど、それはちょっと寂しいかも。
「――それでは、ここで問題です!」
「えっ!?」
なんかクイズ始まった!
「本庄、緩井と津田――どっちがどっちか覚えてる?」
えっと――。
「じゅー、きゅー、はーち、なーな……」
司瑞! カウントしないで! 待って待って!
「ええと、髪の短い方が緩井で、結んでる方が津田っ!」
「正解!」
よし!
「……フルネームで?」
え。
「……本庄、フルネームで?」
なんか! なんか黒いオーラ出てるんだけど観上! 邪悪な顔!!
「えーと、えーと……」
「十、九、八……」
観上もそれやるの!?
「えーと! ……緩井が『るいるい』だから――『緩井るい』っ!」
「うん。……で、津田は?」
「え」
「……津田は?」
怖い怖い観上怖い、なんか知らないけどすごく怖い!!
……多分オレ、今外から見たら『ぼのぼの』みたいになってると思う。汗いっぱい出てる。
「ごめんごめん、ちょっと意地悪だったね」
……だいぶイジワルな感じだったと思うんだけど……。
「……そっか。津田、あんまり覚えられてなかったんだ」
まだ転校したてだし、そこは許してほしいな。
……ていうか二週間でここまで覚えられてるんだから、少しくらい褒められてもいいような?
「そっか――」「津田は本当、憐れなツインテールだね」
仕草も声の大きさも、なんかわざとらしく感じるのは――うーん、オレの気のせいかな?
「――あっ、また私のことツインテールって呼んだでしょ!」
遠くの方にいた津田が、ズカズカこっちに向かってきた。結んだ髪も一緒にびょこびょこ。
「あれ、聞こえてたの? ……自意識過剰なツインテールだなあ」
……なんとなくだけど、わざとらしく感じたのって――もしかして、気のせいじゃなかったりする?
「人を髪型で呼ぶなって言ってんでしょ!」
ん、『髪型』?
「それ、ツインテールっていうの?」
……なんか、津田がすごい顔でこっちを見てきた、
「うぇ、知らないの!? ……今までどうやって生きてきたの!?」
えー……?
……オレが男子だからかもしれないけど、別に今までフツーに生きてきたよ……?
――いや。
逆にもしかしたら、津田は『空気・水・ご飯・睡眠・ツインテール』くらいの勢いで生きてきたのかも。
……からかわれてもやめないくらいだし、本当にそのくらいの気持ちで生きてきたのかも。
……オレにはよく分からないけど、津田にとっての『譲れないこだわり』ってやつなのかも。
……なんか、それってかっこいい!
……うまく言えないけど、なんか……なんだか、それってすごい!
「あの、よく分かんないけど……じわじわ『感心感心』みたいな顔になるの、止めてくれない? なんか、すごくやりづらいんだけど……」
「あ、ごめん! ……あのね!」
「自分にしっかり『こだわり』があるなんて、津田ってすごいな、カッコいいな! ――って!」
「あのね、本当にすごいと思う! ちゃんとしっかり『こだわってるもの』があるの! からかわれても止めたりしないの、津田ってすっごくツインテールのこと好きなんだろうな、って思うし、きっと、なんか――それだけこだわってるんだよね! すごい! すごい素敵なことだと思う! オレあんまりそういうの無いから、だからすごく、あの……すっごくカッコいいな、って思う!」
……ええと、なんだろう。津田がすごい赤くなってるんだけど。漫画ならプシューって言いそうなレベルで、どんどん。
「えぅ、あ、そんな、こだわりってほどじゃ……あるけど……でもあの、一応、その……ありがとうっていうか……その、普段、みんな、そんなに褒めてくれないし、うー、あうぅ……」
あ、津田、普段からイジられてるんだ……。
「……本庄、近すぎ」
え。
状況確認。
……観上の声。
……蒸気が出そうに真っ赤な津田。
――津田の肩、ガシッて掴んでめちゃくちゃ顔近付けてるオレ。
「うわあああああ!! ごめん、ごめん津田ぁっ!」
そうだよね、そりゃ照れるよ、困るよ!! ありがとう観上!! ごめん津田ー!!
「いやー、おれ、本庄がそのままチューするんじゃないかってちょっとワクワク……」
変なこと言わないで司瑞!?
「やだな司瑞、そんなワケないじゃん。……ねぇ、本庄?」
観上も怖い顔するのやめて!!?
「えうぅ、ひょーがぁ……」
津田、ゾンビみたいによろよろしてる。ホントにごめん。
……なんとなく、津田のツインテールがしょぼんとしてるみたいに見える。なんか犬のしっぽみたいで――ってそうじゃなくて!
「ええと、本当にごめん! ごめんね! 津、田――?」
あ、いつの間に書川と緩井が近くまで来てたみたい。……結構騒いじゃったから、心配してこっち来たのかも。……うう、本当にごめん。
「ひょーがぁぁぁ……」
ふらぁっと寄りかかる津田を、絶妙に書川がナイスキャッチ!
ん? 書川――なんかちょっとだけ、ニコって笑ってる?
「うえぇぇぇぇ」
「レン」
あ、名前判明。
そっか、津田は『レン』って名前なんだ。おぼえとこ。……観上怖いし。
「なぁにぃぃぃ……?」
「……良かったな。ツインテール――」
ええええええええええええ!?
「ふえぇぇぇぇぇ」
書川、まさかの追い打ち!?
あ、でも――なんかちょっと、微妙にしょんぼりしてる?
もしかして、「ツインテール」の後、なにか言いかけてたり……した?
「うえええぇぇぇぇ、るいぃぃ……」
半泣きで抱きついてくる津田を、今度は緩井が優しくぎゅっ、からの「よしよし」。
……なんか緩井、津田に頼られてちょっと嬉しそうかも。
「ええと……本庄くん」
「は、はいっ!」
なんかいま身長測ったらすごく伸びてそうなくらい『シャキッ!』ってしちゃったねオレ!?
「……あの、びっくりさせてたらごめんね? レンちゃん結構照れ屋さんで……。たくさん褒められるとすぐあうあうしちゃうから、その……難しいかもしれないけど、あんまり一気に褒めないであげてほしいな」
「う、うん。ごめん」
正直、少しずつ褒めてもパニックになりそうな気がするけど……。
「……観上くんは、あんまりレンちゃんいじめたらダメだよ?」
「はーい」
「……本庄本庄」
ん?
「あれな? 観上、反省してない顔」
だよね。
「……じゃあ、そろそろ向こう戻ろっか。レンちゃん、もう平気?」
「……んん」
ぐじぐじ顔をこすって、津田が緩井から離れた。……同い年のはずなのに、なんか転んじゃったちっちゃい子みたい。緩井がよしよししたくなるの、ちょっとだけ分かるかも……?
「うんうん。――それじゃあ本庄くんたち、またあとでお話できたらいいね!」
津田たちの姿が遠くなったところで、観上が肩を叩いてきた。……なんか良くない予感がする。
「本庄」「津田――
……からかうと面白いでしょ?」
「ワルだ! ワルがいる!!」
反省してないどころじゃないよこれ!?
「……本庄」
「司瑞は何!!?」
「そんなにボルテージ全開してるとさ、ビブリオバトルの時寝ちゃわね?」
そうだった!
これ、まだ始まってないんだった――!
「はは、本庄、すごいしょんぼりしてる」
「すげー顔文字みたいだな! ほら、ぐにゃーんて落ち込んでるやつ!」
緩井るい:漢字で書くと「緩井 類」。本人はひらがな表記の方が「可愛くて好き」らしい。
津田レン:漢字で書くと「津田 憐」。ちなみに観上は漢字表記をちゃんと知っている。
観上シオン:漢字で書くと「観上 詩穏」。ちっとも穏やかじゃない。
司瑞キョウ:漢字で書くと「司瑞 鏡」。曰く、名前について「カタカナにすると名字も全部定規で書ける!」





