1-2-1 「犬! 犬だ! 犬だこれ!!」
朝にやってるテレビを観て、なんとなく、そのまま宿題なんかしちゃったりして。
……オレは土曜日の午前中を、ちょっぴりそわそわしながら過ごしていた。
――13時半に、学校の前で待ち合わせ。
時計の針は、ちょうど『12』を指している。出発するにも、まだまだ早い時間だ。
……あんまり時計気にしてると、またお母さんたちに笑われちゃうかな。なるべく気にしないように――しててもつい見ちゃうんだよなあ……。
◆
司瑞と観上と学校で待ち合わせして、自転車でいざ図書館へ!
図書館、オレの家とは逆方向だけど――駅の近くに建ってるから、何度か見かけたことはあるんだよね。なんか結構大きかったような……いやいや、そうでもなかったような?
「本庄! 駐輪場こっちだから、そのまま着いてきて」
大きな声で、観上が後ろのオレに話しかけてきた。……図書館の大きさを思い出そうとしているうちに、すっかり目的地に着いてたみたい。
隣同士に自転車停めて、スロープ昇って……来た! 図書館入り口!
……よし、入るぞ。……開け、自動ドアっ!
「本庄、はしゃいでんな」
えー。
「……だって、新しい建物に入るときって……なんかわくわくしない? ほら、ゲームでもさ、新しい町ってまだ見たことない人とか物とか、いっぱい出てくるじゃん」
「……あ、分かるかも。司瑞、初めて理科室とか音楽準備室に入ったときのこと、覚えてない?」
「あー、あの感じかあ。図書館って小さい頃から知ってる場所だし、そういうイメージ湧かなかったなあ。……本庄、ごめんね? 笑っちゃって」
そっか、二人はもう――下手したら、ずっと小さいときからこの図書館に来てたんだもんね。
そりゃ――うん、そうだ。そうだよな。
「あはは……いいよ、オレもちっちゃい子みたいに興奮しちゃってたし。……えっと、それより会場の『イベントスペース』って、どこ?」
置かれた看板には『ビブリオバトル 14時から 2階イベントスペースにて』って書いてあるけど……うーん、行けば分かるかもしれないけど、迷ったりしたらちょっと困る。
「2階の少し奥の方だよ、着いてきて」
……観上、案内役、意外と好きだったりする?
◆
観上の後ろにオレが、司瑞もなぜかちょうどその後ろに着いて、ぞろぞろ一列で階段を登っていく。
ちょうど背の順にもなってるけど……周りから見たら、お父さんがやってたドラクエの、勇者のパーティみたいに見えそうかも。
勇者観上に、司瑞は……器用そうだから魔法戦士かな。魔法戦士キョウ。
オレはなんだろう。……もしかしたら、二人に守られてる『村人』だったりするのかもしれない。
……オレ、二人と比べて『なんかフツー』な気がするし。
「本庄、ほらここ!」
「な? 結構、人集まってるだろ? ……本庄、聞いてる?」
「え? あ、ごめん!」
いつのまにか目的地だった。
……図書館来たときもそうだったけど、オレって考え事してると周りが見えなくなっちゃう方なのかも。ちょっと気を付けよう。
◆
「わー……」
ここがイベントスペースかあ。壁がガラスになってるの、外から目立って面白いなあ。
「本庄本庄」
「ん?」
司瑞がなんかキラキラしてる。……あ、なんか豆知識言ってくれるのかな?
「ここってさ、普段は休憩スペースなんだぜ」
「そうなの?」
「うん。ここならわりと音防げるからさ? お喋りしたり、お菓子ポリポリしててもいいわけ。でもイベントの時はイベントスペース。あれだな、『裏の顔』ってやつだな!」
……部屋にも『顔』ってあるのかなあ。
「司瑞はともかく――本庄、ここってガラス張りじゃない? 防音だけど中身が見えるから、ほら、なにかしてると目立つじゃない? だから、イベント事には向いてるんだと思うよ」
「そっか、『なにやってるかな?』って、気になって見に来てくれるもんね!」
「そういうこと」
……ところで、なんか袖に違和感が……?
「……司瑞?」
ええと、あんまりぐいぐいってやられると伸びるんだけど、えっと。
「そろそろ入ろうぜ? 外から見てるのもいいけど、ほら、始まったらなに言ってるか分かんないからさ! ね? ていうかおれ早くみんなとお喋りしたいんだけど本庄! ほーんーじょーおー!」
「犬! 犬だ! 犬だこれ!!」
飼ったことないけど!! でも公園とかで見る、見たことあるこういうの!!
「行ーこーうーぜー!」
「のーびーるー!」
いや入るけど! 入るけどさあ!! やり方! やり方!!
「――司瑞」
観上!
「わん!」
「ハウス」
「「帰宅命令!!?」」
イベントスペースのくだり、まだ描写が無かったからその場で書き足してたんだけど勝手に司瑞がふざけだして本来の想定してたより無駄に長くなってしまった。司瑞はよくそういうことする。