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小4男子、ビブリオバトる  作者: らと
【第一章】小4男子とビブリオバトル
2/33

1-1 「えっと、どういうメカニズム……?」

本庄(ホンジョウ)、ちょっといいかな」

 二時間目が終わった後の、最初の長い休み時間。

 何をしようか考えてたところに、ちょうど観上(ミカミ)が声を掛けてきた。あ、司瑞(シミズ)も一緒みたい?

「えっと……どうしたの?」

「あ、今週の土曜なんだけど……本庄、なにか予定ある?」

 なるほど、遊びの誘いかな?

 『土曜』ってところがなんとなく引っかかるけど――別に予定があるわけじゃないし、大丈夫。うん。

「ううん、空いてるよ」

「本当?」

 ……土曜ってことは、放課後(いつも)より長く遊べるのかな?

 だとしたら、すごく嬉しいな。二人とは、もっと仲良くなりたいと思ってたし。

「それじゃあ、司瑞と僕と――ビブリオバトル、一緒に観に行かない? あ、もちろんやる方でもいいけど」

「……ビブリオバトル?」

 聞きなれない言葉が出てきた。えーと、バトル? ……バトル?

 『観に行く』? 『やる』? ……映画? それとも、新しいゲームかなにかの名前、だっけ……。

 脳みそを総動員(そーどーいん)して記憶を探してみたけど、やっぱり思い出せない。……ていうか、そもそも知らない?

「――えっと、ビブリオバトルっていうのはね、簡単に言うと……。うーん、そうだなあ、『本のおすすめバトル』ってとこかな」

 オレが聞こうとする前に、観上が説明してくれた。……なんとか思い出そうとする気持ちが顔に出てたのかも。

「……本の、おすすめ?」

「うん。自分の好きな本を持ってきて、みんなの前で『これ読んで』ってアピールするんだよ。『ここが好き』とか、『ここが面白いよ』とか……みんなの前で色々話して、票が多いと勝ち――ってゲーム」

「へー……」

 ゲームはゲームでも、デジタルなゲームの話じゃないみたいだ。

 ……観上は本好きみたいだし、なるほど――そういうのに興味があるのは納得かも。

 オレは――本は嫌いじゃないけど、きっとそこまで『好き』ってほどでもないと思う。

 字の多い本を読むときは、朝読か図書の時間くらいだし、自分で読むのは漫画くらい。

 少し前までは『かいけつゾロリ』とか買ってもらってたけど、たまたま本屋に行ったとき、「ひとつ欲しいの買っていいよ」って言われたときくらいで、――全巻揃えたいとかじゃなくて、図書の時間に借りられなかったのとか、一回読んで面白かったのを選んで買ってもらってたくらいで。

 それも、引っ越すときにだいぶ手放しちゃったから――新しい家には図鑑とか、漫画くらいしか残ってない、はず。……なんか、ホントはもうちょっと読んだほうがいいような気がする。

 ……うん。オレってきっと、『読書離れな若者』のひとりなんだろうな。

「……ごめん。誘ってもらって悪いんだけど、オレあんまり本読む方じゃないし、行っても一緒に楽しめないかも。ホントにごめ――」「……と、思うじゃん?」

「――え?」

 オレが頭を下げようとした瞬間――司瑞が、なんだか意味深なセリフを言って割り込んできた。漫画とかゲーム(お話に出てくる)のキャラみたいに、メガネがキランと光ったような気がする。

「思うじゃん。……じゃん?」

「え? 何? ……そんな言い方されたら気になるんだけど!」

 まあまあ、まあまあまあ――とか言って、司瑞がなんだかニヤニヤしてる。気になる。

「……おれも小説とかあんまり読まないんだけどさ? ――不思議なことにさ、ビブリオバトルに行くと、読みたい本が増えちゃうんだよね。どんどん、それはもう、いっぱい!」

「えっと、どういうメカニズム……?」

 少なくとも司瑞は、観上と違って『休み時間にまで本を読んでるタイプ』じゃないということだけは確かなんだけど――。

 そんな司瑞でも、読みたい本がどんどん増える……?

 どういうことなんだろう。ちょっとだけ興味、湧いてきたかも……?

「ふふふーん、どう? 気になる? 気になるでしょ? ……一回だけでも一緒に来ない? 人数わりと来るからさ、もしかしたらあわよくば(ワンチャン)トモダチ増えるかもだし――それに本庄、まだ図書館行ったことないんじゃない? 見たことあっても、入ったことないんじゃない? うーん、引っ越してきたばっかりの本庄にはー、ちょーどいいイベントだと思うんだけどなー?」

 ムダにアヤしい勧誘っぽい。なんかメガネカチャカチャ動かしてるし、余計にそう見える。ゲームとかなら絶対ワナのやつ。だまされるやつ。トクサツにもあるかもしれない。わかんないけど。

 でも――。

 一回だけ、友達増える、まだ行ったことない場所に行ける……なんて強力な三連コンボ! ワナだとしてもちょっと気になるし、たとえ嫌でも「まあ一回だけ……」って言っちゃうやつじゃん!

 いや、別に()なわけじゃないんだけど! ワナでもないと思うし! さすがに!

 ……いや、待てよ。それがホントにワナだとしたら……!?

「そうそう、このあたりじゃ結構人気あるんだよ? 小学生はもちろんでしょ、中学生も来るし……わりと大人もいたりしてね」

 もし誘いに乗ったらオレは図書館に潜む悪の組織に捕まって、本の力を持つ改造人間にされたりするのかな……とか、ちょっとドキドキしてる間に、フテキに笑う悪者2ご……くすくす笑いのクラスメイト観上が補足解説してくれた。

 ごめん、ちょっと頭に入ってなかったかも。……えっと。

「……あ、結構色々な歳の人たちが来てるんだね」

 ……ってことで合ってるよね?

「高校生とか大学生は、小学生とは別の回が多いかな。……まあ、勉強してる人たちが『息抜き』って言って集まって来たりはするけどね。それにしても長い息抜きだけど」

 ……観上、おとなしく見えて結構毒舌っていうか――なんだろう、言いたいこと、ズバッと言うタイプだよね。本読んでること多いから、最初は『物静か』な子なのかなと思ってたけど、わりとしゃべるし、外でも遊ぶし――もしかしたら『マイペース』とか『ゴーイングマイウェイ』って言った方がいいのかもしれない。良くも悪くも『他人を気にしない性格』っていうか。でもドッジしながら本読むのはどうかと思う。しかも内野で。でも、ちゃんと上手いからすごい。

 逆に、司瑞はテンション高めだけど……実は、結構しっかり者かも? たまにさっきみたいにヘンなこと言うけど、するけど――でもただの『お調子者』とは違うような気がする。『ちゃんと考えてやってる』っていうか、本音だけど本気じゃないっていうか……。うーん、なんて言ったらいいんだろう? ……なんか将来ものすごいやつになりそうだなあ。いろんなことも知ってるし。司瑞の豆知識聞くの、実は楽しみだったりするんだよね。……たまに強烈なのもあるけど。バラムツの話とか。

 あ、でも観上も頭良いよなあ。「なんで学校ってあるんだろうね。毎日毎日、めんどくさいと思わない?」とか言いながら、フツーに勉強できてるんだもんなあ……。こないだ「プリント解くの早いね、塾とか行ってるの?」って聞いたら「え、なんで学校終わってからも勉強しなきゃいけないの……?」って謎にドン引かれたし。「オレ通信講座チャレンジやってるけど……」って言ったら真顔で「マゾなの?」とか言われたし。マゾじゃないし。……違うよね?

 ……うん。いま気付いたけど、二人とも強キャラだよね、かなり。組んだらヒャクパー『敵に回しちゃダメなやつ』だ。……二人とはできるだけ仲良くしておこう。喧嘩するつもり無いけど。

「……でさ? イバっちにさ、『なんで来るようになったの?』って聞いたら――」

「ふーん、へー、……ふーん?」

「はは、観上、絶対喰いつくと思った」

「いや――だって、ねえ? ふふっ」

 ――ん?

 気付いたら、司瑞も、観上も……オレ抜きで、なんか盛り上がってる?

 ……えっと、そろそろ返事をしておこう。このままだと、休み時間終わるまでずっとほっとかれそうな気がするし。ぼーっとしちゃったオレが悪いんだけど。

「――あの!」

 観上と司瑞が、同時にオレの方を向いた。急に声をかけたから、二人ともきょとんとしてる。

「試し! 試しに一回、でもいいなら……オレも行く!」

 きょとんとしていた二人の顔が、一気にわあっと明るくなった。


 ――試しの『一回』が『毎回』になることを、この時のオレはまだ知らない。


【幕間】

本庄「……えっと、図書館でいいんだよね?」

観上「うん。市立図書館」

司瑞「本庄、道分かる?」

本庄「ううん。引っ越して二週間くらい経つけど、一回近く通ったくらい。司瑞が言ったとおり」

司瑞「お、じゃあ本当にちょうどいい機会だな!」

観上「ね。声かけて良かったね、司瑞」

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