1-4-1B 書川の発表『FLIP-FLAP』
休憩が終わって、発表者がホワイトボードの前に集合。
順番決めのじゃんけんをして、勝った人から名前を書いて――。
◆
「それじゃあ最初は――」
────────
1 書川氷河
2 シミズメイ
3 速見トモエ
4 はるまきこるり
─────────
「氷河くんからだね。準備、できたかな?」
――書川が、「こくり」とうなずく。
……静かで、とても真剣な顔。眠そうな目は変わらないけど、眠気はきっと無いと思う。
「……よし! それじゃあいくよ」
――お兄さんがタブレット端末のスタートボタンに、そっと指を乗せる。
……なんか、不思議とドキドキする。オレが発表するわけじゃないのに。
「3」
「2」
「1――」
[ ]
――書川は、一体どんな本を持ってきたんだろう。
――書川は、一体どんな本を面白いと思うんだろう。
……書川は、一体どんな本が好きなんだろう?
『本庄は書川のこと、分かりたいって思う?』
話すよりも先に知る、書川の好きなもの。
仲良くなるより先に聞く、書川の好きなものの話。
『えっとね、書川。あ、書川氷河! そっか、本庄、まだ話したことないかもしれないな』
たぶん一度も、まったく喋ったことのないクラスメイト。
きっとお互いのこと、まだまだなんにも知らないクラスメイト。
これからトモダチになれるか、それすら分からないクラスメイト。
――クラスメイト、書川氷河。
同じクラスなのに、『同じクラスにいるだけ』だった、『同じクラスの書川氷河』。
『……誰だっけ、あの、同じクラスの……』
……ううん。『同じクラスにいたはずのあの子』。
……オレにとっての書川は、きっとまだ、そのくらいの存在でしかないと思う。
……きっと、
『もしかしたらあわよくばトモダチ増えるかもだし』
――まだ。
……なんでだろう?
ドキドキするのと同じくらい――。
……なんか、とってもワクワクする!
[05:00]
◆
[04:59]
[04:58]
さて、書川はどんな本を持ってきたんだろう?
「――みなさんは今、なにか『自分の好きなもの』とか、『ハマっているもの』ってなにか、ありますか?」
ん?
「ぼくは今、ビブリオバトルを頑張っています。自分の本を一番にさせるのは難しいけど、……でも、難しいから頑張りたくなります」
あれ?
……えっと、本を紹介するんだよね?
なんか書川、近況報告――っていうか、そういう話になってるけど……。
「――今日紹介する本は、……一言でいうと、『本気で趣味をやることの楽しさ』や、たまに『悔しさ』も描いている作品です」
……ん!?
「タイトルは『FLIP-FLAP』で、【とよ田みのる】さんが描いています」
わ! さっきの話、つまり『前フリ』ってことだよね?
書川、ちゃんと考えて話してるんだ! すごいなあ。なんか見ながら話してるけど、あれに言うこと書いてるのかな?
ってことは――わ、事前にちゃんと準備してきてるってこと?
そうだよね。いきなりやるとか、まずムリだもん。
「……漫画です。『フリップフラップ』というのは『軽く打つ』という意味みたいです」
厚みとか表紙でそんな気はしてたけど、やっぱり漫画なんだ!
そっか、漫画もアリなんだ、ビブリオバトル。……図書館で漫画の紹介聞いてるの、悪いことしてるみたいでちょっとドキドキする。
「あらすじを紹介します」「主人公は高校生の【フカマチ】。フカマチは高校の卒業式が終わった後、片思いをしている山田さんに『付き合ってください』と告白をします」「フカマチは、山田さんに『いいですよ』と言われてびっくりするのですが、同時に『ただし、それには条件がある』とも言われます」「その条件は、『ピンボールのハイスコアを更新する』ことです」
……ピンボール! だから『フリップ』とか『打つ』って言葉が出てたんだ!
こないだお父さんと一緒にやったなあ、ファミコンのやつ。焦るとすぐボール落としちゃうんだよね……。オレもお父さんみたいに落ち着いてやれたらいいんだけど、なかなか上手くできないんだよなー……。
「……ゲームセンターに記録されている【グランドチャンプ】のスコア、【三十一億二千三百六十七万三百二十点】を超えないと、山田さんは付き合わないと言います」
すごい! 今の数字、全然噛まないで言ってたよね!?
書川、もしかして読むのが上手いのかな? 授業のとき、書川が教科書読むことあったらちょっと注意して聞いてみよう。
「なぜそんな条件を出すのかというと、ピンボールは山田さんが『この世で一番大切に思っているものだから』、ということです」
『この世で一番大切に思っているもの』かあ。
すごいなあ。……オレにはあるかなあ。好きなもの、いろいろあるけど――『一番』って言えるくらいのは、もしかしたら無いかもしれない。……だからフツーなのかな、オレ。
「……それでフカマチは、たくさんのライバルより先にハイスコアを更新するために、……一生懸命頑張るようになって、そこからどんどんピンボールが好きになる――というのが、この本のお話です」
『好きな人の好きなもの』を自分も好きになるのって、なんかステキだなあ。
……そういえばオレの名前、お父さんが海好きだから『海』になった――ってお母さんが言ってたっけ。えーと、「お父さんの好きなものはお母さんも好きだから、こどものことも同じくらい大好きになれるように」……だっけ? ……うわ、オレの両親、めちゃくちゃステキな人だ!?
……お父さんの好きなものがキュウリとかだったらどうなってたんだろう、オレの名前。
「……この本のすごいところを2つ紹介します」
すごいところ。……どんなところがすごいんだろう?
「まずは、『絵に【動き】が見えるところ』です」「漫画は、……アニメとかと違って動かないものだけど、この本では、止まっているのに絵が動いているように見えるところが、たくさん出てきます」
つまり、迫力がすごい――ってことかな? どんな感じなんだろう。ちょっと見てみたい。
「例えば――」
――書川が本を開いて、まとめてページをめくる。
いくつかふせんが付いてるの、もしかして開きたいページを見つけやすくするためなのかな? ホントに準備してきてるんだなあ……。
「このページ」
あ、こっちに見せてくれた!
ほんとだ、……ボールがビュンッて飛んでて、やってる人と、台の中身と……えーと、とにかく――すごくいろいろ起きてる感じ!
……前の席でよかったかも。出してくれたページ、すごくよく見える。
「ボールが飛んでるところとか、ぶつかる音とか、……そういうのがすごく迫力のある絵で描かれていて、ボールがほんとに飛び出てきたみたいに見えます」
あ、うん。そういうこと! なんだオレ、『ビュンッ』って。『すごくいろいろ起きてる』って。ゴイリョクがないのにもほどがあるぞ、オレ。
「他にも――-」
あ、また見せてくれるのかな?
「こことか」
……わ、なにこれ!? 必殺技!?
「……台を揺らす様子なんですけど、すごい勢いで揺らしていることが、見ていてすっごく伝わってくると思います」
え、もしかして普通にプレイしてるだけなの!?
「ピンボールは一人で台に向かってやるゲームですが、『やってる側にはどういうふうに映っているのか』とか、何が起こっているのかちゃんと分かるところがすごいと思います」
そうだよね。ずっとゲームの画面――で、いいのかな? それ映してるわけにもいかないし、逆に人ばっかり映ってても何が起こってるか分からないし……。
「もうひとつは」「『登場人物の気持ちがすごく伝わってくるところ』です」
あ、次のところに入っちゃった。……気持ち?
「例えば――悔しい、楽しい、嬉しい、悲しい……」「他にも、集中してる、びっくりしてる、ドキドキしてる、興奮してる……とか」「……登場人物たちのそういう『気持ち』が、見ただけで伝わってくるのが――とてもすごいと思います」
……漫画とかなら、それって結構ふつうじゃない?
「『ストーリーがすごい予想外』とか、そういう感じの漫画ではないと思うんですけど、それでもこの漫画が面白いのは、フカマチたちがいろんな顔をするからで――読んでると、それをもっと見たくなるから、……だと思いました」
うーん――友達が楽しそうにしてるの見ると、なんか自分も楽しい気持ちになったりとか、もう少しだけそこにいたいなとか……そういう気持ちになってくる、……みたいなことかな?
うーん、でも……それ、やっぱりフツーのことだと思うんだけどなあ。
……あ、でも、予想外じゃないストーリーなのにもっと読みたくなる――っていうのは、ちょっと気になるかもしれない。……それだけ楽しそうにピンボールしてるってことかな?
「まとめです」「趣味って、……ゲームとか、そういうのはあんまり分かってもらえなかったりとか――『そんなくだらないことして』みたいな言い方されたり、……好きなものでも、周りと違うから『変』……みたいに言われることって、たくさんあると思います」
『――まだそんなの観てるの?』
『そういうの、もう卒業したし』
『こんなのがシュミなんだ』
『本庄、結構子どもっぽいっていうか――ねえ?』
「――――っ!」
やばい。
だめだ、これ。まずい。つらい――。
……だめ、違う。大丈夫。……大丈夫、大丈夫、大丈夫――じゃない、こわい、違う、悲しい、……じゃない、平気、……なわけない、違う、違う――!
――あ、だめだこれ。
やばい――。
(……本庄、気分悪い?)
――観上?
(ん、どーした観上――えっ……本庄、大丈夫? 一旦外出る?)
――あ、司瑞まで、……えっと、――。
……深呼吸。
吸って、少しだけ止めて――ゆっくり吐く。
(――いや、……ごめん。平気! ……なんでもない!)
(……ふーん)
(……もし辛くなったら、すぐ声かけてな)
(うん。……二人とも、ありがとね)
――うん。
なんでもないんだ。……なんでも。
だから、うん。……大丈夫。
……話、集中しよう。
「――――な山田さんに、こんなことを聞きます」
「”こんな無意味なことを続けていて空しくならないんですか?”」
「……それに、山田さんはなんて答えたと思いますか?」
「……”なりません”」
「――”ただ 心が震えるのです”!」
「……趣味って楽しいからやるものだし、趣味をやる理由って『楽しく思うから』だと思います。
好きなものもそうです。理由は色々あるけど、『好きだから好き』なんだと思います」
「だから」
「『なんで好き』みたいな――そういうひとの意見って、あんまり気にしなくていいんだと思います」
………………。
「……えっと、もし『自分の好きなもの』に自信が持てない人がいたりしたら、ぜひこの本を読んでみてほしいです」
「……ありがとうございました」
[00:01]
……ううん。
こちらこそ、……ありがとう、書川。
……もちろん、オレに向かって言ったわけじゃないと思うけど、それでも――。
――それでも、少し楽になったから。
[00:00]
◆
[02:00]
[01:59]
[01:58]
「はーい、じゃあ質問ある人、誰かいるかなー?」
質問タイムに入ったみたいだけど……うーん、何聞いたらいいんだろう?
『図書館で借りられますか』……いや、ふつうの漫画だしたぶん置いてないよな。『良かったところは――』……いやいや、ちゃんと書川が説明してたし。他には、えーと――。
「……はい!」
「はい、じゃあ……えーと、コルリちゃん」
――オレが悩んでいるうちに、四番目の発表者――コルリちゃんが手をあげた。
オレより年下の子は、書川にどんな質問をするんだろう?
「えーとね、
……ピンボールって、なんですか?」
「!?」
……書川、めちゃくちゃショック受けてない!?
びっくりした顔っていうか……なんかこう、雷がピシャーンってなったみたいな!
……もしかして、みんな知ってると思ってたから――『そもそもピンボールが分からない人』がいると思ってなくて、すごいびっくりしちゃってる――とか?
「……えっと、ピンボールっていうのは……、……パチンコみたいなやつで……、……玉を、こう……ぎゅーってバネで飛ばして……。……下に来たらピョンってはじいて、下の穴に落とさないようにする……ええと……」
書川、身ぶり手ぶりで説明してるけど……。
……なんだか全然伝わってなさそう。コルリちゃん、ニコニコしながら首かしげて――頭にハテナマーク浮かんでる感じだもん。「?」って。
「えっと……」
あああ、……勘違いかもしれないけど、書川――ちょっと泣きそうになってない!?
……これ、ちゃんと伝わるのかな。なんかオレまで不安な気持ちになってきた……。
「えーっと――」
「――コルリちゃん、ちょっといいかな?」
「なあに?」
現れたのは、――司瑞さんとは別の、エプロンを付けたお兄さん。
お兄さん……で、いいんだよね? 前髪長くて、顔があんまり分かんないけど……。
「ほらこれ。これがピンボールだよ」
えーと、スマホ見せながら、なんか説明してる?
「ほらここ。玉が飛んでるの、分かるかな? これをね、飛ばして、落とさないようにして――このピカピカしたのに当ててね、点数を競うゲームなんだ」
「へー……!」
「……ええと、もう大丈夫かな?」
「うん。分かった! あっ、ありがとーございます!」
よかった! コルリちゃん、ピンボールのこと、なんとなく分かったみたい。
でも書川、ちょっと『しゅん……』ってしてる……。
頑張って説明しても『伝わらない』って、……それって、すっごく辛いよなあ……。
――きっと、オレが思ってるよりずっと。
[00:02]
[00:01]
「えーと、そろそろ時間だけど――他に質問あるひと、いないかな?」
「はーい!」
「じゃあ、キョウ」
「それってさ、ピンボールのこと、なんか分かったりする? ……えっと、知識みたいなやつ!」
なるほど、『知りたがり』な司瑞ならではの質問かも。
「…………テクニックとか、技とか……、えーと……」
――本のページをめくりながら、書川が答えを考える。
「……あと、うん。……言葉の解説とか、ルールみたいな……そういうのも、ちゃんと載ってます」
書川、なんとなく面倒くさそうな顔してない? ……さっきの質問で疲れちゃったとか?
「へぇー! じゃあさ、書川が『なるほどなー』とか思ったところって、なんかある?」
……うん。書川、ミケンにしわが寄ってるね。でも、なんでそこまで――。
『前にここで話しかけた時――司瑞、嫌な顔されてたよね。書川に』
…………あ。
――キラキラわくわくした顔の司瑞と、すっごく嫌そうな顔をした書川。
オレが転校してくる前、二人の間になにかあったのかもしれない。……勘だけど、たぶん司瑞が悪いと思う。ケンカだったらどっちもギリギリした顔になってるだろうし。
「…………」
――ミケンにシワを寄せたまま、書川がまた本のページをめくる。
「……シングルハンドダブルスっていう、二人で一緒にプレイするやり方がある、……っていうのが、その、……びっくりしました」
書川、言葉はフツーだけど……なんていうか、圧がすごい。ゴゴゴゴゴ。
えーっと、司瑞は――。
「へー、そんなんがあるのか! そっか、ありがとー! あとで検索してみる!」
……うわ、全然気にしてない!! ていうかめちゃくちゃ満足そう! すっごいニコニコしてる!
なんだろう、司瑞にとっての書川ってなんかもう『そういうヤツ』って認識なんだね!?
「えー、いいかな? それじゃ、時間過ぎてるので――」
あ、とっくにタイマー『ゼロ』になってたんだ! 気づかなかった。
「――氷河くんの『FLIP-FLAP』でした。拍手!」
ぱちぱちぱちぱち……。
――書川がおじぎをして、自分の席に戻っていく。
なんていうか……うん、お疲れさま。終わったら、直接言いに行こう。
『――理由は色々あるけど、『好きだから好き』なんだと思います』
……そうだ。
「ありがとう」って、それも伝えなきゃ!
こんなに掛かると思ってなかった(挨拶)
「19日に初稿アップ(ゼロから作成)→22日に全編改稿→28日に本庄視点バージョン投稿」って感じみたいです。次のパートは下書きがある程度存在しているので今回より楽に投稿でき……るのかなあ……?
これ投稿したら活動報告に補足解説を上げるのでよかったらそっちもよろしく
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/list/userid/1366660/
(他のエピソードでもやりたい)





