プロローグ 陽射しのような眼鏡の青年
眼鏡をかけた青年が立っている。
優しい笑顔を浮かべた、春の陽射しのように穏やかで、暖かな印象がする青年だ。
「司瑞メイです。よろしくお願いします」
司瑞と名乗ったその青年は、にこやかな笑顔のまま、深々と一礼をした。
――『にやり』と、一瞬だけ。
一瞬だけ、その口元が歪む。
頭を下げる、一瞬のことだ。
この場にいるほとんどの人間――今日のために集まった参加者数十名は、そのことに気が付かない。
――否、気付くはずもない。
……一部の人間を除いては。
青年が顔を上げる。
――無いはずのスポットライトが、カッと大きな音を立てて青年に注目する。
まるで、照りつける真夏の日差しのような眩しさで。
その瞬間――普通の市立図書館だったはずの空間は、いつしか大きな劇場に。
優しい笑顔の青年は――不敵な笑顔の奇術師に。
彼を中心に、その場の全てが。
……一瞬にして、まるごと姿を変えてしまった。
もちろん、これは現実ではない。
――だが。
――本庄海ただ一人は、
目の前の現実を、そんな風に捉えている。
このあと一人称文体に変わります(事前予告)。本題であるビブリオバトルに入るまで少しかかるけど気長にお付き合いくだされば幸いです!