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3rd  The slaughter still continues

3rd  The slaughter still continues(殺戮はまだ続く)

「・・・フ・・・ロー・・・ラ・・・・・・」

 振り返ると、闇の中にうっすらと見える白い、血の色が絡んだ足。

 近付いてよく見れば、それはフローラの見知った顔。

「お母様!! 生きていたのね!? 良かった、良かった・・・・・・」

 絶望と恐怖の中で一人でいたフローラには、今は人の温もりが恋しい。それが自分の母親のものなら尚更だ。

 フローラはタタタッと駆け寄り、母親にギュッと抱き付く。

 だが、なぜか抱きしめたその体は冷たく異常に細い。

 不審に思ってその手を緩めてふと見上げれば、焦点の合っていない瞳、ガタガタと振るえながら低い音で呻く唇、全く血の気がなく青白い肌、体や服に絡んだ赤い色。

 元の姿形は同じでも、それはいつもの母親ではなかった。

 フローラはサッと青ざめて力いっぱいに母親を突き飛ばし、急いで後ろを向いて駆け出す。

『ドンッ』

 だがその先にも何かがいたのか、ぶつかったフローラは急いで見上げ、小さく悲鳴を漏らす。

「フロー・・・ラ・・・母さん、と・・・探したぞぉ・・・・・・」

 そう言ってゆらりと体を揺らしながら手を伸ばすのは、紛れもないフローラの、元、父親。

「いっ・・・イヤッ! 助けてぇ!!」

 父親の伸ばす手を振り払い、フローラはまたも迫り来る母親の影の隙間を通り抜けて逃げる。

「・・・だめよぉ、フローラ・・・・・・貴女は私達を見捨てたの・・・・・・だから・・・私たちが、捕まえてあげる・・・・・・!!」

 走って逃げるフローラの後を、両手両足を地面につけて追いかけて来る母親と父親。

 信じたくはない、これが自分の両親だとは。

 目尻に涙を浮かべ、必死に赤い水溜りを踏み付けながら走る、フローラ。そんなフローラの視界に、彼方から届いていうであろう光が見えた。

 早く、あそこまで逃げなくちゃ!! 早くっ・・・出口にっ!!


 走る。


 走る。


 そして、やっと見えてきた出口。

「つっ・・・着いた!! ・・・え・・・・・・!?」

 フローラは光の方へと走り、ようやく辿り着く。

 だが、着いた先には、ボロボロになったドールの姿。

「・・・遅かったねぇ、フローラぁ・・・・・・。・・・なんで、私を見捨てたの・・・・・・?」

 光の中のドールの、ボロボロになった姿はまるで異空間にいるような感覚を思わせ、フローラはブルリと身震いした。

 ドールは、『何か』に捕まったはずだ。何故、此処にいうのだろうか。

 そんな考えが、フローラの頭をよぎる。だが、そんな考えもすぐに中断された。ドールの手で。

 いつの間にかフローラの首にまわされた、ドールの白い手。

「・・・っ!! ・・・かっ・・・・・・!!」

 息が詰まる。苦しい。

 あの白く細い腕の、どこにこんな強い力があったのだろう。


 段々と遠のいていく意識。


 ――あぁ・・・私が、皆を見捨てたせいなんだ・・・・・・――




「・・・フフッ♪ これでまた名前が増えたね、ユリちゃん♪」

『私が殺した死者への、せめてもの餞』

 そう言って、ドールがまだマトモな理性を持っていたときに植えた白百合はドールの手によって折られた。

 不意に、その白百合を持ったドールが丘の上へと走ってくる。

 その表情は、空が晴れ渡る程の笑顔。

 ドールは丘の上の元は白百合が咲いていた場所を唐突に探り出し、ふと手ごたえを感じて引っ張る。すると大きな蓋のようなものが持ち上がり、パラパラと土を落としながら横に退かされる。

 出てきたのは、大きな棺桶。その蓋には、軽く数十人は超える人の名前が載っている。

「ンフフ♪」

 棺桶の蓋を開けながら、ドールは妖しげな笑みを浮かべている。

 中に収まっている死体の、一番上にあるそれはフローラだった。厳密に言えば、元はフローラの体だったその肉塊。それはその棺桶の中では真新しい。

 ドールはそれを満足げに眺めてから、ゆっくりと蓋を閉める。

 

 その蓋の一番下には、フローラの名前が刻まれていた。




 その頃、フローラの家の中では。


『ガタンッ』

「キャッ! ・・・え、何? ・・・ねえあなた、今の音はなんなの・・・・・・? まさか・・・・・・」

 夜の家で話をしていたフローラの母親と父親は、突然聞こえた物音に過敏に反応する。

「フローラの部屋からだ。・・・少し、様子を見に行ってみよう。一日で効果が出るとは限らんぞ」

「・・・そうね」

 二人は不穏な会話をしながらフローラの部屋の戸をそっと開ける。

「!! あ、あなた、あれ!!」

「なっ、なんだアレは!? ・・・話は、本当だったのか・・・・・・!!」

 そう言う二人が部屋で見たもの。

 ベッドに横たわるフローラの首にかけられた、フランス人形の手。既に息をしていないフローラの顔は真っ青で目は見開かれ、その首には自分の喉を掻き毟った痕がある。

 まともな人間が見れるものではない。

「あの話は・・・呪いは本当だったんだわ!! ・・・ああ、これでやっと、あんな娘を気にする事なくいつまでもあなたと二人でいられるわ・・・・・・」

 母親はフローラの死に顔を尻目に、父親の腕に自分のそれを絡める。

「ああ・・・・・・。この人形に感謝しなきゃな、せっかく高くで買い取ってきたんだたらな」

 父親もそっと母親を抱きしめ、唇を重ねる。

「いやよ、あんな不気味な人形。用は済んだんだから、さっさと捨てちゃいましょ」

「何を言ってるんだ、呪われるかもしれないんだぞ?」

 二人は戯れを続けながら、またもフランス人形を見やる。

 だが、それは何かが違っていた。

 そう、ベッドでフローラの首を締めていたはずのフランス人形が、いつの間にか移動して、二人の足元に。

 それを動かした覚えのない二人は、抱き合った姿勢のままその動きを止める。

「・・・ねえ、アレ・・・・・・」

「あ・・・あぁあ・・・・・・!! まさかっ・・・!!」

「!? あっ、あなたどうしたの!?」

「まさかっ・・・あの呪いの人形は・・・・・・っ!!」

『俺達をも殺すつもりなのか?』

 恐怖で、声を言葉に出来ない。

 ガクリと膝から床に崩れ落ちる父親。母親は床に手を付く父親に驚いてその肩に手を添え、何事かと声を掛ける。

「どうしたの!? 何があったっていう・・・っやだ、何よこれ・・・!?」

 母親が目を離した瞬間に、いつの間にかすぐ隣に移動していた人形。

 その瞳は、無表情で二人のジッと見ている。

「いやっ・・・こっちに来ないでよぉっ!! なんなのよ!!」

 余りの恐怖に、語尾を震わせている。父親は、とうに気を失ってグッタリとい母親に凭れ掛っていた。

『ギッ・・・ギギギッ・・・ギッ』

 鈍い音をたてて、人形の手がぎこちなく動き出す。そして、不意に響く声のような音。

「・・・して・・・る・・・・・・」

「あ・・・あぁあ・・・・・・!! ・・・いや・・・ごめんなさい、許して・・・・・・!!」

 ボロボロと涙を零しながら懇願する。

 だが、近付いてくる人形の足は止まらない。

 ヒタリ、ヒタリ・・・その足音は、母親のすぐ目の前で止まった。

「・・・殺してあげる・・・・・・」

「・・・・・・!!」

 ニタリ、と歪んだ笑み。手はまっすぐ母親の首へ。




 次の日。

 フローラの家の前には、何台かのパトカーが並んでいた。

 運び出される、親子3人の死体。


『昨夜未明、・・・家の家族一家が何者かによって殺害されました。調べた結果、殺害された者には、それぞれ首を締められた痕があったとの事です。また詳細がわかり次第、追って速報を・・・――』


 ビデオカメラを回す者もいた。

 家の周辺は、野次馬でごった返していた。




 その近く、家の影に、1人の少女がポツリと立っていた。

 ブロンドのロングヘアーにブラウンの丸い瞳を持ち、フリルのスカートが特徴的な、可愛らしい少女だった。

 そう、見た目はまるで、あのフランス人形のよう――・・・。

 少女はクスリと笑みを浮かべると、ほんのりと頬を赤く染めて、楽しげに呟いた。


「フフッ・・・次は、誰と遊ぼうかなぁ・・・・・・」




 殺した人間の数知れず。


 ドールの殺戮(あそび)はまだ続く――・・・。

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