2nd Desupair and scream
2nd Desupair and scream(絶望、そして悲鳴)
そのドアはその辺のものと同じく腐敗していて、少しでも衝撃を与えればもろく崩れてしましまいそうだった。
「・・・行くの?」
息の上がったフローラが、未だ前に立ってその手を掴むドールに話し掛ける。
「ここしか逃げ場はないのよ、行くしかないわ」
欠片も戸惑う様子を見せないドール。
何故だろう。
フローラにはそれが安心できるような、警戒するような雰囲気を醸し出していた。
本当に付いて行ってもいいのだろうか。
自分はそのドールと名乗る少女を、信用できるのだろうか。
『・・・ガチャッ・・・ギギィ――・・・』
フローラがそうこう考えているうちに、ドールは腐敗したそのドアを開けていた。
やはり錆びていた為だろう、ドアは不快な音を響かせながらゆっくりと開いた。
「・・・行こう」
そう言ってドールはフローラを引っ張る。
奥は真っ暗で何も見えなかったが、腐った水溜りが増え、より深くなった事を悟る。
それでも恐怖に刈られて奥へ奥へと進んで行けば、先程までの錆びやカビの匂いも一層濃くなり、鉄臭さも混じる。
「やだ・・・これ、何の匂いなの・・・・・・!?」
フローラは自分の頭の中にある答えを、ドールに否定して欲しかった。
(血・・・!? これは血の匂いなの・・・・・・!?)
「・・・奴等が・・・人間を喰い散らかしていった痕なのかも知れない・・・・・・。ほら、見て? ここの水溜り、全部血だよ・・・・・・」
掌で口元を抑え、ドールは足元の水溜りをピチャンッと音を鳴らして踏む。
その瞬間、鉄の匂いが濃くなる。
よく見れば、暗い闇の向こうで人のようなものも見える。
もう動く気配もない、人の、肉の塊。
「やだ・・・助けて・・・!! こんなの嫌だよぉ!!」
「ダメッ、フローラ、静かに・・・・・・!」
『ヴォォ・・・ヴォオオオオオオオオオオオオ!! オオオオオオ!!』
聞き覚えのある鳴き声が先程よりも大きく、近いところで聞こえる。
「・・・! 追いつかれたわ、フローラ!! 速く走ってぇ!!」
そしてまた、行く当てもなくただただ走る。
恐怖。
恐怖。
鳴き声の主の足音は聞こえないが、そいつが確かに追ってきているという確信。
段々と上がっていく、フローラとドールの息。
「・・・キャアアア――!!」
不意に響く、悲鳴。
「ドール!? ドール!!? イやァ――!!」
前を走っていたドールの脚に絡んだのは、真っ赤な血の絡んだ太い触手。闇の中に引きずり込もうと、ズルズルとドールの体を引きずる。
ドールは涙でボロボロになった顔で叫び、必死にフローラを呼びながら手を伸ばす。
助ケテ。
助ケテ。
必死に助けを求めるドールの手を掴み、フローラは渾身の力を込めて引っ張る。だが闇の奥に紛れる奴には到底力で勝てるはずもなく、無慈悲にもドールの体は奥へ奥へと引き摺られていく。
「助けてっ、助けてフローラぁ!! イやっ・・・死にたくないよぉおお・・・・・・!!」
必死にフローラの腕にしがみつくドールの力は強い。それも、生への執着だろう。
だが、フローラの腕ももう限界だった。
「もう・・・無理っ・・・・・・!!」
痛イ。
痛イ。
遂に、ドールの手を振り解いてしまったフローラ。
それが、フローラの生への執着の形だったのだろう。
絶望を湛えた顔で、血に塗れた触手に引き摺られていくドール。
見捨ててしまったフローラに後から来るのは、言い知れぬ罪悪感だけだった。
「ドールっ、ドール!! ・・・ごめん、なさい・・・・・・!」
フローラはボロボロと涙を流しながら、ドールが引き摺られて行っただろう血の痕を見つめ、今はもう届かない謝罪の言葉を深い闇に向かって呟く。
「・・・フロー・・・ラ・・・・・・?」
不意に響く、愛しい人の声。
「・・・お・・・お母様・・・・・・!? お母様なの・・・・・・!?」