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1st  Guilt

1st  Guilt(罪悪感)

 ある小高い丘の頂上、美しい白百合がたった1輪だけ凛々しく咲き誇っていた。

 風が吹けば辺りの植物はサラサラとなびき、白百合の美しさを更に引き立たせる。

 そんな白百合に近付く人物が1人。

「・・・おまたせっ、私のユリちゃん♪ ・・・じゃあ、今日もお願いね?」

 その少女はブロンドのロングヘアーにブラウンの丸い瞳を持ち、フリルのスカートをはためかせて白百合の前に立つ。まるでフランス人形の様だった。

 すると何を思ったか、その白百合の茎をベキリとへし折った。

 そして、犬歯を見せる様な獰猛な笑みを浮かべた。




 場面は変わり、中世ヨーロッパのような洋館に住む親子の風景。

 家族は、いつでも優しげな母親と、大黒柱としての暖かな威厳を保つ父親と、その娘のフローラの楽しげな光景。

 フローラは緩くウェーブのかかった茶色い髪に青い瞳を持つ、穏やかな性格の持ち主だった。

「・・・フローラ、今日はあなたにプレゼントがあるの」

 そんな中、丁度夕御飯を食べ終えたフローラに母親が優しく話し掛ける。

「え、なぁに? お母様?」

 フローラは大きな期待を胸に、母親の元へと駆け寄る。

 よく見ると母親の手には、少し大きめの、綺麗に包装された箱が抱えられていた。

「ほら、これよ。・・・開けてごらん?」

 そう母親が催促すると、フローラは嬉しそうに箱のリボンを解いていく。

「・・・わぁ!! お母様、これってフランス人形!? すごく綺麗ね!!」

 中から出てきたのは大きさ50cm程の、ブロンドのロングヘアーにブラウンの丸い瞳、そしてフリルのスカートが特徴的な美しいフランス人形だった。

 顔を綻ばせてそのフランス人形を手にとり、はしゃぎながら一通りの感想を述べたフローラに対し、母親は優しく言葉を返す。

 「フフッ・・・今日は、あなたの誕生日でしょう? だから、あなたの為に用意したのよ。・・・お誕生日おめでとう、フローラ」

 すると、フローラはその青い瞳を輝かせて母親に抱きついた。

「ありがとう、お母様!!」

「ほらほら、そんなにくっ付かないの! ・・・あっちにケーキの準備も出来てるわ、行きましょう?」

 見ると、テーブルの脇の椅子に、既に父親が腰掛けて待っていた。当然、フローラを見つめる目は優しい。

「フローラ、ほらこっちに来なさい」

 その父親に招かれフローラが駆けて行くと、その大きな腕に抱き留められた。

「・・・誕生日おめでとう、フローラ」




 そうしてその夜、暖かな家族はしばらく盛大なパーティーを繰り広げ、フローラが疲れた頃にそれぞれの寝室に戻った。

 もちろん、フローラはプレゼントのフランス人形を抱いて・・・


 そして、フローラを含めた家族全員が寝静まった頃。


 起きて

 

 ねぇ、起きてよ


「ねぇ・・・起きて・・・!! 起きてよ、フローラ・・・・・・!!」

 自分のベッドで寝ていたフローラを、何者かが激しく揺り起こす。

 肩を思い切り揺すられてやっと起きたフローラは、そこにいた人物に寝ぼけ眼で首をかしげる。

「あなたは・・・誰? どうしてここにいるの?」

 そこにいたのは、丸いブラウンの瞳を持ちブロンドのロングヘアーを揺らす少女。

 まるで、今日フローラがプレゼントに貰ったフランス人形のよう・・・

「私っ! 私よ、フローラ! ドール・・・あなたの人形、ドールよ!」

「ド、ドール・・・? え・・・? どうしたの? 何かあったの?」

「いいから速く! 速く逃げないと殺されちゃう!」

「え・・・えぇ!? 何で!? ・・・お父様は? お母様は!? 一緒に逃げなきゃ!」

 フローラは完全に目が覚めたのか、寝巻きのままベッドから飛び降り、ドールと名乗る少女の横をすり抜けてドアへと向かう。

「ダメ! ダメよフローラ! もう間に合わない!」

 そう言ってドールはフローラの手首を掴んで引き止め、急いで庭へと繋がる窓を開ける。

「何? 何が起こっているの!? ねぇドール!!」

「今は説明する時間なんてないわ! 速く出るわよ!」

「嫌!! ここ2階・・・あれ?」

 フローラはドールの手を振り払って窓から離れるが、そこから広がる風景を見てピタリと動作を止めた。

 フローラがその窓から見る景色とはまるで違っていたのだ。

 夜なら遠くの家の明かりが届き、庭の草花が揺れるはずなのだが、今の景色はまるでどこかの廃墟のような雰囲気を醸し出していた。

 赤く錆びた鉄筋が斜めに倒れかかっていたり、暗くてよくは見えないが濁ったような水が滴っていたり・・・奥に行けば行くほど、真っ暗な闇が広がっていた。

「ど、どこ・・・・・・?」

「速く! 逃げ場はここしかないの!」

 ドールはそう言って窓の外へとフローラを追いやると同時に自分も急いで窓を越える。

「嫌! お父様とお母様が・・・・・・!」

「離れて! 閉めるわよ!」

「ヤダッ・・・ヤダァ――!!」

 フローラは絶望に声を上げるが、ドールは何も聞かずに窓を外から思い切り閉める。と同時に・・・。

『ヴォオオオオオオ!!』

「きゃッ!」

 閉めた窓の中から地を割るような、何かが呻くような叫び声が大きく鳴り響く。

 それに小さく悲鳴を上げるフローラの手を引っ張って行くドールは、ズンズンと廃墟の中へと足を進めていった。


 怖い。


 助けて。誰か助けて。


 フローラは裸足で腐敗した鉄や濁った水溜まりを、ドールに手を引かれながら走り抜ける。

 母親や父親を見捨てた罪悪感よりも今自分を犯している恐怖心に抗えないフローラは、暗い廃墟の中を当てもなく彷徨っていく。




 やがて、ドールの足がとあるドアの前で止まった。

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